第40話 配信にサプライズを
今回の配信は、事務所側からのバックアップもあり、かなり大々的に広報が行われた。
まあちょっと考えれば、人気トップのストリーマーと、テイムボスモンスターという前代未聞の撮れ高があるのだ。深河プロもやる気になるというものだろう。
「飼い主殿のみんなー! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー!」
「モブとモビです」
「キューイッ!!」
『おはチワワ』
『タイトル見たけど名前マンダにしたんだ。相変わらずネーミングセンス最悪だな』
『今日はお披露目だけ?』
いつもと同じように挨拶をすると、前回よりもずいぶん増えたリスナーたちが、様々な反応をする。事務所からの広報バックアップがあるとはいえ、この数は少ししり込みしてしまう。
「うんうん、みんな気になってるみたいだね、じゃあ早速ボクの装備強化からしていこうか!」
そう言って、ちくわは端末を持った手を振り上げて、画面共有させる。ちくわの装備強化画面には、強化前のドラゴンデストロイヤーと、500個の研磨石、そして火トカゲの逆鱗がはっきりと表示され、強化可能であることを示していた。
「いやあ、ここまで集めるのは大変だったよね」
『逆鱗耐久配信……』
『まさか三日もかかるとは思わなかったな』
『それでも、遺物双剣の最高強化まで見れるなら安い物……』
どうやら俺の知らないところで大変な苦労があったようで、ちくわのリスナーはしみじみとコメントを書いていた。
「では……強化!」
高らかに宣言して、ちくわは強化ボタンをタップする。
表示されている錆びのある双剣がさらに研磨されていき、最後に逆鱗が加わって、今度こそ完全に錆びの無い、完璧な形の双剣が出来上がった。
「やったあああ! ようやく最終強化完了!」
『おめでとう!』
『頑張ってたの八割くらいモブだけどな』
『あいつの素材採集効率マジでやべぇよな』
ちくわをねぎらう言葉を聞きつつ、俺は自分の端末からマンダを出す準備をする。マンダはあまりにも大きいので、ダンジョン以外では出せない。というかダンジョンでも出す場所を選ばないといけないのだが、幸い入り口あたりは十分な広さがあり、問題なく出て来れそうだった。
「じゃあ次は、モブ君から!」
『おお、遂にボス分類のテイムモンスターが!』
『見たい見たい』
『しかし二体目テイムに加えてボスモンスターをテイムとか、どれだけ運がいいんだよこいつ』
ちくわが促すと、リスナーたちの興味は一気に俺に移る。この感覚はずっと慣れないな、俺はそんな事を考えて、ストレージから出す準備を終えた。
「じゃあ、出します」
俺はボタンをタップして、マンダをストレージから出す。
「グゥオオッ」
紅い鱗を輝かせて、全長五〇メートル近いオオトカゲ―ーマンダが人懐っこそうな目でこちらを見つめている。
『うお、でっか……』
『溜めとかそういうのないのかよw』
『芝居がかったりしないところがモブの良いところだよな』
炎上をしない程度に、ちくわの「人気が出る振る舞い」の逆をして、人気が出ないように振る舞っているつもりなのだが、これはこれで人気が出てしまうらしい。セルフプロデュースというものは、やはり難しい。
「うーん……大きくて強そうなのはいいんだけど、これじゃダンジョン移動しづらいよね」
『まあ、確かにボス系って部屋から出てこないしな』
『でも出せるところなら結構活躍してくれそうじゃない?』
『使い勝手のモビ、決選兵器のマンダ……って感じ?』
ちくわとリスナーの評価を一通り聞いてから、俺はマンダをストレージに戻す。実際の強さは、ボスと戦うときによくわかるだろう。
『そういえば、配信の告知に書いてあった奴、早々に終わっちゃったけど今日はボス倒して終わりなの?』
リスナーの一人がそんな事をコメントする。
「ふふふ、まさか! ボクがその程度で終わるわけないじゃん! ボス討伐はするけど、二人だけでやるわけじゃないよ! ……という訳でサプライズゲスト!」
ちくわがそのコメントに反応して、勿体付けた調子でゲストのお膳立てをすると、ダンジョンの入り口が開いて、ゲストが入ってくる。
「おはよう人間! 化け猫ストリーマーの珠捏ねこまでーす!」
『え、ちょ』
『ねこまちゃん!?』
『謹慎中じゃないの!?』
現れたのは、深河プロダクションのトップストリーマー・珠捏ねこまだった。
「あ、謹慎してたけど、今日からマネージャーさんにオッケー貰ったんだ。復帰配信はまた今度やるから、その時もよろしくねー」
彼女は休止前と同じように、リスナーに対して説明をする。
『謹慎は何だったの?』
『寂しかったよ、ねこまちゃん』
『良かった……』
「うん、私もみんなと会えなくて寂しかったけど、もう大丈夫だから!」
ねこまはリスナーのコメントに丁寧な反応を返しつつ、笑顔を見せている。俺はARデバイスでSNSのトレンドを見ると「復帰」とか「珠捏ねこま」が急上昇でトレンドに入っていた。
ねこまの言うとおりだな。俺はそう思いつつ、配信開始前までのやり取りを思い出していた。
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