第26話 猿、仲間を呼ぶ

「手を出したらダメって言ってなかったっけ?」


「仕方ないでしょ! 胸をさわられたんですよ!」


「猿じゃん。猿ならいいじゃん」


「猿でも嫌なものは嫌なんです! 女の気持ちがわからないんですね! そんなんだとモテませんよ!」


「今、それ関係なくない? この状況どうすんのって話でしょ!」



 急いで服を着るライリーに文句をれながら、俺は周囲のトサカモンキーを見まわした。あっちを見てもこっちを見ても猿猿猿。


 どっからいて出てきたの?


 ここにいたるまで何の生物にも会わなかったのが嘘のように、トサカモンキーの大群が現れた。


 俺達は、臨戦態勢をとる。まぁ、俺は戦力にならないから主にセバス3とティスなんだけど。



「ちょ、ティス、一回服着ようか」


「え? 今、それどころじゃなくない?」


「うん、その通り。その通りなんだけど、全裸で鎌かつぐ美女って、ちょっとフェチが強すぎる」


「ベールだけかぶろっか?」


「そこじゃない。もっと隠すところあるから。あのね、入ってこないんだよ、話が。今から死ぬか生きるかって話をするのにさ」



 しぶしぶでティスに服を着せた。その間、トサカモンキーはなぜか待ってくれた。単純に警戒していたのかもしれないし、美女の生着替えを見ていたかったのかもしれない。


 さて、仕切り直してから、再び俺達はトサカモンキー達と対峙した。彼らはギャーギャーと騒ぎ立て、こちらを威嚇いかくしてくる。俺はセバス3の背中に隠れつつ、どうしたものかと考える。



「これ、怒ってるよね」


「怒ってますね。誰かさんが引っ叩いてしまったせいで」


「どのくらい怒っていると思う?」


「見たところ、処刑しそうなくらいには怒っているのではないかと思われます」


「猿だなぁ。倫理観が猿だなぁ」



 取り囲んで、めちゃくちゃ威嚇してくるトサカモンキーの群れ。もはや戦闘は避けられないか。セバス3とティスがいれば、少なくともこの場は切り抜けられるかもしれない。ただ、もしもこれ以上に仲間がいたら?


 十分にありえる。そもそもトサカモンキーは仲間を呼んだのだ。さらに猿仲間がいて、持久戦にされたら分が悪い。



「なんとかさ、穏便おんびんに済ませられない?」


「そうですね。あのポンコツ王女を渡すというのはどうでしょうか」


「あー、んー、それは最後の手段かな」



 後ろでライリーがやいやい言っているが、他に何か方法があるかと考えても思いつかない。既に最後の手段をとる段階に来ているのか?



「ききぃ!」


「ん?」


「きき! きぃきぃぃぃぃいききぃ!」


「あれ、この猿、何か言おうとしてない?」



 俺は、目の前で地面を叩くトサカモンキーに着目していた。彼は確かに怒っているが、ただ威嚇するだけでなく何かを伝えようとしている。


 もしかすると、穏便に解決する道があるのかもしれない。何事も話し合いで解決できればそれがいい。



「あのぉ、俺達は君達の敵じゃないんだよ。ちょっとうちのポンコツ王女が荒ぶっちゃったけど、あれは事故なの。事故、わかる?」


「ききぃ! きぃ!」


「わかんないよね。猿だもんね」



 猿の言葉がわからないのと同様に、猿も俺の言葉わからない。あれ? 言葉といえば、何でライリーの言葉を俺がわかるんだろう。すげぇ今さらだけど、そういう仕様の異世界召喚なのだろうか。


 などと、どうでもいいことを考えていたところ、トサカモンキーは、明確に意思を示し始めた。


 なんか縄を取り出してきたのだ。


 あら、文明的なのね。


 よく見ると、装飾品をつけた猿もいるし、やりを構えた猿もいる。思ったよりも文明レベルは高いのかもしれない。


 そして、そのトサカモンキーが縄をみせつけてきた理由はおそらく一つだろう。


 拘束こうそくする気だ。



「どうしますか、お父様。殲滅せんめつしますか?」


「いや、なんかおとなしくしろって言っている気がするし、今この場で殺そうとはしてないんじゃない? だとしたら、いったん従って、コミュニケーションの道をさぐるというのはどうだろう」


「なるほど。さすが、お父様です。猿にも恩情おんじょうをかけるとはまさに神のごとき寛大かんだいさです」


「いやぁ、暴力ですべてを解決するのってどうかと思うんだよね。できれば平和的に済ませたい」



 という思いが通じたのか、トサカモンキーはそれほど乱暴をすることもなく、縄を腰に回して俺たちを拘束すると、そのまま連行していった。


 べたべたと触ってくるトサカモンキーにティスがキレそうだったが、なんとか我慢してもらった。


 なりゆきではあるが、こうして俺達はトサカモンキーの集落へと向かうこととなった。 

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