第2話 いきなり魔獣に襲われて
恥ずかしながら、生きておりました。
「ごほっ! ごほごほっ!」
気が付いたら、俺は
「生きてたからって、生きのびられるわけじゃないけど」
俺は
ゴミ捨て場としても使っているのだろうか。おそらく地上で使われていたであろう椅子や
「うわっ!」
何気なくこつんと蹴飛ばしたものが、こちらを見ており、俺は声をあげた。白くて丸く穴ぼこの固形物は、いわゆる
俺のように奈落に捨てられた者のなれの果て。生きているだけで、俺は運がよかったらしい。
まぁ、このままだと俺がこうなるのも時間の問題だ。あるのは湖と森。現代日本で社畜をしていた俺にサバイバル術なんてあるわけもない。
あ、でも、サバイバル術はないけど、チートはあるかも。
だって、俺、異世界召喚されたんだし。
こういうときって、生きていく上で都合のいいチート能力が
「ステータス!」
とりあえず
もしかして不死身とかそういうやつ? 試してみ……るのはむりだな。怖いし。違ってたら困るし。
ぐーーー。
異世界でも腹が減る。何はともあれ飯だな。もうずっとまともに飯を食っていない。チートがあるかないかは後で考えよう。
「魚って釣れるのかな。果物探した方が早いか。実をつける木があればいいけど。そもそも今、実がなるような季節なのかな」
何にもわからん。けど、動かないと
グルルルルッ!
このとき、俺はほんの少しポジティブだった。異世界に来ていきなり捕まって殺されかけて、もう嫌だ帰りたいって思ったけど、今、誰もいないところでちゃんと生きている。ここから俺の異世界充実ライフが始まるんだ! と。しかし、なけなしのポジティブさは
いや、
二つの言葉の違いが何なのかわからないが、俺は
「その角さ、絶対実用性ないよね」
混乱した俺はわけのわからないことを口走っていた。強引に理由付けするならばコミュニケーションをとれないか試したのだ。まぁ、仮にコミュがとれたとして友好な関係を築ける内容だったかはともかく、魔獣は言葉を解さず、爪で岩をかき鳴らす。
「いや、
もう一度、魔獣が爪をたてた瞬間、俺は振り返り一目散に逃げ出した。
同時に魔獣が吠えて、金属音を
湖の中に跳び込めばなんとか助かるか?
そんな思考のもとで走ったのだが、足場がわるい。俺は岩を踏み外し、ごろんと横に転がった。
「痛っ!」
しかし、それで命拾いした。たった今いたところを魔獣の牙が通過する。まったく逃げられていなかった。人と魔獣。速さなど比べるべくもない。
あ、これ、今度こそ死んだんじゃない?
なんなら奈落に落ちたときに死んどいた方がよかった説あるよね。そっちは絶対即死だし。生きたまま魔獣に食われるとか、どんな拷問だよ。いや、魔獣は俺に聞きたいことなんてないだろうけど。
だぁ! 今こそチート能力発動しろ! なんか、すんごい力で魔獣を打ち倒せよ!
しかし、待てど暮らせどチート能力に目覚めることはない。そもそも待つ時間も暮らす場所も今の俺にはない。
ただ、ほんの
ガコン
「え?」
足場が崩れた。
魔獣の重さに耐えられなかったのだろうか。岩場が崩れ、俺は岩の隙間へと落ちた。
「これはこれで、痛いんだけど」
しかし、魔獣は視界から消えた。隙間は小さな迷路のようになっている。俺は痛い身体をなんとか動かし、隙間を
岩、ゴミ、岩、岩、ゴミ、ゴミ、ゴミ。なんとかかき分けて歩いていったところ、俺はあるものに目を
ふとすると、ここに来ることが運命づけられていたかのようだ。淡い光が
氷のような白い半透明な柱が横たわっている。捨てられたゴミの山の中。さきほど岩が崩れた衝撃で滑り出てきたのか。
中が
この世界の文化に合っているのか疑わしいその姿に、俺は、俺は見覚えがあった。
「何で、ここに?」
混乱する俺をよそに、背後から唸り声。見れば、魔獣の姿。こんなゴミ山の中から俺を見つけ出したのか。
さすがに、さすがに、俺はこの不条理に叫ばずにはいられなかった。
「あぁ! 何なんだ! この状況! おまえも俺なんか食おうとすんなよ! 他にいっぱいいんだろ! って言っても無駄だもんな! 魔獣だもんな! あぁくそ! 誰かこいつなんとかしてくれ!」
誰もいない虚空に向かって俺は叫んだ。
「お任せください、お父様」
背後。柱が明滅をやめ、一度強く発光した。次の瞬間、柱は水となり溶けてなくなり、一人の男が立っていた。
「おまえ、その、声は」
「お話は後で。失礼致します」
言うなり男は俺の身体を抱えて、かるく跳び
「お父様に手を出すとは
男は俺を降ろし、タキシードを一度整えると、再び軽やかにステップを踏み、魔獣に向かっていく。魔獣もそれに気づき、牙を向ける。が、男の方はひるむことなく簡単にかわして魔獣の横腹にすべりこむ。
そして、蹴り飛ばした。
文字通り、蹴って、飛ばした、のだ。
高く空に蹴りあがった魔獣は地面に落ち、一度はびくんと身体を震わせていたが、その後、立ち上がることはなかった。
たった一撃。
いや、一蹴りか。一蹴りでタキシード男は、魔獣を撃退してしまった。
え? こっちの方がやばくない?
明らかに魔獣よりもやばげなタキシード男は振り返り、俺の方へとつかつかと戻ってきた。
正直、魔獣より怖い。
けれど、怖いけれど、一つだけ、どうしても確かめなければならないことがあった。
「おまえ、セバスさんなのか?」
俺が尋ねると、タキシードの男はぱちぱち目を瞬かせてから、うれしそうに返事をした。
「はい」
彼は、腰をぬかしている俺に対して、にこりと微笑み、そして、すっと片膝をついて頭を下げた。
「お待ちしておりました、お父様」
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