第3話 Vtuber セバス3

 奈落に落とされてから10日くらいがっただろうか。謎の緑色の発光体が一日中照らしているのでここには夜がない。そのため時間の感覚がなくなるがきっとそのくらいだろう。


 俺は、なんとか生きのびていた。


 最初は、もう絶対だめだ、どうか次は異世界ハーレムものの主人公に転生できますように、とせつに願っていたのだけれども、人間というのはしぶとい生き物のようでこんなところでもなんとか暮らせている。


 そうは言っても、俺一人だったらムリだっただろう。ここで生活できているのは、ひとえに、目の前で兎らしきものを仕留しとめているタキシード男のおかげである。



「お父様、今日のお食事を手に入れましたよ」


「うん、そうみたいだね」



 まだお食事ってかんじになってないから。もう少し加工してからそう呼ぼうか。倫理的にさ。こんな森の中でそんなこと気にしても仕方ないけど。


 セバス3


 タキシード男の名前である。


 白髪のイケメン。タキシード姿が似合う長身。背筋をすーっと伸ばしていてしっかり着こなしているのがすごい。ただ、人間ではない。その証拠に頭に巻き角がついている。


 獣人。そんな種族がこの世界にいるのかどうかわからないが、少なくとも彼はそうだ。


 なぜそんなことを俺が知っているのか。


 それは、俺が彼の製作者だからだ。



「血抜きと解体は俺がやるよ」


「いえ、お父様にそんなことをさせるわけには」


「いいって。セバスが作業すると他の魔獣が襲ってきたとき危ないじゃん」



 俺はセバス3から兎を受け取った。肉の処理に関する知識なんて俺もセバス3も持ち合わせていなかった。だから手探り。試行錯誤の末、なんとか慣れてきたところだ。



「申し訳ございません。私にもっとサバイバルの知識があればよかったのですが」

 

「ないものをやんでも仕方ないよ。執事しつじ設定だしな。それに、もともとインドア派だったもん」


「そうでしたかね?」


「いや、いいのいいの。こっちの話」



 ヤギのイケメン執事。そこは羊じゃないのかと尋ねたら、それじゃありきたりでしょと元居た世界のセバス3は言っていた。その設定が活かされたところは見たことがないけれど、少なくとも動画配信サイトMeTubeで放送される彼の番組は好評だった。


 Vtuber。アバターを使ってMeTubeで活躍する人のことだ。ちょうど流行はやり始めたとき、駆け出しのCGデザイナーだった俺はアバターを作って生活費を稼いでいた。


 そう、つまり、セバス3のアバターを作ったのは俺だ。


 そして、セバス3は、今、俺の後ろで手伝いたそうにそわそわしている。


 ……まぁ、お父様、ではあるかな。


 いや。いやいやいや、そこじゃなくて。何でVtuberが現実にいるのかってことなんだけど。現実? あ、異世界か。いや、異世界だからってVtuberがいていいわけじゃないだろ。


 しかも、Vtuberの中の人がアバターの姿で異世界召喚されていた、とかそういうことでもなく、ユニークな人格となして存在している。性格は似ているから、ロールプレイしている可能性もあるが、数日話したかんじだとまったくの別人格。


 何じゃこれ?


 ということをぐるぐると考えた結果、敵じゃないからいいか、というところに落ち着けた。


 悩んでも仕方ないしね。


 当面の課題は、兎肉の解体である。



「せめてナイフがほしいよな」


「そうですね。一応、ゴミの山の中から折れた剣をみつけましたけれど」


「錆びてるもんね。ぜんぜん切れない」


「申し訳ございません。私がナイフのように鋭い手刀を繰り出せればよかったのですが」


 

 それができたから何だ、と思ったが言わなかった。セバス3はわりと天然のようでとりあっていたらきりがない。


 だが、ナイフはほしい。あるのが当たり前な世界で生きていたから、たかがナイフがどれだけ便利で、かつ、作るには難しいものなのかということを今さらながら思い知らされる。


 3Dモデルでならば刃物を作ったことはあるけれど。セバス3がいるんだから、あの剣とか槍も出てきてくれればいいのに。


 などとないものねだりをしたときだった。



「マジ、か」



 俺の眼前にウィンドウが表示された。そのUIは慣れ親しんだものであり、よく使っていたCG作成用のソフトであった。その瞬間に理解する。



「これが俺のチート能力ってわけか」

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