第10話 炎上回避とこれからの話

『飼い主殿のみんな―! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー!』

「おはチワワ」

「昨日のボス討伐って何だったの?」

「モブって彼氏?」


 様々なコメントが流れていく。俺は下手な事を書き込まないように、ひたすらROMに徹していた。というか今日は視聴者多いな……まあ昼間にあれだけ炎上していたんだから、当然と言えば当然か。いつものメンバーと、炎上の野次馬勢、そしてテイムモンスターについての情報を欲しがっているダンジョンハッカー……それはもうたくさんの人が見ている事だろう。


『昨日の討伐? ほら、ずっと言ってたじゃん! ボクは猛犬系ストリーマー、ボスを倒さないのは手加減してるんだって!』

「いや確かに言ってたけど、マジだと思わないじゃん」

「今まで手を抜いてたって事?」

「モブって彼氏なの?」


 まあ、みんなが気になるところはそこだろう。粋がって強がっていた犬飼ちくわが、本当は強かった。なんてなったらみんないい気はしないだろうしな。


『じつはさ、ずっと裏で頑張って強くなろうと頑張ってたんだよ。ちょっと恥ずかしいからお披露目何時にしようかなーって思ってたんだけど、思わず身体が動いちゃったって言うか……』

「え、そうだったんだ」

「ごめん……」

「ねぇ、モブって彼氏なの?」


 ちくわの告白に、留飲を下げるリスナーたち、みんな純粋過ぎである。しかしさっきから俺のことを異様に聞いてくる奴は一体何なんだ。


『そういう訳で、サプライズ失敗しちゃったけど本当に強くなったよっていう報告でした!』

「いや普通にサプライズだったけど」

「ちくわちゃんすごい!」

「報告ってそれだけ?」


 あ、彼氏云々発言してる奴が居なくなった。ブロックされたな。


『それと、実はまだ報告があって――』


 妄信にもにたちくわへの賛辞の中、再び彼女は重大発表をする。


『ボク、犬飼ちくわは深河プロダクションに所属することになりました!』

「マジか!」

「ってことは珠捏ねこまと同じ事務所!?」

「ついにちくわも事務所入りかぁ」


 なるほど、遂に事務所に所属する踏ん切りもついたようだな。俺は彼女が事務所でもうまくやれるよう祈った。


『実は以前から声は掛かってたんだけど、このタイミングで宣言しちゃうのがベストかなって……あ、そうそう、それと、モブ君ね、テイマーのあの人!』


 そして彼女は、遂に俺についての話に移る。特に了承とかは聞いていないので、そんな無茶ぶりは来ないだろうが、少しの懸念事項はあった。


『あの人は前からちょくちょく裏作業の手伝いとかしてもらってるバイト君なの、さすがに一人に任せておくにも悪いかなーって思ってボクは事務所に所属することにしました。って感じ!』

「で、あいつは誰なんだよ。探索者のランクは?」

「本当に初心者か? ビギナーズラックでテイムできるほど簡単じゃないぞ」

「プライベートで会ったりしますか?」


 俺の事になった途端、コメントの雰囲気が変わる。テイマーという存在が珍しいようで、ダンジョンハッカー系のリスナーも聞きに来ているようだった。


「んープライベートでは会わないかな、仕事だけの関係って奴だよ……他は個人情報だから教えられないなー」


 その後、ちくわはダンジョンハッカーからの追及をのらりくらりと躱しつつ、雑談配信を続けていく。質問には答えているようで、その実真相にたどり着ける情報は一切提示しない。プロの話術に俺は舌を巻いた。



――



 結局、動き次第では大炎上になりかねない配信は、なんとかリスナーの留飲を下げさせたうえで着地させることができていた。


 俺はその事実に安堵と、愛理のバランス感覚に感謝をしていた。


『じゃ、今日の配信はこんな所かな? ご視聴ありがとうございました。また見てね!』


 その言葉を最後に、配信画面がオフラインに切り替わる。俺はそれを見届けてから、大きく伸びをして息を漏らす。


「さて……」


 配信前に見ていたクラウドストレージサービスの候補を探し、無料プランに申し込んでみる。まあタダなら別に問題ないだろう。


 そうしているうちに、愛理から着信が来る。


「優斗! 配信見てくれた!」

「ああ、見たけど……事務所参加ってそんな簡単に出来るもんなのか?」


 色々な調整とか契約があるはずなのだが、昨日の今日で契約が成立するのには違和感があった。


「ん、まあ本当は色々あるんだけど……配信でも言ってたでしょ? 前々からオファー自体は来てたんだよね。それで、担当のマネージャーと話して最速で告知、何とかなってよかったよ」


 これから先、実力のあるストリーマーとして活動するなら、個人では限界があり、俺も含めて配信に出るなら、炎上対策に保険は掛けておきたい。という事だった。


「とりあえず。しばらくは調整とかで会えないけど、モビちゃんの進化は――」

「ああ、分かってる。次の配信の時呼んでくれ」


 それに色々と目立ってしまうのは愛理の活動にも支障が出るだろう。しばらくは地道に強化しつつ、配信に備えるしかないだろう。


「ごめん! ありがとう。それじゃまた今度ね!」


 そう言って会話が終わる。俺はシャワーを浴びてから全身に湿布を張って眠る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る