第24話 定番の温泉回です ここはライリー視点でお送りします

「んー! これ、なかなか気持ちいいですわね」



 ライリーは、温泉にかりながら、ぐっと背伸びをしつつうなった。始めこそ裸になるのを躊躇ためらっていたライリーであったが、ティスがぽいぽいと服を脱ぎ捨てて温泉に入ってしまったを見て、恥ずかしがっているのがバカらしくなってしまった。


 

「ライリんのうちにはお風呂ないのぉ?」


「洗い場はありますが、こうやってお湯に浸かる風習はありませんわね」


「ふーん。こんなに気持ちいいのにもったいない。ティスはお風呂大好きなんだぁ」


「お風呂と温泉はどう違うんですの?」


「うちにあるのがお風呂で、お外にあるのが温泉」


「ふむ、お湯を家屋の中でかして入るということでしょうか。確かにそうすれば毎日この気持ちよさを楽しめますわね。城に戻ったらさっそくお風呂を造るように手配しましょう」


「あれ? ライリんはもう王女さまじゃないんじゃなかったっけぇ?」


「うっ。王女とは、生きざまなのです。そう、生き様です。私は産まれた瞬間から王女ですし、これからも王女として生きていきます。よって、私が王室から追放されたとしても私は王女のままなのです」


「そっかぁ」



 せっかくライリーが熱弁をふるったというのに、ティスはだらんと岩にもたれており、ちゃんと聞いていないようであった。その不遜ふそんな態度に、もう怒りはない。いや、人の話をちゃんと聞けよ、という怒りはあるが、王女に対して不敬という考えはなくなった。


 この人達は、そういう枠組みでは生きていないのだ。


 そんな人間が存在することをライリーはこれまで知りもしなかった。そもそも存在してはいけないと思っていた。当たり前だ、王家をうやまわない者がいては王国は成り立たない。


 しかし、今、不思議と居心地はわるくなかった。この対等な関係にライリーは気楽さを感じていた。それは、上に立つ者としての気負いにさらされ続けてきたライリーには、経験のないものだった。



「いったい何度この質問をしたのかわかりませんが、貴様達はどこから来たのですか?」


「にっぽん」


「だからどこですの? その国は?」


「どこって言われてもなぁ」


「にっぽんの者は皆、貴様のように強いのですか?」


「うーうん。ティスが強いだけだと思う。ティスも何でこんなに強いのか不思議」


「不思議って。じゃ、あの黒髪とはどういう関係なんですか? どう見ても同じくらいの年齢なのに、父親っておかしいでしょ」


「うーん、ぱぴぃはぱぴぃだからなぁ。ティスの大事な人」



 あやふやな発言の多いティスであるが、最後の部分だけはぶれることなくはっきりと告げる。そして、腕を組み直して、はぁ、と息を吐き、ティスは告げた。



「真っ暗なところ、何も見えない、何も聞こえない、何も感じられないところで、ずっとたゆたっていた、ティス達を救ってくれたの。それがね、ティスにとっては、すっごいうれしいことだったの。感謝してもしきれない。だからぱぴぃのこと、大好きなんだ」



 それは、ライリーには理解できない話だった。もしかするとティス本人もわかっていないのではないのだろうか。しかし、嘘を言っているようにも思えず、ライリーはただ漠然ばくぜんと問い返した。



「貴様は、本当にいったい何者なんですの?」


「ティスはティスだよ。ぱぴぃことが大大大好きなティス。それ以外なくないぃ?」


「はぁ。まぁ、それでいいですの。とにかく私を地上へ連れていってくだされば何でも」



 ライリーは、そう言ってから立ち上がり、温泉からあがろうと足場を確認した。


 だが、ふと気づき、



「きゃっ!」



 と叫んで、ざぶんと温泉の中に身を隠した。



「ちょっと、お湯かかったじゃないのぉ」


「今、あっちの方に誰かいましたわ」


「え? ぱぴぃかな」


「やっぱり、あの黒髪悪魔! 私の裸を見るのが目的だったんですわ。そうですわよね、こんなに美人な女の子が裸でいたら、覗きたいって思いますものね。これだから男は!」


「おーい、ぱぴぃ。覗いてないで、こっちきて一緒に身体からだ洗いっこしようよぉ」


「だめに決まっているでしょ!」



 ティスが理解できない行動をとる一方で、湯気の中の人影は近づいてくる。このままではおかされてしまう、とライリーは近くにあった小石をひっつかんで構えたところで、その姿はあらわになった。


 だが、それは、ライリーの言うところの黒髪悪魔ではなく、そもそも人ではなく、もっと毛むくじゃらの生き物だった。



「猿?」

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