第36話 マンダさん

「おっ、ちくわちゃんソロでサラマンダー討伐する配信やってるじゃん」


 休憩時間、山中が店のWi-Fiを使ってちくわの配信を見ていた。


「お前……どんだけちくわ大好きなんだよ」

「えー、だっていつもは週末をメインに配信してるちくわちゃんが平日に、しかも裏作業に近い配信してるんですよ、どんなのか気になるじゃないですか」


「アーカイブ残るだろ、それに今見ても配信の一部しか見れないし……」

「分かってないですねー篠崎さん! リアルタイムが良いんですよ」


 どうやら「今」見るのが重要らしい。俺は山中に「そ、そうか」とだけ返して、自分のスマホに目を落とす。


 昨日のサラマンダー周回で、かなり素材が集まっていたし、レア素材である逆鱗も手に入れられたので、装備を更新できそうだった。



――装備品

 武器:ヴェノムスティング

 頭:フレイムヘルム

 胴:フレイムメイル

 腕:フレイムガントレット

 腰:アイアンベルト

 足:フレイムレガース



――スキル

 槍マスタリーLv6

 魔法マスタリーLv1

 属性マスタリーLv2(火・回復)

 回避マスタリーLv4

 テイミング適性Lv★



 フレイムと名前が付いているものがサラマンダー素材で作った装備品で、腰だけが火トカゲの皮が三つほど足りずに製造できない状態だった。


 武器も「ファイアトライデント」というものが作れたので、製造してストレージに保管しておいた。40倍になったクラウドストレージは、お金を払っているだけあって快適にデータ通信をしてくれている。


 槍と回避のマスタリーも一つレベルが上昇しており、もしかするとソロでサラマンダーくらいなら戦えるかもしれない。という気持ちも沸いてきていた。


 あ、そうだ。サラマンダーなら一人で倒せるって事は、余ってる素材はいくつか換金してもいいかもしれない。


 換金できる素材は、一部のレア素材以外となっていて、それはレアな素材はエネルギーを大量に蓄えているものの、ゾハルエネルギーを安定状態で抽出することができないかららしい。


 なので、ボスモンスターから取れるコモン素材が換金の限界だという事だ。先日気になったので調べたらそんな事が書いてあった。


 また、研磨石とか濃厚蜜はレアリティが低いものの、直接の手渡しでしか取引できないのは、ネットワーク間での取引に問題があり、解禁すると帯域を全て食いつぶしてしまうらしい。ただ、そうなるとクラウドストレージはいいのかって話なんだが、どうもそれだけは特殊な通信技術を使っているらしく、何とかなっているらしい。詳しい事は分からないが、まあ俺は素人だし、そういう事で納得しておくことにした。


「それにしても、昨日に続いて合計六回もサラマンダー倒すなんて、ちくわちゃんは努力家ですよね」

「ん、ああ……昔から根は真面目で努力家だったからな、あいつ」

「うわ、幼馴染マウントですか?」

「そういう訳じゃ――……いや、幼馴染マウントだな」


 否定しようとしたが、否定しようがなくて認めてしまった。


「ハハッ、せめて否定するポーズくらいは取ってくださいよ。でも応援する気持ちは負けませんから!」

「俺も負ける気は無いよ」


 なんせ何年も支えてきたんだ。そこら辺のファンよりもずっと応援している。心の中でそんな事を考えながら、俺は休憩を終えて仕事に戻った。



――



「ふぅ」

「キュッ!」


『すげえ、遂にボスモンスターをソロ討伐だな!』

『ここまでストイックな配信だと信頼感あるよな』

『なんかクソダサいごついARデバイスもカッコよく見えてくるわ』


 俺の前には、動かなくなったサラマンダーが倒れていた。ASAブラストによって致命傷を与えたため、ほどなくして素材の採集が行われるはずである。


 しかし、意外と何とかなるものである。


 研磨石の収集ついでに挑戦してみた形だが、常に俺を狙って攻撃が行われるため、ちくわと一緒に戦うよりも戦いやすかったかもしれない位だった。


「……ん?」


 仮面の下、AR表示される情報に、見慣れない――いや、見たことがある情報が表示される。


名称:サラマンダー 状態:瀕死

採取可能素材(死亡時):火トカゲの鱗、火トカゲの皮、竜種の骨、他

テイミング:可


「うわっ!?」


 まさか、生きてきてこの表示を見るとは全く思っていなかった。


『え、ボステイム?』

『ボスモンスターってテイムできんの?』

『ていうか二体目とか前代未聞だろ。ヤバくね』


 AR情報を配信画面に表示していたので、リスナーたちには隠す事ができなかった。今配信を切ったところで、彼らはすぐに拡散をするだろう。


「……」


 俺は諦めて、テイミングボタンをタップする。ここでテイムしないことを選べば、炎上してしまう。それを避けるには、これを撮れ高として利用するしかなかった。


「まさか、テイムできるとは思わなかった。配信終わる」


『え、ちょっと!』

『見たい見たい!』

『終わらないで!』


 リスナーの希望を無視して配信を終わる。さて、どうしようか。


「グゥオ?」


 俺の目の前には五〇メートルはありそうなサラマンダーが、邪気の無い顔でこちらを見つめていた。


 そうだな……名前はサラマンダーから取って「マンダ」にしておこうか。


「よ、よろしくな、マンダ」

「グオオッ」


 どうもよろしくしてくれるらしい。

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