1-6 珠捏ねこま復活への道のり

第38話 コラボ配信タイトルは「遺物双剣最終強化とマンダ君お披露目」

『まさかテイムできると思わなかった。配信を終わる』


 その言葉を最後に、アーカイブは終了する。


 これが配信されてから、ダンジョンストリーマー界隈では、モブさんの話でもちきりで、私の話なんて欠片も無くなっていた。


 忘れられたくない。せっかく得られた居場所を無くしたくない。そう思うけれど、マネージャーからは未だに配信の許可は無い。


「紬ー、ごはんができたからおりてきなさい」


 ママが大きな声で私を呼ぶ。このまま無視していると部屋にまで入ってくるので、私はさっさとご飯を済ませるために部屋を出た。


「……」

「うん、今日は早いのね」


 満足げなママの表情を見ないようにして、いつもの席に座る。私が配信を休止してから、ママはすごく機嫌がいい。


「あんなストリーマーなんて事をしてたら仕方ないわよね、あんなことは止めて、まともな仕事を探しましょうね」

「……」


 怒られたくないので、適当に頷いてやり過ごす。その時、玄関のドアが勢いよく開いた。


「ただいまー……って、紬? 珍しいな」

「隼人、仕事は?」

「今日は残業無し、金曜だろ」


 お兄ちゃんが返ってきた。私は二人の顔を見ないように、下を向いていた。


 三人での食事は嫌いだ。私もママも、お兄ちゃんも一言も発さずに食事を続けている。


「なあ、紬」


 唐突に、お兄ちゃんが私に話しかけてきた。


「早く謹慎解けるといいな」

「……」


 私は声を出さずに小さく頷く。本当に、早く配信を再開したかったのは本当だし、出来るなら今すぐにでもダンジョンに飛んでいきたかった。


「なにいってるのよ、あんな危ない事、やめたほうがいいに決まってるじゃない」


 だけどお母さんが口を挟む。いつもこんな調子で、私の家族は喧嘩が絶えなかった。


「本人がやるって言ってんだから、それを応援するのが親じゃねえのかよ?」

「死のうとする娘を止めない親なんていないでしょ!?」

「……」


 嫌だな。私がダンジョンストリーマーなんかしてるからこんな話になるんだろうか。そんな気がしてしまうほど、その場はいやな雰囲気が漂っていた。


「紬も隼人みたいに、まともな仕事をしてほしいだけなのよ!」

「俺だって出来るならアニメーターとかイラストレーターになりたかったよ! でも生活があるから諦めた! 紬にまで同じことさせたくないんだよ!」


 私のそんな気持ちをよそに、ママとお兄ちゃんは言い争っている。


「……もう、いいよ」


 私が、ダンジョンストリーマーをやらなければ、こんな話は終わるはずだ。そう思った。


「私がストリーマーをやらなければ、良いんでしょ?」


 私のため、なんて言ってやりたいことをさせないママも、夢を勝手に押し付けるお兄ちゃんも嫌だった。


「紬!」

「戻りなさい!」


 呼び止める二人を無視して、私は部屋に避難して、扉が開かないように箪笥を動かす。


「……」


 ドンドンという扉を叩く音や、ママたちの声から逃れるために、私は布団を深くかぶった。



――



「紬ちゃんが?」

「ええ、最近はちょっとふさぎ込んでるみたいで……ご家族からも相談を受けててね」


 マンダをテイムしてしまった件で、愛理と一緒に柴口さんの所へ向かうと、話し合いが終わったタイミングで紬ちゃんのことを相談された。


「原因は何か心当たりがあるんですか?」


 愛理が身を乗り出して聞くと、柴口さんは手元のタブレットを触りながら答える。


「まあ、間違いなく配信休止が原因なんだけど……」


 じゃあ配信活動再開させましょうっていう訳にはいかない。それは俺もよくわかっていた。


「それで……俺達になんかできる事ありますかね?」


 家族の中でも孤立しているなら、他人の俺達が何かをできる状況に無いと思うのだが、柴口さんはそうは思っていないようだった。


「モブ君はねこまちゃんが懐いてるし、ちくわちゃんは炎上回避の立ち回りが上手いでしょ? なんとかメンタルをいたわりつつ、教えてあげられないかなって」

「うーん……」


 懐かれてるとか、そういうアドバンテージはあるだろうけど、俺はメンタルケアとかそういうのは完全に素人だぞ。安請け合いしていいのか? でも、落ち込んでるらしい紬ちゃんは確かに気になる。最後の別れ際も、とりあえず地の底にあったメンタルをちょっと浮かせただけみたいなところあるし。


「分かりました。行きます」

「愛理?」


 俺があれこれ悩んでいると、愛理がはっきりとそう答えた。


「ありがとうちくわちゃん! 助かるわ」

「おい、愛理……俺達が行ってどうにかできるのか?」


 柴口さんの嬉しそうな反応を見つつ、俺は愛理に詰め寄る。中途半端にかかわるくらいなら、最初から距離をとったほうがお互い傷つかなくて済むはずだった。


「んー、実はそんなに自信はないんだけど、でも――」

「?」


 一瞬言い淀んだ愛理だったが、俺の顔をじっと見た後に言葉をつづけた。


「優斗は出来るか分からなくても、私を助けてくれるでしょ?」

「……まあ、そうだな」


 さすがに「空を自由に飛びたいな」とか言われたら考えるが、俺が愛理を手伝うときは出来る出来ないじゃなくて、やるにはどうするかを考えていた。


「わかった。どこまでできるか分からないけど、俺もついていくよ」


 愛理はそれと同じ考えで、彼女を助けたいと思っているという事だ。だったら俺は、愛理に見限られない為にも紬ちゃんの手助けをするべきだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る