1-5 モブモビ+マンダ

第31話 マラソン、俺が一番嫌いな競技

「さあ! ドキドキドロップ確認タイムだよー!」


『逆鱗出るかな?』

『レア素材だろ、そう簡単には出ないだろ』

『ちくわちゃんドロップ運悪いからなぁ』


 なんとか意識を配信に引き戻すと、ちくわがサラマンダーから取れた素材の確認をしていた。


「ボクのお目当ては逆鱗! まあ研磨石500個集まるまでに出てくれればいいから急いではいないけど、早めに出てくれると嬉しいよねっ!」


 そう言って、彼女はストレージの画面を共有する。そこにはOKボタンが表示してあり、ドロップ品の開封を待っているようだった。


『鱗のみと見た』

『爪と鱗だけ』

『竜種の骨二つ』


 どうやらコメント欄で流れているものは、サラマンダーを倒した時に手に入る普通の素材のようだ。なんだかんだストリーマーの不幸を願うリスナーは、それに対するリアクションが楽しかったり、配信が長くなるからという理由からコメントしているので、本気でちくわの不幸を願っている訳ではない。


「はいはい、そんな事言ってもボクは一発で当てちゃうから!」


 ちくわはそう言うと、ドロップリザルトを表示させる。内容は――


 火トカゲの鱗×4

 火トカゲの皮×2

 火トカゲの牙×6

 竜種の骨×4


「あー……だめかぁー!」


『実家のような安心感』

『親の顔より見たドロップリザルト』

『もっと親のドロップリザルト見ろ』

『親のドロップリザルトって何だよ』


 ちくわ自身と、リスナーの反応から、コモン素材しか落ちなかった事は分かる。分かるのだが、価値の低いコモン素材だけでこれほどリスナーを沸かせられるちくわはやっぱりすごい。


「じゃ、モブ君はどうかな?」

「え、俺?」


 素材なんて別にほしくは無いのだが、もしここで俺がレア素材を引けば撮れ高は稼げるかもしれない。そう思って、俺はストレージを画面共有して、ドロップリザルトを表示させた。


 火トカゲの鱗×4

 火トカゲの皮×4

 火トカゲの牙×3

 竜種の骨×4


『モブもコモンばっかりか』

『まあモブはレア運がいいって訳じゃないからな』

『レア運悪かったとしても、あれだけ狙った物だけドロップできるならめっちゃ羨ましいけどな』


 どうやらリスナーの反応を見る限り、俺もコモンドロップばかりのようだ。まあそうそううまくいかないよな。


「いやあ残念残念、じゃあもう一周――」

「キューイッ!!」


 ちくわがなんか不安になる言葉を言いかけた時、モビが一際大きく鳴いて、自己主張する。


『?』

『あ、そういやテイムモンスターも数は少ないけどドロップ取ってきてくれるんだっけ』

『めっちゃ便利じゃん、俺もテイムモンスター欲しいな』


 リスナーの言葉に促されるように、俺はモビのステータス画面から、ドロップリザルトを表示させる。その中身は俺やちくわよりは枠が少なかった。


 火トカゲの逆鱗×1

 竜種の骨×4


「えっ」


 ちくわが言葉を失う。それから一拍おいてから、コメントが滝のように流れ始めた。


『は??????』

『モビよくやった!!!』

『ちくわとモブは踏み台』


 モビから素材を受け取り、ストレージを整理する。残り容量を見ると、結構埋まってきていた。あとでオンラインストレージに入れておかないとな。


「ん?」


 そう思いつつ、ちくわに逆鱗を渡そうとしたところで、ロックがかかっていることに気付く。また講習を受けたりなんなりしないといけないのだろうか。


「どうしたの?」

「いや、逆鱗をちくわに受け渡しできないから」

「あ、うん。受け渡しは出来ないよ」

「えっ……そうなの?」


 ちくわの説明によると、アイテムには三つ分類があり、研磨石や濃厚蜜などの消耗品素材は手渡しのみで受け渡しができ、武器防具やボスモンスターの素材は換金が可能、そしてレアリティの高い素材は、換金、取引が不可能になっているらしかった。


 理由とかはまあ、調べればすぐに分かるらしいので聞かないでおいたが、そうなるとちくわは自力で逆鱗とやらを手に入れないといけない訳か。


「あれ? でもモビから逆鱗受け取ったけど」

「テイムモンスターの扱いはよくわかんない部分が結構あるし、多分モブ君とモビちゃんのストレージ共有してるんじゃないかな?」


 んーそういうもんか、なんにしても、ちくわに渡せないのは残念だな。


「――よし、休憩終わりっ!」

「……休憩?」


 ストレージの中でいくつか素材を整理したり、研磨石と濃厚蜜の数をチェックしたりしていると、ちくわが元気よくそんな事を言い始めた。


『おい、まさか』

『モブ体力持つの?』

『始めて数週間の奴だってこと忘れるなよ』


 周囲の反応も、俺が危惧しているような内容を示唆しており、俺は顔を引きつらせる。


「じゃあ、体力尽きるまでサラマンダー討伐マラソン開始しよっか!」

「キュイキューイ!」


『体力尽きるまで遊びまわるバカ犬である』

『ああ、今回も我慢できなかったか』

『南無……モブ』


 元気に宣言するちくわと、呆れつつもテンションの上がっているリスナーと、状況を理解していないのか、めっちゃ嬉しそうなモビを見て、俺は何も言う事ができなかった。

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