第14話:今週のアンケート
「ベ、ベル先生~失礼します~」
「こんにちは、エディさん。今日はよろしくお願いします」
今日は打ち合わせだ。
クロシェットの順位の確認と、今後の展開を相談する。
エディさんもだいぶお屋敷に慣れてきたようで、ものすごく緊張することはもうなかった。
「まず順位の方ですが、今週のクロシェットは2位でした」
「ああ、2位ですかぁ~」
「先週は3位だったので、1個上がりましたね。あと、これは来週の見本誌です。先生の分だけ早めに作ってもらいました」
「うわぁっ、今回もキレイな表紙ですねぇ」
エディさんは一冊の本を取り出す。
“週刊パシアンタ”。
クロシェットの連載雑誌だ。
毎週、10~12くらいの小説が連載されている。
中には短編とかショートショートもあるけど。
読者さんは面白かった小説を2つまで選べ、それぞれ10ポイントまで点数をつけられる。
そのポイントによって順位が決まり、ずっと評判がよろしくないと打ち切られてしまうのだ。
毎週ビクビクしながら結果を待っていた。
ちなみに、順位は雑誌掲載順でもあるので、読者側もある程度わかっている。
「クロシェットは毎週安定して高順位を取ってくださるので、私としましても非常に助かっています。毎回結果を見るのが楽しみです」
「いえいえ、これもエディさんのおかげですよ」
ありがたいことに、クロシェットは大体2~3位を維持して、たまに1位を取ったりしている。
これも応援してくれる読者さんと、毎回的確なアドバイスをくれるエディさんのおかげだった。
「アンケートの詳細も持ってきましたが、先生もご覧になりますか?」
「あっ、見ます、見ます!」
エディさんが一枚の紙を出した。
そこには、読者さんからのアンケート内容が詳細に書かれている。
性別や年齢はもちろん、作品のどこが気に入ったのか、気に入らなかったのか、好きなキャラについてのコメント……何でもありだ。
毎回、エディさんがたくさんのアンケートを読んでまとめてくれていた。
今後の展開を考える上でとても参考になる。
まさしく情報の宝庫だ。
隈なく読んでいく。
〔無事に極悪伯爵が倒せて良かったです! 毎回恋愛が絡むと、レイが乙女っぽくなっちゃうところもいい!〕
〔やっぱり、クロシェットはカラブル王子のことがあまり好きじゃないんですかね?〕
〔極悪伯爵をもっとコテンパンにやっつけてほしかったです。全身の骨を折るとか〕
先週は極悪伯爵との戦いがひと段落したからか、“ナハトの城”のエピソードに関する感想が多かった。
男女比率は3:7と言ったところか。
戦闘シーンが多くなってきたからか、最近は男性読者も増えてきた。
一応、クロシェットは恋愛小説だけど、この先はどうしようかな。
バトルを書き過ぎると本筋からズレていってしまうし……。
「……ベル先生、ベル先生?」
「あっ、すみません。没頭してしまいました。何でしょうか?」
集中し過ぎてエディさんの声が聞こえていなかった。
「アンケート結果ですが、今週の1位はまたヴァールハイトでした」
「ああ~そうですかぁ。やっぱり強いですねぇ」
「復讐物は流行ってますから。読者からの評判もいいみたいです。スッキリして気持ちが良いとかで……」
“濡れ衣で殺された公爵令嬢ヴァールハイトは今日も復讐に勤しむ”。
週刊パシアンタで一番の人気作だ。
ほとんど毎回1位を取っている。
その特徴は、何と言っても復讐に次ぐ復讐。
毎週毎週とにかく復讐しまくるので、「鬱憤が晴らせる。悪役どもめ、ざまぁみろ」と大評判だった。
作者さんはアン・ヴィーナス。
公爵令嬢というウワサだったけど、詳しくはわからなかった。
ペンネームみたいだし。
「私も負けないように頑張ります。また1位を取ります」
「そこで、ベル先生にご相談なのですが、クロシェットにもざまぁ要素を入れてはどうでしょうか」
「ざまぁ要素ですか……う~ん……」
要するに、ヴァールハイトと同じように復讐展開を入れてはどうか? ということだ。
今までも何回かこの相談はしてきた。
たしかに、流行のポイントではある。
クロシェットの人気も、今よりさらに上がるだろう。
だけど、私はざまぁを取り入れることにどうしても抵抗があった。
「やはり微妙でしょうか」
「復讐物はどうしても後味悪くなる気がして……」
「……そこなんですよねぇ」
復讐はスッキリする半面、そこまで至る過程が問題だ。
ざまぁの内容によってはグロテスクな展開になることもある。
そもそも、クロシェットの性格からして復讐系は向いていないだろう。
その辺りはエディさんもわかっているようで、未だに相談の範囲で留まっていた。
「極悪伯爵だったり、悪い敵を倒す展開で代用できませんかね。今後もいくらか敵が出てくる予定ですが」
「ええ、私もご相談してはみたのですが、ベル先生のご意見の方がいいかもしれません。ざまぁがなくてもクロシェットは人気作ですし」
「では、今まで通りの方向性ということでよろしいでしょうか」
「はい。それでお願いします」
ということで、今後もクロシェットは現状のままでとなった。
と、そこで、気になることが思い浮かんだ。
「あの、一つ確認したいのですが、フィアード様が大量にアンケートを送っているとかは……ないですよね?」
アンケートは、雑誌に付録されているポストカードを使う。
感想だったりコメントだったりを書いて破くと、内容がリブロール出版に転送されるのだ。
どうやら、大変高度な魔法がかけられているようで、書いた人の性別だとか大体の年齢までわかるらしい。
この仕組みも“週刊パシアンタ”の大きなウリだった。
本人の魔力を少し吸い取って魔法紋を判別しているから、同じ人がたくさん送ってもわかるらしいけど……。
「それは大丈夫です。魔法紋を見ればわかりますから。同じ魔法紋のカードがあれば、それらはアンケートから弾かれます」
「あっ、そうですか。安心しました」
「毎週必ず、ペンで塗りつぶしたように真っ黒のカードが送られてくるので、もしかしたら皇太子さまのカードはそれかもしれません。……ん? そういえば、いつも三枚以上あったような……」
きっと、ヴァリアントさんとヴァンさんだ。
いや、待って。
三枚以上ということは、もっと熱烈なファンがいてくださるのか……。
「では、ベル先生。私はそろそろ失礼いたします。今日はお忙しいところありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました、エディさん。おかげさまでクロシェットの方針がまとまりました」
エディさんをお部屋の扉まで案内する。
いつもヴァリアントさんが送ってくれていたけど、今日は私も一緒に行こうかな。
そう思いながらドアを開けたときだ。
「なぜクロシェットが1位ではないのだ」
フィアード様が険しい顔で立っていた。
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