第42話 身バレこわい。が俺の行動原理
「金澤さん! 遂に明日ですよちくわちゃんとモブさんの配信!」
「そうなのよね……私も仕事じゃなきゃリアタイするのに……あー、誰か替わってくれないかな」
犬飼ちくわとモブのコラボ配信前日、仕事を終えた俺は帰り際にそんな話を聞いた。
「二人ともお疲れ様です」
「あ、篠崎さんお疲れ様です。明日は休みでしたよね?」
「え、そうなの? 明日代わりに出てくれない?」
「いや――」
金澤先輩が両手を合わせてお願いしてくるが、残念ながら俺は金澤先輩が目当てにしている配信に出なければならないので、代わる訳にはいかなかった。
「ダメですよ金澤さん。篠崎さんもちくわちゃんのアシスタントであると同時にファンなんですから。みんなリアタイ慕いにきまってるんですから――ね?」
「あ、ああ……」
気を利かせてあげましたよ! と言わんばかりのウインクをして、山中がかばってくれたので、俺はそれに乗っかる事にする。
「んー、そっか、悔しいけどしょうがないわね、その代わり今度モブ君のサイン貰ってきてくれないかしら、ちくわちゃんと幼馴染なら何とかなるでしょ? 私、最近彼にハマってるの」
「あ、あー一応事務所の制限とかあるから、難しいかも」
サインなんか、そこの日報見ればいくらでもあるんだが、とは言わなかった。多分芸能人が書いてるようなサインだよなぁ……もしかして考えておいたほうが良いんだろうか。
そんな事を考えつつ、そしてめっちゃ悔しがっている金澤さんを視界の隅に捕らえつつ、荷物を持って外に出ると、スマホの通知音が響いた。
「ん?」
ポケットから取り出して確認すると、柴口さんからメッセージの通知だった。
『明日の配信に向けて、緊急で話したいことが出来たの、いまから事務所までこれるかしら?』
緊急で話したい事……? 一体何だろうか。俺には見当もつかなかったが、柴口さんがそこまで言うのなら、何か問題が起きたのかもしれない。
「……もしかして」
俺は動画サイトやSNSで新着・急上昇トレンドを見て回るが、そこには特に緊急性を要するような、危険な話題は存在しなかった。よかった、俺とかちくわの炎上案件じゃなかったな。
それなら、少なくとも表向きになっていない問題だな……愛理の方で何か問題があったのだろうか? 何にしても、俺は「了解」スタンプだけ返して、バイトの荷物を持ったまま事務所へと向かった。
――
「あっ! 優斗!」
深河プロの社屋に向かう途中、愛理と合流した。一見して何も問題は無いようだが……
「愛理、大丈夫か? 柴口さんから緊急の用事って聞いたけど」
「ええっ、ボクも同じ要件で送られてきたけど、優斗じゃないの?」
どういう事だ、俺でもなく、愛理でもない。それで緊急の用事……?
「とりあえず……事務所に行くか」
「うん、一体どういう事なんだろう」
俺たちは帰り道を急ぐサラリーマンの人たちを避けながら、深河プロダクションのビルまでやってきた。さすがはストリーマー事務所大手ということで、夜遅いというのに人がまだまだいっぱいいたし、外観からは電気が消えていない部署の方が圧倒的に多い。
受付で自分たちの名前と柴口さんの名前を出すと、すぐに柴口さんが息を切らして走ってきた。
「はぁ、はぁ……悪いわね、急に呼び出して」
「まあ別に、俺は丁度仕事が終わった後だからいいんだけどさ」
愛理も来る途中での話を聞くかぎり、そこまで忙しくは無くて、明日に備えて休息をとっていたところらしい。
「仕事って……モブ君まだバイトしてるの? 事務所側からアシスタント代は出してるでしょ?」
「急に辞めたら『俺はモブだ』って言ってるようなもんですもん。もう少しゆっくりとフェードアウトしていく予定だから大丈夫ですよ」
そう、深河プロから時々受け取る謝礼と、ダンジョンで手に入る素材の売却益で、俺は何とか生活できるだけの給料は貰えるようになっていた。だが、それで「はい仕事辞めます」では、周囲にバレる可能性もあるし、人気商売である配信の収益と不安定すぎる売却益だけでは、身体を壊したりとかそういう事を考えると安易にやめられないのだ。
「そう……とりあえず今はそれでいいけど、なるべく早く専念してほしいわね、テイマーなんて世界中探してもそういないんだから、事務所にインタビューとか取材の申し込み物凄い来てるのよ」
そういえば、ストリームアカウントの方も、メッセージがかなり溜まっていたような気がする。正直「スパム鬱陶しいな」位しか考えていなかったが、もしかすると取材依頼とかそういうのが沢山あるのかもしれない。
……まあ、それ受けるとボロが出そうだし、見たところで対応は変わらないんだけど。
「それで、二人を呼んだ理由なんだけど」
エレベーターに乗り込んだところで、柴口さんが口を開く。
「ねこまちゃんと話してほしいの、その上で、配信復帰していいかどうか、あなたたちの意見も聞かせて」
柴口さん自身は、話をする限りは大丈夫だと思いたいが、自分が贔屓目に見ていないかどうか、どうしても不安らしい。
「ああ、分かった」
「うんうん、そういう事ならボクたちに任せて!」
俺はともかく、愛理は長くストリーマーとして活躍している。彼女の判断は、参考になりそうだった。
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