第2話:悪逆非道の皇太子

「「な、なんで皇太子様がこんなところに!?」」

「頭が高いぞ、無礼者め。今すぐ跪け」

「「も、申し訳ございません!」」


 ワズレス様とイーズは瞬時に膝をついた。

 もちろん、私もだ。

 皇太子のようなトップの方の前では、絶対に跪かないといけない。

 機嫌を損ねてしまったら、不敬罪で即刻監獄行きだ。

 ど、どうして皇太子なんて偉いお方が私の家なんかに。

 二人と同じ疑問が頭に渦巻いていた。


「ベル・ストーリー。君は膝をつかなくていい。楽にしなさい」

「え……?」


 突然、フィアード様に声をかけられた。

 ら、楽にしなさいって、どういうこと?

 というより、皇太子様に話しかけられることがありえない。

 私は男爵令嬢だ。

 天と地がひっくり返ってもありえない。

 混乱と緊張で倒れそうだった。


「椅子に座っていて良いと言っているんだ」

「しょ、承知いたしました! 今すぐ座ります!」


 大慌てで椅子に座った。

 ワズレス様とイーズは、不思議な顔で私を見ている。

 い、いったい何がどうなっているの?


「さて、今の話は全て聞かせてもらった」

「お、恐れ入りますが、皇太子様。なぜ僕たちの話を……」

「誰が口を開いていいと言った?」


 フィアード様の恐ろしい声に、周りの気温が下がったような気さえした。

 怒鳴られているわけでも叫ばれているわけでもないのに、体が恐怖で動かなくなる。

 心臓がドキドキし過ぎて寿命が縮みそうだ。

 ぜ、絶対に口を開いてはいけない。

 かつてないほどの力で口を閉じる。


「ベル・ストーリー」

「!?」


 またもやフィアード様に話しかけられた。

 だけど、口を閉じているので何も話せない。

 その瞬間、とんでもないことに気づいてしまった。

 こ、この場合はどうすればいいの!?

 喋ったら不敬罪で監獄行きだし、答えなくても不敬罪で監獄行き!?

 

「君は口を閉じなくていい」

「……!?」

「口を開けてよいと言っているのだ」

「しょ、承知いたしました! 今すぐ開けます!」


 ぶはぁっと口を開く。

 空気が本当に美味しかった。

 皇太子様がパチンと指を鳴らす。

 ザザザザザッ! と、たくさんの衛兵が出てきた。

 ど、どこにいたの!?

 すぐさま、ワズレス様とイーズを取り囲む。

 フィアード様ほどではないけど、全員怖いくらい屈強揃いだった。

 

「今から裁判を始める」

「「っ!?」」


 急展開過ぎて、さっきから理解が追いつかない。

 ワズレス様たちも唖然としているだけだった。


「罪状を読み上げろ」

「被告人名はワズレス・レッカード。ベル・ストーリー男爵令嬢と婚約関係にあるにもかかわらず、イーズ・ストーリー男爵令嬢、その他多数の令嬢と不貞を働く。また、先ほどベル・ストーリー男爵令嬢に放った言葉は侮辱罪に該当する」

「被告人名はイーズ・ストーリー。すでに婚約している者と不貞を働く。さらに、多数の仕立て屋に、いずれ金を払うと言いながら支払いをしない。詐欺罪に該当。また、先ほどベル・ストーリー男爵令嬢に放った言葉は侮辱罪に該当する」


 衛兵がスラスラと罪状を読み上げる。

 二人の悪事が次々と暴かれていった。

 やっぱり、ワズレス様は色んな人と関係を持っていたらしい。

 イーズはものすごい目つきで彼を睨んでいた。


「「皇太子様、判決をお願いいたします」」

「有罪。被告人たちを終身刑とする」


 フィアード様は至極あっさりと言った。

 こ、こんな簡単に決まってしまうの!?

 喋るなと言われていたけど、ワズレス様とイーズは猛抗議する。

 終身刑になるまいと、二人とも必死の形相だった。

  

「お、お待ちください、皇太子様! 僕には何が何だかサッパリで……!」

「あ、あたくしはそんなことしておりません! 全て事実ではございませんわ!」

「うるさい。連れて行け」

「「そ、そんな……! 皇太子様ー!」」

 

 あっという間に、ワズレス様とイーズはどこかへ連れて行かれてしまった。

 衛兵たちもいなくなり、私はポツンと取り残される。

 な、何がどうなったの?

 嵐が過ぎ去ったようでぼんやりする。

 と、思ったら、フィアード様がズンズン……と近づいてきた。

 逃げたいのに体がすくんで動かない。


「さて、ようやく会えたな。ベル・ストーリー」

「は、はぃ」


 わ、私、何かしたっけ?

 誓って言えるけど、フィアード様に問い詰められるようなことは何もしていない。

 していないどころか、会ったことさえないのだ。

 どうしてこんな目に遭っているのかまったくわからない。

 命の危険を感じる。

 そ、そういえば、クロシェットにも同じような展開があった。

 家から追放されてしまった彼女は、悪いドラゴンの巣に放り込まれる。

 そこで死を覚悟した瞬間、秘められた力が開花するのだ。

 クロシェットはこんな気持ちでいたのか……。

 初めてキャラの心情を実感した気がする。

 そして、フィアード様は絶望の一言を放った。


「私の屋敷へ来てもらおうか」


 全身の力が抜けるようだった。

 心なしか意識まで失っていく気持ちになる。

 お、終わった……。

 私の人生は今ここで終わったんだ。

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