第107話 中学生の言い訳かと思った

「あーゆー子は基本的に自分から誘わないから、優斗さんの方から予定を立ててあげないとダメだよ」


 その日の別れ際、紬ちゃんに言われたことを守って、俺はミーコさんと会う約束を取り付けて、待ち合わせ場所の駅前で彼女を待っていた。


 家に帰ってからサーバーの攻略チャンネルのログを漁っていくと、なんとか「あの動きはこういう目的があったのか」という理解が徐々に進んでいき。ある程度の行動指針は付けられるようになってきていた。


 簡単に言ってしまえば、今までは一人で全部やろうとしていてあちこち動いていたのを、必要な時に必要な場所へ動くという方式に変更すると言うものだ。まあもちろん攻撃に参加しなくていいだとか、他の人に頼りきりになるとか、そういうのは論外として、攻撃が足りていないからといって自分の仕事を疎かにしない事を心がけて行動しろという事だ。


 これなら俺にも不可能という訳でもなさそうだし、直接的な火力があまり出せない俺でも十分貢献できるだろう。


 それに加えて、支援魔法の習得もあまり必要性がなさそうに思えた。というのも、ファフニール戦で使う魔法は、防護と呼ばれる熱気を無効化する魔法と、加速、硬質化の魔法で、これらはユキテンゲをテイムして防護の代用、加速と硬質化はモビとマンダが持つ支援スキルで間に合いそうだからだ。


 結局、ユキテンゲをテイムするか、あの難しそうな資格を取るかの二つに一つなのだが、どうあっても結局のところ頑張らなけらばならないという事なのだから、ハードルが上がったわけではない。


「あ、お、おまたせ」


 スマホで確認をしていると、聞き覚えのある遠慮がちな声が聞こえて、俺は顔を上げた。


「や、どうもミーコさん」


 野暮ったい三つ編みに眼鏡の彼女に安心感を覚えつつ、俺はスマホをポケットにしまった。


「じゃあここで話すのもなんだし、喫茶店に行こうか」


 今日の予定は、対話形式でのバフ役の動きの学習と、ダンジョンで実際に動いて覚える実践形式の勉強が主である。まさか最初の座学をダンジョンの中でやる訳にも行かないので、俺は待っている間に目星をつけていた場所をに向かおうとする。


「あ、えっ、と……その、そんなに持ち合わせ、ないから……」


 しかしミーコさんは申し訳なさそうに切り出してくる。


「? いいよ別に、お願いしてるのは俺の方だし、授業料だと思えば喫茶店代くらい出すって」


 若いとはいえ自分で働いてるんだからそれくらいお金持ってるだろ……とは思ったが、まあ元々出すつもりだったし、指摘はしないでおくことにした。


「うん、あ、ありがと、う……」


 そんな俺の内心に気付かないように、ミーコさんは頭を下げた。

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