第115話 やっちまった
さて、それじゃあテンの強化をしていくか。俺はそう考えて、その場で仮面の下に表示されているARデバイスを操作していく。
強化に必要な素材は、同ランク帯のボスからドロップする物となっていて、クリスタルゴーレムのドロップアイテムもそれに含まれていた。
「クルルゥ」
「よーしよし、今強化してやるからな」
そう言って俺はAR表示されたメニューを操作して、テンのレベルを上げる。
名称:テン
種族:ユキテンゲLv2
力:3
知:18
体:1
速:15
スキル:ブリザード、凍結ブレス
支援スキル:ステータス強化<知>
「クルルルゥ」
テンは嬉しそうに空中で宙返りをすると、俺にぴったりとくっついて来る。常に周囲で渦巻いていた吹雪は、抑えようとすれば抑えられるらしい。出すたびにあの極寒の環境に身を置くことにならなくて、非常に助かった。
さて、それにしてもレベルアップでは知のステータスのみが伸びたようだが、やはり力と体は増加する気配もない。だったら、運用する時はなるべく攻撃が当たらないように配慮してやらないとな。
『おいおいおいおい!?』
『ユキテンゲやんけ!?』
『ていうかオフのモブ君そんな優しい声出すんだ!?』
ひとしきりテンやモビと戯れてから帰ろうと思っていると、視界の端にそんな文字列が滝のように流れ始めた。
「っ!?」
俺は慌てて配信用ドローンの方向を向く。確かに終了の信号を送ったはずだが、そこには配信中を表す赤いアラートがAR表示されていた。
『ユキテンゲちゃんエッッッ!!!』
『よく見せて!』
『オフショットもっとお願いします!!!』
まずい。これは収拾がつかなくなりそうだ。この場合、俺はどうするべきなのだろうか。
愛理なら、トークで何とかリカバリーできていただろうし、紬ちゃんならいい感じにリスナーに「お願い」して場を収めることもできただろう。なら、俺はどうする?
まず、今の状況を切り抜けることはもちろんだが、問題はテンの存在をリスナーに知られてしまったことが大きい。
ファフニール討伐配信まで伏せておく予定だったのを、今後悔してしまっては予定が狂ってしまう。俺だけの問題ならまだしも俺以外のパーティメンバーにも影響が出てしまうのは苦しい。
「……改めて配信を終了する」
『え、ちょっと!』
『マンダの時も同じことやったよね!?』
『モブ君のオフ声もっと聞かせて!』
何にしても、今から配信内でリカバリーをするのは俺の技量じゃ無理だった。だから俺はリスナーが喚いている中、強引かつ確実に配信を終了するのだった。
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