第10話 えっちな修道女 シスター・ティス登場!

「まさか、あなたの世話になるとは。シスター・ティス」


「あはは、何しけた面してんの。困ったときはお互い様じゃん」



 愉快そうに笑う修道女に、セバス3は苦々にがにがしい顔を向けた。単純に魔力切れでつらいのかもしれない。いや、このワーム鍋がくそまずいからかもしれない。というか、そうだろう。


 

「なぁ、本当にシスター・ティスなんだよな」


「そうだよ、ぱぴぃ。ティスの顔忘れちゃったぁ? ほら、もっとよく見て?」


「うん、ちょっと離れて。近すぎて見えない」


「えー、ティスと離れたいの? ひどーい。じゃ、こっちはどう?」


「ぱふん」



 シスター・ティスは、そのふくよかな胸に俺の顔をぐいとうずめた。



「ほらぁ、ティスのこと思い出してくれたかな?」



 いや、思い出すも何もこんなうれしい、いや、けしからん記憶ないんだけど。ないけど、もしかしたら何か思い出すかもしれないからしばらくこうしていよう。



「こら、ティス。お父様が困っているでしょ。放しなさい」



 セバス3、余計なこと言うな。



「えー、ぱぴぃ、ティスのお胸嫌むねきらい?」


 

 そんな奴この世にいんの?


 

「ん、んん、ま、まぁ、あれだよ。話の途中だったしぃ? 嫌なわけじゃないけどぉ? いったん離れて、うん」



 あー、すっごい名残惜なごりおしい。けど、なんかわるいことしている気がするから、ちょっと落ち着こう。



「で、ティスは、今までどこにいたの?」


「え、わかんない。あっちの方?」



 ティスは、ベールの下の髪をくるくるといじりながら答えた。あっちというからにはせめてどこかゆびさしてほしいところだが、彼女らしいといえば彼女らしい。


 シスター・ティス。


 セバス3と同じく俺が作成したアバターで、Vtuberとして活躍していた。彼女も人間ではなく虫人。カマキリモデルだから鎌を持っているという安易あんいな設定だがわりと人気だったと聞く。何度か配信を見たことがあるけれど、確かにこんなかんじだった。


 それにしても、セバス3の他にもVtuberがいるとは。


 確かに可能性として考えておくべきだった。Vtuberのアバターはけっこうたくさん創ったはず。セバス3だけこの世界にいると考える方がおかしかった。


 

「なんかね、ずーっと寝てたんだけど、急にパッと目が覚めて暗かったの、気づいたら。あ、でも、間接照明っぽかったかも、ちょっとオサレくない? この辺さ。それでさー、すっごい虫いっぱいいてきもくてさ、もう、サイヤク。いやーってなって、おりゃって全部、天にされーってしちゃった」



 しちゃいましたか。


 そんな申し訳程度のシスター設定を差し込まなくてもいいんだけど。



「まぁ、いいや。とりあえずティスもここで暮らすってことでおっけ?」


「もちだよ。ぱぴぃと一緒に暮らせるとか、マジでハッピーライフじゃん」


「はぁ、正直、心強いよ。セバスがこんな状態だから、生きた心地がしなくて」


「あはは、意味わかんない。ティスが生きた心地させてあげよっか? こっちおいで」



 うわーい、行きたーい。


 と思ったけど、セバス3が見ているから、自重じちょうしよう。気にする必要ないかもしれないけれど、彼の前ではちょっと気取っていたい。



「こほん。戦力はティスがいれば大丈夫として、また、家具とか拾ってこなきゃな」


「え? 家具とかあるの?」


「あぁ、何かいろいろ捨てられているみたいなんだ。今、ティスが座っているイスもそうだよ」


「えー、いいじゃん。ティス、ベッド欲しい。ふかふかのベッドで寝たい」


「いいね。でも、重いのはセバスが回復してからかな」


「いやー、今、ほしい。今から探しにいこ」


「今?」


「ね、いこ」


「でもなぁ、ワーム倒して疲れたからなぁ」


「パピぃ、ティスと一緒に寝たくないの?」


「……、よし、行くか」



 下心とかないよ。ほんと。あれだよ、再会記念? せっかくティスに会えたんだし、何かお祝いしないと。


 セバス3の視線が痛かったのだけど、今日だけは無視させていただいた。

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