第116話 どうしよっか1

「篠崎さん! 昨日のモブ君の配信見ました!?」


 バイトの休憩中、山中が興奮気味に話しかけてくる。


「ん、ああ……見たよ」

「彼の初めての配信切り忘れ! そこで明かされる意外な一面とユキテンゲのテイム! もう話題性がものすごいですよね!!」

「そ、そうだな……」


 山中の言葉にちょっと引きつつも、俺は彼の言っている通りの展開になっていることを実感していた。


 動画サイトでは俺の配信切り抜きが多数挙がっており、SNSやコミュニティでもほとんどがその話題である。


 昨日、やらかした直後に柴口さんをはじめ、パーティメンバーには連絡を入れており、その反応はおおむね「ミスはあるから仕方ない」と言うものだった。


 柴口さんからは、テンの紹介に代わる何か大きなネタを探したい。という意見があったが、モブ二号――東条君の正体開示でも同じくらいの効果は見込めるし、むしろテンの存在は「客寄せ」として使う方向でリカバリーを行うという方向で、なんとか方針を決めて貰った。



「でも、心配だなー」


 そして、対応会議が終わった後、愛理から個別通話が飛んできた。


「だって、今回こういうことがあったら、絶対次もあるもん」

「いや、再発防止に配信終了チェックをするようにはするし……」

「それを忘れるかもしれないっていう話」


 確かに、今は神経質になっているが、また慣れ始めた辺りでやらかす可能性はゼロではなかった。


「まあ、そんな話を今しても仕方ないかぁ……優斗も反省してるだろうし」

「いや、でもちゃんと引き締めてくれるのはありがたいよ」



 仕事のミスで責められている訳ではないというのは、彼女の話し方で十分伝わってきていた。だからこそ、俺はしっかりとそれを考える必要がある。


 まず、少なくともこれは間違っても配信で流すわけにいかない情報を考える。それで真っ先に思い浮かぶのは個人情報だが、これは元々、識別票には個人IDと名前くらいしか載っていない。あとは生体認証で識別しているので、そこまで気にする必要はなかった。


 そして、次に重要な防がなくてはならない事は、俺の顔――つまり仮面を外した素顔を配信してしまう事だ。


 絶対にダンジョンを出るまで外さないという事にしておけば、ダンジョンの中にいる時だけ配信する設定になっているドローンならば、何とかなりそうではある。


 だが、出口前で絶対に外さないと言い切れるか? 俺は俺自身を信じられなくなっていた。


「山中先輩、休憩交代ですよ」

「あ、東野くんありがとー。篠崎さん、またあとで!」


 東条君が山中と入れ替わりで入ってくる。彼は俺の隣の席に座ると、スマホを取りだして何かしらを操作し始めた。

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