#3 日傘の少女

日傘をさした少女が海の底で、時の歌を奏でていた。海月と海鼠が踊り狂い、竜宮城は地響きと共に崩れ落ちる。日の光は天に届き、少女は笑った。腐った鯛が少女に話しかける。「どうして泣いているの?」「水の中にいるからよ」「どうして水の中だと泣くんだい? 君にはえらがないね。そのせいかい? 息苦しいんだね」「違うわ。涙じゃないの。これは油滴よ」逃げ出した乙姫と彦星が柊のようにギザギザした巻き貝を足で踏み潰した。割れた貝から濁ったエキスがベナール渦を起こす。細胞の整列写真には欠席した鳩の抽象画が後付けされている。「月食よ」少女が嘯くと海は泡を呼び起こして微笑んだ。ミスタードーナツとワカメの間で結ばれた秘密契約のために少女は雀蜂とダンスをし、海中に沈んだ大きな時計が12時の鐘を打ち鳴らした。少女は海底を歩いていく。その後ろをヒラメとカレイとあなごとマグロの大トロが、その四足を懸命に動かして付いていく。さながら在りし日の桃太郎のようだった。岩の隙間から湧き出る水の分子から鬼があなた達の秋を見つめている。荒れ狂う波と静かな波、その境界に土星への入口がある。少女は土星に辿り着く。土星では日傘はいらない。少女は日傘の骨をへし折って埋めた。そこから火星とシリウスが芽生え、宇宙は自転を開始した。すべての存在がシェイクされぶつかり混ざり合い、宇宙シチューとなった。神は宇宙シチューを一口啜ると「やっぱりレトルトが一番安定感あるな」と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る