第30話 デカすぎんだろ

「フシュゥウウウゥ……」


 ダンジョンの最奥までたどり着くと、熱気の篭った吐息を出しながら、五〇メートルくらいある赤黒い鱗のトカゲが俺たちを睨みつけていた。


 まあサラマンダーって名前なら、普通にそういう見た目なのは想像していた。だが、ちょっとデカすぎないだろうか? 俺の想像だと、大きくてもせいぜい十メートルくらいの認識だったんだが。


「キュイッ!」


 モビが声を上げて、戦意を誇示する。なんだお前あの姿を見てしり込みしないのか。


「じゃ、モブ君もやっていこっか!」

「いや、いやいや」


 やる気満々に新しい双剣を振り上げるちくわを、俺は思わず呼び止める。両方とも、ちょっと恐怖だとかそう言う感情を欠落させ過ぎじゃないだろうか。


「もー、どうしたの、モブ君」

「サラマンダー、明らかに強そうなんだけど大丈夫なのか?」


 パッと見た感じ、ギルタブルルよりは相手にしやすそうだが、エルダードライアドよりは明らかに危険度が高いように見えた。そして、何よりもあの巨体である。あれと比べたら、俺の武器なんて良く見積もって爪楊枝くらいの長さしかない。まともに戦えるかどうかすら微妙だった。


「大丈夫大丈夫、サラマンダーはボスの方でも簡単な方だから!」

「さっきリスナーが『この面子なら何とかなるか』って言ってなかったか?」


 何とかなる。という事はつまり、俺とちくわ、あとモビが居て何とかギリギリ勝てるという事だ。彼女の見立てとは、明らかな乖離がある。


「まあまあ、そんなに不安なら、モビちゃんと一緒に最初は様子を見ておいてよ」


 そう言って、ちくわは地面を蹴ってサラマンダーへと駆けだす。


「おいっ、話はまだ――」

「ふっ……!」


 攻撃範囲内に入ったのか、サラマンダーはちくわへ向き直り、口を開けて炎を吐き出す。彼女はそれを予期していたように最小限のステップでかわすと、その足でさらに距離を詰めて、双剣をサラマンダーの皮膚に滑り込ませる。


「ギャアアアァァッ!!!」


 サラマンダーの巨体が痛みにのたうった後、それは巨体を生かしてちくわを踏みつぶそうとするが、彼女は軽いステップでそれもかわして、足へと斬撃を繰り返す。


 サラマンダーの悲痛な声が断続的に聞こえ、その度にちくわは回避と攻撃を繰り返す。それを観察する中で、ちくわが「簡単」といった理由が分かった気がした。


 サラマンダーは動きが鈍重というか、分かりやすいのだ。


 足元に立っている時は踏みつけ、遠くにいるときは炎のブレス。確かに見ていると、戦いやすい部類なように見える。


「よし、いくぞ! モビ!」

「キュイッ!」


 それが分かれば、俺も無理のない範囲でちくわの援護ができる。彼女のように常に攻撃を加えて、常に回避をし続けるなんて芸当は出来ないので、攻撃動作の後、次の攻撃行動に移るまでの時間を有効に利用して、ちくちくとギルタブルルの素材を使った槍で攻撃していく。


 この槍はあのサソリの素材を使っているだけあって、毒の追加効果もある。じわじわと地味ながらもモンスターの体力を削り続けられるはずだ。


「っ!!」


 行動がある程度パターン化した時に、不意にサラマンダーの予備動作についていけず、避けられない状況になる。


「グオオオォッ!!」


 このままでは回避が間に合わないと悟った俺は、モビの支援スキルを発動する。


「キュッ!」


 モビが短く鳴くと、周囲の景色がゆっくりと流れ始め、その中で俺だけが普通に動けている状態になる。なるほどこういう感覚なのか、俺は地面を蹴ってサラマンダーの攻撃範囲から脱出し、カウンターを与えるためにASAブラストを発動させた。


「……ん?」


 俺が最初に思ったのは、支援スキルの発動中は使えないのかもしれない。という事だった。だが、そうではないらしい。


 いつもと違う、青白い光を纏ったモビが槍にまとわりついて、光り輝く薙刀を形成する。


「っ……おおお!」


 何かが違う。その感覚を持ちつつ、俺は明らかに桁違いの威力になっているであろう薙刀を、サラマンダーの胴体へ無造作に振り下ろす。


「ギャアアアアアアアアッッ!!!」


 重々しい手応えと共に、サラマンダーの胴体は二つに切り裂かれ、地面を揺らして倒れる。


『うおおお!! すげえ!』

『バージョン3のASAブラストってこんな強力なのか!』

『サラマンダーも危なげなく倒してたし、もう名実ともにダンジョンハッカー勢名乗れるよな』


「キュイキューイ!」


 それから一拍おいて、リスナーたちの賞賛が始まる。ASAブラストが解除されて、モビが喜びを表現する為か、俺の周りを走り回っていた。


「わ、初めて見たけどASAブラスト3.0すごいね……よーし、それじゃあ続いてサラマンダーの素材をチェックしよー!」


 ちくわも俺を褒めながら、嬉しそうにサラマンダーから取れた素材を確認している。


「……」


 そんな姿を見ながら俺は、自分がやった攻撃の威力にビビりまくっていた。

 

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