第45話 ぶっ倒れた

『ちくわちゃん頑張れー!』

『モブとモビも攻撃はいまいちだけど、しっかり回避して安定感あるな』

『こりゃ三人パーティでケルベロス倒せるか?』


 俺は再び地面を蹴り、ちくわの援護に回る。彼女はケルベロスの頭同士がうまく干渉しあうように立ち回り、リーチの低い双剣で確実にダメージを与え続けていた。


『すげえなちくわ、こないだの配信とは全然違うじゃん。なんでこんな強くなれたんだよ』


 そんなコメントが視界の端に入る。俺はそのコメントに「ちくわは元から強かったぞ」と心の中で返答した。


 ケルベロスと戦う事になった時、俺は参考のためにちくわの配信を改めて見ていた。


 そこでの彼女は、確かに攻撃を碌に行わず、逃げ回っているだけだったが、ケルベロスの攻撃を的確に避け、土埃により疲れと必死さを演出しており、確実にモンスターの動きを見切っている行動をしていた。


「はぁっ!!」


 そんな動きができるのだ。撹乱中に傷を負うなんていう事はまずありえない。


 むしろ気を付ける必要があるのは俺とモビの行動で、ちくわの性格上、俺がヘマをすれば、彼女は俺のフォローに回る。そうなれば不必要かつイレギュラーな動作が増えるため、ちくわ自身も危険にさらす。


 そうなると二人が倒れる可能性も出てきて、そうなるとねこままで危険になる。だからこそ俺は、安定を重視した動きをする必要があった。


「キュイッ!」


 位置取りを気にしつつ、モビから合図が送られて来る。魔石のストックはあるため、ASAブラストは発動可能なものの、今は使うつもりは無い。なぜかというと、アレは必要以上に目立つし、確実に倒せるタイミングで使うべきだからだ。


「モビっ!!」


 だが、支援スキルを使わないわけではない。ケルベロスのヘイトが俺に向いた瞬間、支援スキルを使用して意識を高速化する。


 ケルベロスの攻撃を全て紙一重で躱しつつ、最後の髪月に合わせて槍を突き出し、片目に突き刺す。


「グォォオオオンッ!!!」


 毛皮に覆われておらず、粘膜がむき出しとなっている部位への攻撃はかなり有効で、槍を引き抜いて支援スキルの効果が切れると、ケルベロスは大きく身体をうねらせて悶絶する。


 俺が突き刺した部分からは、赤黒い鮮血がほとばしり、どくどくと鼓動に合わせて血液が流れだしている。あの出血量では、槍から分泌される毒素での攻撃は望めそうにないな。


「アイシクルストーム!!」


 ケルベロスの三つの頭が一斉に俺へヘイトを向けたところで、ねこまが魔法を発動させる。ゾハルエネルギーによって急速に熱を奪われた大気が渦巻き、それに含まれる氷の結晶がケルベロスの肌を裂き、凍り付かせていく。


「モブ君っ!!」


 今だ。ほぼ二人から同時に発せられた合図に俺は待っていましたとばかりにASAブラストを発動させる。今回はモビではなく、マンダが相手となって発動させる。


「グゥウウウォォォオオ!!!!」


 モビが姿を消し、代わりに超大質量のマンダがストレージから飛び出し、俺の武器と癒合する。それは長大な金棒のようになり、凄まじい熱気を纏っていた。


 俺はそれをしっかりと握りなおし、ケルベロスへと駆けていく。


「うおおおおおおおおっ!!」

「ガアアアァァァァッ!!!」


 これほどの大質量・高威力の攻撃では火属性耐性など意味をなさなかった。片目を失った頭に全力で打ち込むと、肉の潰れる感触と共に、血飛沫が舞う。


「いくよーっ!!」


 それを確認して、ちくわは双剣を構え、無事な頭のうち一つを切り落とす。さすがは最終強化までした遺物系装備というべきか、まるで包丁で野菜を切るかのように、鮮やかな切り口を見せて、ケルベロスの首が宙を舞う。


「――っねこまちゃん!!」

「分かってるよっ……ライトニングカイザー!!」

「グガァァアアアアアアアアアア!!!!」


 一瞬オゾンのような匂いがした直後、ケルベロスの残る胴体と頭に向かって、極大の雷が落ちる。


 間近に雷が落ちたことから、聴覚が消失し、平衡感覚が狂う。立っていられずに、思わずへたり込んでモンスターがいるはずの方向を見ると、完全に動きを止め、ボロボロになったケルベロスが倒れていた。


『うおおおおおお!!』

『すげえっ! マジで倒しちまった!!』

『もうこれダンジョンハックガチ路線で数字取れるだろ!』


 そして、数瞬後にはARデバイスの裏で数多くの賞賛が滝のように流れ始める。


「――!! ――!」


 まだ聴覚は回復していないが、ねこまとちくわが跳ねまわってとてもうれしそうにしている。どうやら彼女たちがリスナーの対応をしてくれているらしい。


 ……だったら、ちょっとくらい任せてもいいか。


 俺は全身の力を抜いて、地面にあおむけに倒れる。実を言うとミスできないプレッシャーや、かつてないほど動き回った影響で、体力の限界だった。


 そういう訳で俺は、ひっそりと達成感を感じつつ、ぶっ倒れたのだった。

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