第5話 看病イベントです

「おそらく魔力切れでございます」



 何が起こったのだろうか、という俺のといに対して、セバス3は言いにくそうに答えた。


 

「魔法を使うには魔力が必要です。もしも魔力が足りない状態で魔法を使うと生命力を代わりに使用します。お父様が使用した生成魔法モデリングは大量の魔力を要すると思われますので、きっと魔力が足りず大幅に生命力を使われたのかと」


「生命力がなくなるとどうなるの?」


「死にます」


「死ぬのかー」



 調子にのって死にかけたらしい。



「申し訳ございません。私があのとき止めていれば」


「いや、セバスのせいじゃないよ。俺が考えなしに魔法を使ったのがわるいんだし」



 自然と魔法と言ったが、もうその理解でいいだろう。俺が使用できるチート能力・モデリングは魔法で、作成した3Dモデルを現実に創り出すことができる。ただし、大量の魔力を要するし、俺の場合、使い果たして気を失ってしまう。


 使えねぇ。


 そんな制限いらないんだよ。無制限に作れるようにしておけよ。チートってそういうもんじゃん。


 聞いたところ、俺は二日も目を覚まさなかったらしい。セバス3がいなかったら間違いなく魔獣のえさになっていたことだろう。それは最初からだけど。



「ごめん、迷惑かけたね」


「何をおっしゃいますか。お父様のお世話をするのが私の役目です」



 創造主だからしたってくれる。その設定は相当強いようだ。今はうれしいし助かるのだけれども、セバス3のことを考えると少し戸惑とまどってしまう。それは彼の本当の意思なのだろうかと。洗脳とは言わないけれど、個人の思想を曲げてしまっていやしないかと。


 まぁ、考えても仕方がないことだけどさ。



「そういえばナイフは?」


「はい、ここに」


「あ、消えなかったんだ。よかった」



 俺が気を失ったら消えるとか、時間経過で消える可能性はあった。しかしまだ消えていないとすると、本当に物質を創り出しているらしい。



「使ってみた?」


滅相めっそうもありません。お父様が命をけて創造なされたこの宝を使うだなんて。今、神棚かみだなを作ってかざろうと考えておりました」


「いや、使ってよ。使うために創ったんだから」


「そうですか。わかりました」



 なぜか残念そうなセバス3は、だからといって躊躇ためらう様子はなく、果物にナイフをさっと刺した。彼の使い方がいいのか、その切れ味はよさそうで果物の皮はきれいにかれ、は一口サイズに切りそろえられた。



「すばらしい切れ味です」


「そのようだね。よかった。肉の解体はこれで楽になりそうだ」


「一口どうぞ」


「あ、ありがとう。……これ、何て果物?」


「名前はわかりませんがナシの一種だと思われます。安心してください。私が毒見しております」


「そう」



 うながされて食べてみたが、確かにナシのような味がした。肉ばかりだったので果物は普通においしくかんじたのだが。



「味ぜんぜんしないね」


「自生している食物ですのでこのくらいかと」


「品種改良の偉大さよ」


「具合がわるいとき、味の濃い食べ物はさわります」


「あぁ、文句を言ったんじゃないんだ。ただの愚痴ぐちだよ」


「どう違うんですか?」


「対象が違う。文句は人に対してぶつけるもので、愚痴は世界に対してこぼすものだ」


「なるほど、深いですね」



 めっちゃテキトー言ったんだけど。まぁ、いいや。セバス3もそんなまじめに聞いていないだろう。それよりまじめな話をしなければ。



「なぁ、魔力ってどうやったら増えるんだ?」



 魔力が少ないからナイフ一本作るのに生死をさまよう。ならば魔力を増やせばいい。そんな単純な発想から出た質問に、セバス3は単純な答えを返してきた。



「魔獣を食えば増えます」


「そうなの?」


「はい。現にお父様の魔力はこの数日で増えています」


「え? マジで?」



 あー、それでモデリングの魔法を使えるようになったのか。必要な魔力がなければ魔法に気づけないと、そういう理屈だろう。



「ていうか魔力量ってどうやったらわかるの?」


「感覚、としか言いようがないですね。においの強さを感じるのに近いです」


「感覚かー。俺もわかるようになるかなぁ」


「なりますよ。お父様ならすぐです」



 その期待のされ方は困るな。がんばらなきゃいけなくなる。どうがんばればいいかわからんが。


 とりあえず魔獣食べよう。

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