#4 紫陽花の色彩

紫陽花みたいな人だった。紫陽花が土の酸性度に応じて異なる色の花を咲かせるように。付き合う相手の色に染まる貴女。軽いな。貴女はそんなんじゃない。そんな色似合わないのに。私の理想を勝手に押し付けていた。

雨糸の衝撃で大地は空から遠ざかった。太陽は見えない。雨の重みに項垂れる花・葉。浅い水たまりには何も映らない。鈍色の空から女の子は降ってこない。水を含んだ空気で溺死しよう。緩やかに鋭くない湿った死。一緒に死のう。貴方が変わってしまう前に。永久に保存してしまおう。傘なんていらない。丸い骨でダンスを踊る。ヒラメが空を泳ぐ。音が街を置き去りにして。私たちの鼓膜は引き裂かれる。雨が孤独を作る。心臓の音が雨とリンクする。雨がアスファルトを打ち鳴らす度に世界は暗転した。明転すると狂った漫才師たちが一斉に飛び出してきて、それぞれがつかみを始めた。観客は私だけ。貴女の話題でネタが披露されて、私は笑わなかった。とんでもなく喜劇的な一幕だった。無音の映画を眺めるみたいにポップコーンを床に叩きつけた。喉が渇く。こんなにも湿っているのに。水は周囲にたくさんあるのに。喉が渇く。雨では渇きは満たせない。水を、甘やかな水を。貴女の飲みかけのいろはす。貴女が飲み終えた朝露。貴女がこれから飲む夕霞。雲は虹の色彩で踊る。血に飢えたマーメイド。お湯でふやかした雨蛙。梅雨ハザード、駆け抜けて。今宵は宴。奇跡なんてないけれど。炎なんて咲かないけれど。紫陽花の供物に味を占めて。集合体をバラバラに解きほぐして。高校生活のように苦く酸っぱい花の蜜で祝杯を。ステンドグラスのコップは割れて散らばる。もう何も思いつかないんだ私は。雨が降りしきる中このまま二人で眠ってしまおう。ねぇ。

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