第29話 ドラゴンデストロイヤー(ちょい錆び)

「飼い主殿のみんなー! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー!」

「モブとモビです」

「キューイッ!!」


『おはチワワ』

『今日はモブとモビも出るんだ』

『モブが居ると安定感あるよな』


 何回目かになる挨拶をすると、リスナーからは割と好意的な反応が返ってくる。幸いなことに、顔を出していないのと、ちくわの役に立っているのがいい方向に作用しているらしい。


「今日はねー、ボクの遺物系武器の強化とモビちゃんの進化、その後にダンジョンボスのサラマンダーに挑んじゃうよ!」


『焼け犬になる未来が見え……まあ、モブがいるし大丈夫か』

『二人でサラマンダーってちょっときつくない?』

『言うてちくわは双剣Lv8だし、モブはテイマーだから無理って事はないでしょ』


 リスナーの反応と、ボスの名前を聞くかぎり、結構大変そうな気がするのだが、ちくわは自信満々に配信の進行をしていて、多分なんとかなるのだろうという安心感があった。


「じゃあ早速、遺物双剣を強化しまーす!」


 そう言って、ちくわはタブレットのキャプチャ画面を表示させて、酷く錆びついている双剣の強化ボタンをタップした。


 画面の中で演出が始まり、錆びついていた表面がついに青白い光を放ち始める。


『あ、そうか、遺物双剣手に入るならサラマンダーなんとかなるじゃん』

『双剣って何になるんだっけ』

『ドラゴンデストロイヤーだって、ウィキに書いてあった』


 なんとも物騒な名前であるが、その名前に恥じない。攻撃的で凶悪なデザインの双剣が錆の塊から出てくる。


「よし、強化完了!」


 この間まで使っていた。ちくわ愛用の双剣と比べると装飾が多く、それでいてかなり大ぶりな武器になっていた。前のが短剣の二刀流だとすれば、これは片手剣くらいの刃渡りがある。


『見た目ヤベー』

『次の強化は500個とサラマンダーの逆鱗だっけ? ……ああ、だからか』

『モブが手伝ってくれるうちに出てくれると嬉しいんだけどねー』


 よくよくその双剣を見ると、刀身部分や柄の辺りに、まだ錆が残っていた。ストレージ保管に保管しているものはデータ化されている筈で、ましてや強化したての物が錆びついている筈がなかった。つまりこの武器は「とりあえず使えるようにしたけどまだ強化段階があるよ」という事らしい。


「コメントで誰か言ってくれたけど、この武器はドラゴンデストロイヤー! あと一回強化を残してるけど、この状態でもかなり攻撃力が高い。最強の一角だよ!」


『おおー!』

『すげええええ』

『研磨石累計500個も集めてくれたモブに感謝だな、ていうか、この後の500個も手伝ってもらうのか』


 この後研磨石500個……まあそんなに負担にはならなそうだな、ボス討伐なんて危ない事、ちくわと一緒にしかやるつもりないし。


「そうだね、モブ君にはこれからも頑張ってもらわなきゃ! ドラゴンデストロイヤーは文字通り爬虫類とかドラゴンみたいな硬い鱗のモンスターに効果テキメンなのもうれしいよね!」


 ちくわが話の流れで武器の説明をする。なるほどだからサラマンダー相手でもなんとかなるって空気だったのか。俺は遅ればせながら、コメントの真意を察した。


「じゃ、次はモビちゃんの進化だね!」

「わかった。進化させます」


 その流れでちくわに言われて、俺はモビのステータスを確認して、進化ボタンをタップする。


 するとモビが光に包まれ、それが収束すると、どこか非生物的なフォルムになったモビがそこにいた。


「キュイッ」


 モビは少し機械音声みたいな鳴き声をして、俺の足元で身体をこすりつける。俺はその姿を確認した後に、ステータス画面をキャプチャーして配信画面に映してやった。


名称:モビ

種族:モーラビット3.0 Lv1

力:17

知:10

体:6

速:20

支援スキル:ステータス強化<速>


『おー結構強くなってんじゃん』

『モーラビットって最低級モンスターだろ、それでもこれくらいのステータスになるんだな』

『ちょっとかわいさが無くなっちゃったのはマイナスだけどな』


 リスナーが口々に反応する中、俺はモビの成長量が、今ひとつ低い事が気になっていた。


 ある程度のレベルまでは成長が早いが、一定以上を越えると成長率が悪くなる。というのはゲームとかだとよくあることだが、テイムモンスターにもそれがあるという事だろうか。


「キュ?」


 そんな事を考えていると、視線に気づいたのかモビが俺の方を見て首をかしげてきた。どうもこの間気付いたことだが、知のステータスは魔法の威力もそうだが、実際の知性もステータスと連動して上がるらしい。


 もし20とか40になったら人の言葉を話したりするんだろうか、とか考えてみるが、まあどうせ先人のほとんどいない状況だ。なるようになれ、という感じである。


「よーし、モビちゃんも強くなったし、モブ君もチャンネルの方でスキル上げ配信とかしてくれてたしねっ! サラマンダー挑戦してみよう!」


『おーっ!!』

『二人と一匹ならできるっ!』

『一回で逆鱗出るといいねー』


 ちくわが上機嫌に宣言すると、リスナーたちは口々に応援する言葉をコメントする。俺が参加したころのリスナーとは全然反応が違って、それがちょっとおかしかった。

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