第19話 橋の上での攻防戦 もちろん「まる」と読みます

 まったくの予想外の展開。絶対に渡れないと思っていた溶岩の谷であったが、なんと橋がかかった。ピンチをチャンスに変えた結果だ。


 何事も諦めなければ道は開ける。いや、ほんと、諦めちゃだめだね、何事も。


 さぁ、あとは渡るだけ、のはずだったのだが。


 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」



 俺達は、橋の上を全速力で走っていた。


 その理由は単純で追われているからだ。何に? ドラゴンに。


 ティスが大鎌でドラゴンを一度ぶん殴って牽制けんせいしてから、俺達はいっせいに橋の上をけた。ただ、みな疲弊ひへいしていた。セバス3は魔法の使用後だったため、すさまじく疲弊していたが、なんとかふんばっている。ライリーも術式の展開に魔力を使ったらしく、顔色がわるい。俺はいわずもがな。


 それでも、走るしかないので走った。


 ドラゴンは俺達を見逃すつもりはないらしい。洞窟から抜け出してきて、ついに翼を広げ、溶岩の谷を自由自在に飛び回っている。その辺を飛び回るコウモリを気にするふうもなく蹴散けちらし、ただ俺達を狙っている。



「ちょっと貴様! おとりになって橋から落ちなさいよ!」


「何で俺なんだよ! おまえが落ちろよ!」


「下民が王女を助けるのは当然でしょ!」


「ていうか、おまえ、俺にしか言わないよな!」


「他の二人怖いんですもの!」


「正直だな!」


「この橋、さっきから揺れているんですが、強度は大丈夫なんですか!?」


「壊れる前に走り切れ!」


「ばかぁぁぁぁぁぁあ!」



 俺とライリーは一心不乱に走った。これが全力のティスやセバス3ならば逃げ切れただろうが、所詮、俺達は人間の域を出ない。当然、ドラゴンに追いつかれる。


 制空権をとったドラゴンとか、マジでやばいんだけど。


 

「ちょっと、本気になっちゃおうかなぁ」



 そのとき、ティスが足を止め、振り返った。



「何やってんだ、ティス!」


「先行ってて、ぱぴぃ。こいつらに一発かましてやるから」



 そう言って、ティスは鎌を立てる。彼女の周りの雰囲気が変わる。魔力があふれ出てくるようだ。まさか、魔法? セバス3のように彼女も魔法が使えるのか?


 ティスはつぶやく。



「Live by the sword, die by the sword。カルマをあなたに返します」



 くるりと鎌を返し、空から襲いかかってくるドラゴンに向けて、ティスは優しい視線を向ける。


 そして、鎌を一振りした。



「お月様まん〇斬り」



 何が起きたのかわからなかった。俺にはティスが何をしたのかもしばらくわからなかったのだが、おそらく斬ったのだろうということはわかった。しかし、何事もなかったかのように皆が動き続けたのだ。失敗した? そう思った矢先。


 世界がななめにくずれた。


 足の下で溶岩が裂け、谷の岩壁に亀裂きれつが入る。空間ごと切り裂いたかのようで、その間にいたドラゴンは、もちろん真っ二つに裂けて割れた。


 

「レクイエム ドーナツ アイス」



 ティスはまた意味のわからないことを言って、そして後ろ向きに倒れた。


 

「大丈夫か? ティス!?」


「ぱぴぃ。先に行ってって言ったのに」


「バカ、おまえを置いていけるわけないだろ」


「ぱぴぃ、好きぃ」



 俺はティスを抱えて、再び走った。もう体力は残っていないが、ここで足を止めるわけにはいかない。なぜなら、



「ごめん、一匹、逃がしちゃった」



 空にはもう一匹ドラゴンがいる。仲間がやられて警戒したのか、距離をとっているが、いつまで待ってくれているか。


 しかも、それだけではない。



「何か橋が斜めってないか?」


「あ、さっき橋も斬っちゃったかも」


「……っ! ふーっ。走れ!」



 俺はほとんど自分に向けて叫んだ。振り返るとセバス3も俺を心配そうに待っていた。それをねぎらう時間もなく、俺はひた走る。ライリーは俺達のことを振り返る様子もなく、前を走っていた。掛け値なしの人でなしだ。ドラゴンに食われてしまえ。


 橋が後ろに倒れていく。だんだんのぼり坂になる。ただ、あと少しなんだ。ティスの稼いだ時間を使って渡り切れ、俺!


 もう少し、もう少し、もう少し!


 荒い息。


 励ましてくれるセバス3。


 目の前には希望がある。だが、背後には絶望があった。


 聞こえてきたのは唸り声。


 

「くっそ、諦めろよ!」



 ドラゴンが、迫っていた。背中に鼻息がかかっているかのような感覚。


 逃げ切るのは、無理、だ。


 俺は振り返る。そこにはドラゴンの顔。クリスタルの瞳、でかい鼻、猛々たけだけしい牙。目算もくさんがあまかった。こんなのから逃げ切れるわけなかったのだ。



「死んだ、か」



 そのときだった。


 が足の下から吹きあがり、ドラゴンの姿を呑み込んだ。

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