第23話 温泉だぁ!

「温泉だぁ!」



 こぶしをあげて、ティスは喜びの声をあげた。


 かたつむりではらたした俺達は、しばらく休んでから再び先を進んだ。すると洞窟に小道があり、そこから湯気が出ていた。まさかと思い、覗いてみると、そこには水たまり、いや、お湯たまり、つまり、温泉があったのだ。



「洞窟の中に温泉があるなんてね。溶岩が近くにあったから、そこまで不思議じゃないかもだけど」


「何でもいいよぉ。やったぁ。もう臭いがやばかったもん。そろそろ身体洗いたかったのぉ」


「そう? 一応スライム水で身体は洗っていたけど」


「違うの。丸洗いしたかったのぉ。温水でぇ」



 確かに。


 溶岩の熱がこもっていて最初こそ冷水が気持ちよかったけれど、温度が下がってくると、冷水はつらくなってきた。



「じゃ、ティスがいちばーん」


「待ちなさい、ティス。まずはお父様から入られるべきでしょ」


「えー、じゃ、一緒に入ればいいじゃん」


「まぁ、それならばいいですが」



 え?


 ティスとセバス3の会話に俺は混乱する。何がいいの? 温泉に一緒に入るのが? ティスと? よくなくなくなくなくない?


 俺が困っていると、ティスはにやにやとして俺の隣に寄ってきた。



「どうしたの、ぱぴぃ? ティスと一緒に温泉入るの嫌ぁ?」


「嫌じゃないけど、ほら、恥じらいって大事じゃん」


「ティス、その言葉知らなーい」


「覚えよ。大事な言葉だから」


「ねぇ、洗いっこしようよ。ぱぴぃの、ティスが洗って、あ、げ、る」


「そんな伏字ふせじみたいに使わないで。ドエロい言葉みたいに聞こえるから。もっと奥ゆかしい言葉のはずだから」


「ティスの恥じらい、も洗ってほしいな。できれば、奥の奥のまで」


「あー、だめだ。もう全部エロい言葉に聞こえる」



 俺の心が汚れているからか。あぁ、どこかに心を洗う温泉はないものか。


 ティスが俺をからかっている最中、ライリーがきょとんとしていた。彼女は、俺達が何を言っているのかわからないようだった。



「貴様達、いったい何をしようとしていますの?」


「あー、この世界には温泉の文化ないのかな。水浴びだよ。この温泉に裸になって入って身体を丸洗いするんだ」


「あー、水浴びですの。って、裸ぁ!?」


「うん。あ、でも、丸洗いって言っても入る前に汚れは落とすのがマナーだね。温泉は洗うことよりも、その温かさで血行をよくすることが目的だからね」


「待ちなさい。私はまだ裸のところで止まっているでしょ。話を進めないでくださる?」


「? 裸じゃないと服が濡れちゃうでしょ?」


「何を当たり前みたいな顔をしているんです? 人前で裸になんてなるわけないでしょ! は!? 貴様、私の裸を見て欲情したいがために、私に嘘を教えようとしているんでしょ! このスケベ!」


「いやいや、俺はスケベじゃないよ。今、男女分けて温泉に入ろうって話をしていたところだから。女同士ならばいいでしょ?」


「まぁ、それならいいですが。ただ、さっきまで、その暴力シスターと一緒に温泉に入る話をしてませんでしたか?」


「全然。全然してないよ?」


「そうですか? 内容はわかりませんでしたが、ずいぶん卑猥ひわいな話をしていたような気がしましたが」


「気のせいだよ。心が汚れているんじゃないの? 俺達は、卑猥とは正反対の恥じらいと奥ゆかしさの話をしていたんだ」



 ティスが不満そうな顔をしていたが、なんとか納得させて、女性陣と男性陣で別れて温泉に入ることで落ち着いた。辺りを見ると小道はいくつかあり、別れることは容易だった。温泉ごとに効能が違ったら、温泉巡りでもしたいところだが、全部同じだろうな。


 俺はセバス3と一緒に近くの小道に入った。かなり広い温泉。整備されているわけではないので足場がわるいのだけは要注意だ。手を入れてみると温度はちょうどよさそうである。


 

「いやぁ、久しぶりにゆっくりできるね」


「そうですね。ここしばらく歩き詰めでしたから」


「食糧不足で焦っていたからね。はー、疲れた」



 セバス3は、俺が服を脱ぎ始めたのを見てから、自分も服を脱いだ。そんな気遣いいらないのだけど、彼がそうしたいのならば尊重する。



「あの、お父様」


「ん? 何?」


「もしもお父様が望まれるのであれば、洗いっこ、私としませんか?」


「え? え!?」


「私の勘違いかもしれませんが、ティスに洗いっこを提案されたときに迷っていたような気がしましたので」


「……、いや、えーっと、その、あー。じゃ、しよっか」


「はい! ぜひ!」



 この後、セバス3とめちゃくちゃ洗いっこした。


 背中を!

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