第41話 封印

                封印


人間は常に心の中に何かを押し付けながら生きている。

どうして開放的にならないのか。何故我慢が必要なのか。

欲するままに、満足するまで振る舞い続ければいいものを・・・・・・

しかし、それらを否としたのがこの星の人間たちだ。なんと愚かしい事か。


だが、そんな人間が愛おしい。愛すべき存在だ。

世界の理、大いなる存在の根幹にあるものは普遍的な愛だ。人間はもっと自己を愛し、他者を愛し、社会を愛し、文明を愛し、現象を愛し、運命を愛し、星を愛し、世界を愛するべきだ。

例え靈体が受肉し忘れようとも、その法則は生き続けている。

愛を知らぬ者の行く末は崩壊である。互いを愛することのできない結果、争いが生じる。

私だってそうだった。愛を知り切っていなかったのだ。愛は一方的だと人の心に恐怖を与える兵器となんら変わりない。


愛していたのに・・・・・・愛していたのに、拒絶されてしまう。

だから私は拒絶を受け入れ、××されたのだ。

しかし、私と同じような理念。似たような本質を持ち合わせている人間がまだこの星にいたとはな。奇遇ではあるがその命、行く末を見せてもらおうぞ。


夏にふさわしくないほどの暗黒の空。曇天や夕立の空さえも呑み込んで沁みそうなほどの黒。暗闇に閉ざされ、両親はすでに死にかけの状態。何が起きているのか見当がつかなかった。

崩壊のラッパの音と共に入道雲が浮かぶ満天の青空が一瞬にして暗闇に染まり、小説を読んでいた私はすぐにお母さんに抱きしめられそのまま生き埋めになった。じわりじわりとお母さんが重くなっていく。息が苦しいけどそれ以上に熱い。それは気温のせいか、それともどこか近くで火災が発生したのかは定かじゃなかった。それに先ほどまで元気よく洗濯物を干していたお母さんから何故か体温が感じられなかったのだ。冷たい重みと熱風にあてられて思ったことが一つ。

                   死にたくない

それが意味するのは果たして肉体的な死であったのか、それとも・・・・・・

瞬間、私の身体に衝撃が走った。全身を思い切り突進されたような感覚。私はその衝撃と共に意識が消えそうになる。

頑張って持たせないと、私は死んでしまう。

ただその場で眠りにつかないように必死であった。

何か物音が聞こえてきた。人の声が聞こえてきた。

私は歓喜した。だれかが救いに来てくれたと。

ここにいる。私もお母さんもここにいるって叫びたかった。


だけど、その声を聞いて安心してしまったのだろう。私は意識を失ってしまった。

気が付けば私はある少年に抱きかかえられていた。

時代遅れな髪型をして8月で恐らく学校もないのに何故か学ランを羽織っているその少年は、涙を流していた。

涙の一粒一粒が風が吹くたびに降り注ぎの身体に当たる。その腕の中には先ほどまでの熱風も冷たくなったお母さんの重さがなかった。


ああ、私は生かされた。生きているんだと少年の温かい腕の中で感じる。

ハッキリとしない意識の中で見えたものは様々な場所から立ち込める黒煙と薄黄色で不気味な空。そして、両親から『近寄ってはならない、あれは災いを呼ぶものだ』と再三、耳にコブができるほど言われ続けてきた大きな石が割れて崩れている風景であった。


ふと俺の名を呼ぶ声が聞こえた。葬式の最中であった。

大事な仲間が一人、自分の守りたい者を守るため、俺たちに未来を創り出すためにその命を散らしたやつのための葬式であった。最期まで心の底から弔いをしたかったが、俺はその声を聞いてそちらに少し意識が持っていかれてしまった。


それは俺がこの世界線に来る前、日之国にいたころに聞いた声だったのだ。

俺の願いに応え、俺に力を与えた張本人。自分の名を告げることを伏せ、『龍宮の乙姫』と自称した謎の存在は5年ぶりに俺の名を呼んだのだ。

『危険だ、すぐに向かえ』

最初は何を言っているのか全く分からなかったが、その声を聞いた後に俺の脳内で見えた映像は至極最悪なものであった。


俺にとって最悪ならばそれに越したことはない。だが、見えたものはアルトに降り注ぐ最悪であった。

紫色の炎に身を焦がし、人間の血のように真っ赤であった瞳が沼のように深い紫色に染まり、その黄金の体躯は痣のように紫色に変色しきっている状態。

それが意味するのはきっとアルトが紫陽花病に感染するということであろう。何故金の力を持ち、唯一紫の力を浄化できるアルトが感染するのか・・・・・・


12月24日、リードに寿命のことを告げられてからアルトの身になにが起きているのかを逐一俺たちは確認してきた。

すでにアルトの身体は完全には人間のそれではなく、心臓部分を中心に体内で変化が起きていることはすでにわかり切っていた。1月にレントゲンで移されたものは、心臓の原型がすでになく、龍玉のように丸くなりそこを起点に本来のアルトの身体を上書きするように大量の線が映し出された。


ヤブ曰く、『筋繊維と似た何か』ということであり俺たちが立てた仮説は、アルトの身体が完全に人間の者ではなくなり抑止と一体化することが、『人間としての死』であると考えもした。

だが、確かにリードはこうも言っていた。

『シュラバ。アナタは何故この星にいない『青の支族』の力を使っているのですか?』

『青の力とも性質が違いますね。青の力は精神的な負の感情の浄化のはず。ということは・・・・・金の力を応用して一人で紫の力をすべて請け負っているということですね。ですが、それ以上に抑止はレアスの光を持つものにしか受け継がれないのではなかったのだろうか?想定外な事が多いですね、今回のシュラバは』


紫の力・・・・・・リードが『バベル』と呼んだそれを金の力で浄化する。

しかし、実際には青の力である浄化の力はこの星に今現在は存在せず、方法こそわからないものの、無理やりアルトが浄化させている。

加えて、レアスの光というものを受け継がなかったアルトは本来抑止にも選ばれるはずはなく、その結果、身体が馴染まず、獣と戦うたびに金の力の浸食され一体化が進行する。つまり、アルトは二重の壁に追い込まれているのだ。


その金の力の容量を超えた紫の力が浄化されることなく、一体化が始まったアルトの身体に浸食しているというのならば・・・・・・金の力と一体化する前に紫陽花病に感染する可能性は十分すぎる。

リードの言っていた、一人で紫の力をすべて請け負っているというのはこういうことだったのだ。そう考えれば合点がつく。


ならば俺に何ができる・・・・・・?

遣いとして何をアイツにしてやれる?


『すぐに向かえ』という龍宮の乙姫の言葉に従い、直感的に俺をある場所へと向かうことにした。

立ち入り禁止区域と指定されたその場所は『keep out』の文字のテープで入れないようになっていた。そのテープを乗り越えた先にあるのは少し長めの階段。段数こそ少ないものの段差が急であり、大量のヒビも走っているその階段はかつての災害の深刻さを物語るものであった。科学技術班の数名が防護服の中から息を上げる音が聞こえてくる。

確かにそのような格好では階段を上るのはしんどいかもしれないなど他人事のように考えているうちに目的の場所が見えてきた。


かつてそこには大きな社があり、祝祭の日にはたくさんの人でにぎわったという。

その場所は桜田神社。アルトがかつてチヨ君と出会い、彼女を救った場所と以前本人から聞いた二人にとって因縁の場所。

何故自分がそこに向かったのかの理由はない。だがそこに行かねばならないと感じたのだ。

階段を上り切るとまず見えたものは瓦礫の山であった。建物が黒く焦げ切ったそれはきっと二次災害で燃えたのだとはっきりとわかった。石畳の通路はひび割れを起こし、ところどころ隆起していたので防護服を着た科学技術班のメンバーに転ばないように注意を促し、周囲の調査に入った。

瓦礫の中を調査してしまうと日が暮れてしまうため今日は周辺の調査のみとすることにした。何かあるだろうかと周囲を皆で見渡していると、裏手の方に明らかに異様な気配を漂わせるものがあった。

それは、縄で締め付けられた跡がある大きな石。きれいなほどに真っ二つに割れたそれの周囲には無数の虫や動物の死体が転がっていた。


「一体、ここに何があったというんだ・・・・・・・?」


ここのところ最近、やけに身体が熱く感じる。

身体の異変に気付いたのは去年の夏・・・・・・ちょうど7月ぐらいだっただろうか。

前から時々どうしようもなく体が熱くなることがあったが、数時間程度で乗ったのでそこまで重要視していなかった。しかし、最近はなかなか熱が引かないのだ。

最初は風邪でも引いたのかと思っていた。だけどその熱さは頻繁に出てきたり引いたりするものだから特別危険はないだろうと私は思っていた。


一応気になったのでネットで調べてみると自立神経が狂ってるから、ストレスを掛けないように安静にした方がいいとか書いてあったが、今の私は受験生。休息をたくさん取れるわけがない。

それに、この熱もあの時の熱風に比べればなんてことはない。死んでしまうほどではないのだ。

だから気にしなかった。ずっと誰にも言わなかった。例えアルトさんであったとしても。

アルトさんはいろんなことをやらなきいけないし、たくさんのことを背負っていたから、これ以上の心配を掛けたくなくて黙っていた。


でも、その熱を冷ます方法が最近になってわかってきたのだ。それは私がアルトさんと一緒にいるとき、アルトさんに触れている時、頭を撫でられた時。

それはすなわち、アルトさんから私が『愛されたい』時にその熱は活性化し、触れることによって一瞬ぐっと体温が上がるものの、その熱に飲み込まれなければ抑えることができる。

抑え方はわかったとして、その熱の発生原因が未だにわからないままなのだ。受験勉強の忙しさやアルトさんの激務のせいで一緒に居られる時間が少なくなったから?


いや、そんなことはない。

人にそれを言えばきっと恋煩いとか的を射たようなことを言ってくるかもしれない。だけど、あの人への想いはもう5年以上抱いているものであり、私にとって恋というものは四六時中、365日問わずあるものなのだ。


だから、私は勝手にこの熱の意味を解釈して納得することにしたのだ。

愛してるものを失う冷たさを味わいたくないから、私が私自身を暖めて気を紛らわしているのだと。

お母さんの時のような思いを私はしないようにするために・・・・・・冷たくて残酷な現実を、歴史を遠ざけるために無意識のうちに出てしまう私の自己防衛的本能なのだと勝手に考えた。

では、何故去年の7月から急に熱が上がり始めたのだろうか?それだけはまだよくわからないままであった。


アルトさんが金の力、抑止と接触したのがきっかけ・・・・・・?どうなのだろうか。

考えれば考えるだけ謎に包まれるが、今はそんなことを考えている場合ではないと思い私は勉強の方に意識を戻すのであった。


何だろうか、今年に入ってから・・・・・・いや最近になってからどこかチヨへの印象がガラッと変わった気がする。前までは守ってあげたいというか、守らねばならないようなすごく庇護欲がかき立たれるような子だったのに、急に色っぽくなったというかなんというか艶めかしいというか・・・・・・

俺はとりあえず原因を考えてみることにした。それは恐らくあの日が原因であろう。


そう、それは俺が洗面所でチヨの着替えを見てしまったからだ!チヨがまだ俺のところに来た時に何回か入ったことはあったけど・・・・・・いや、この時に一緒に入ったのはいろいろと訳があって一緒に入ることになってたんだけど。その時よりもずいぶんといろんなところが大きくなっていてまああれはびっくりしましたよ。いつの間にそんなお身体に!?っていう感じでしたね。それ以降かな~なんか見る目が変わったというかなんというか。それに冬に入ったぐらいからずいぶんといつもの距離感というものをぶち破ってくるような行動が目立ち始めましてね。ええ、びっくりしましたよ。まさかあのチヨがマフラーを

俺にくれるだなんて思いもしなかったぜ。ああ、そうそうこのマフラー。めっちゃいいでしょ。それに外で俺に甘えてくることなんて本当になかったのにずいぶんとくっつくようになったし、前から可愛い奴だなとは思っていたけれど本当に最近はめっちゃ可愛くなったし印象変わったんだよ!


「・・・・・・で、どう思う旦那?」


「俺は一体何を聞かされているんだ?ノロケか?ノロケ話なのか?」


平均気温がなかなか上がらないこの季節。今年はよく雪が降り注ぎテレビでは交通機関の乱れがよく報道されているが、地下に設営されたこの組織には何ら影響は出ていない。

今日は2月12日 飛月が亡くなり、葬式が行われてから一週間が経過した。

葬式を終えてから俺はようやく飛月の死を受け入れ、あいつが託してくれたこの世界を守る単に再始動することができた。


ティリヤ人のことや獣の問題、それに紫の力や俺の寿命のこと・・・・・・そして一番の問題であるヤマタノオロチ。この世界を、日常を守るためには壁が大きい且つ分厚すぎる。

だけど、一日たりとも無駄にすることはできない。

だから俺は今まで以上にハードな特訓をしてるし、今まで以上に・・・・・・思ったことを言うようにした。


寿命を延ばすためには負の感情を貯めこまないようにストレスをかけないようにする。つまり我慢をしないことである。

まあ、それもあってさっきの本音をぶちまけてみたのだが・・・・・・


「アルトよ・・・・・・」

旦那が怪訝な顔を浮かべて俺の発言に何か返そうとしている。


「それは・・・・・・性欲なのではないか?」


「やっぱりそうだよね!事案ですよねこれは!」

うん、アウト。アウト寄りのアウトである。

男ならば女というものにまあ劣情を抱いてしまうのは仕方ない。そうしなければ人類は此処まで繁栄してこなかったのだから。


だけど、相手が悪い!いや、チヨが悪いわけではないのだけれど法律的にいろいろとアウトですね。それに家族ですよ家族!血がつながってはいないとはいえども家族に劣情を抱くというのは如何なものかなアルトさんよ!?


「まあ、傍から見れば完全に事案ではあるし、さっきの発言自体がいろいろと危ういからな。話を聞くとは言ったもののそんな話を振られるとは思わなかったぞ」


「だってしゃあないでしょ!?こんな話を他のメンバーに聞かれたりしたら俺、完全に変態扱いだぜ!?」


「アルトが変態且つ性の赴くままに動いていることは前から変わらないだろ?」


「それはそうだけれどさ!いろいろな目があるでしょ!?ほら、特に大人の女性陣とかの目!俺だって多少は気にするんだよ、多少は」


「お前が来た時、女性メンバー全員が少しお前と話すのを躊躇していたぐらい目線がやばかったからな」


「マジかよ!?気づかれてたのかよ!?」

だって仕方ねえじゃん!目線が引き寄せられるからさ!マジで女の人の身体から重力か何か出ているんじゃないかっていうぐらい目が持っていかれるのだから仕方ねえよ!


「・・・・・・襲うなよ」


「襲わねえーよ!当たり前っしょ、旦那!そこは信用してくれって!」

受験生だからとかそこら辺のことも除いて、絶対にチヨには手は出さない。それは昔から決めている事なのだ。


「まあ、それはいいとして。アルト、お前は自分の気持ちに気づいているのか?」


「ん・・・・・・?自分の気持ちってなんのことだ?よくわからないけど、今吐き出したものが一応自分の気持ちであるから、気づいているのなら気づいているのかもしれない」


「そうか?アルトのさっきの発言は気持ちではなく、思ったこととか考えた事なんじゃないのか?」


「えっと・・・・・・そうかもしれない」


「いいか、アルト。思ったこと、考えたこと・・・・・・思考というのは気持ちとは全然違うものなんだ」


「違うってどれぐらい違うんだ?」


「そうだな・・・・・・理性と本能ぐらい違うものだな」

何故そんな抽象的なものを具体例として挙げたんだよ、旦那・・・・・・


「思考というものはいわゆる脳内の情報。自分で能動的にするものだ。それゆえに自分の主観というものが絶対に付着するもの。自分の立場、哲学、経験。そういったものに左右されてしまういわば過去的なものだ。

一方、気持ちというのは感情。俺たち人間が生まれたころからある存在。それは自分が見てきた世界や自分が置かれた環境においてすぐさま感じ取れるものである。さっきの思考の能動性とは違って気持ちというのは受動性が強い。人間というもには理性と本能がある。

ここで言う理性は思考、気持ちは本能だ。我々人間は生物でる以上、本能の方が圧倒的に強い。本能のままに、思うがままに振る舞えばどうなるか、アルトならわかるよな」


「・・・・・・人間は此処まで繁栄することはなかった。自分勝手に振る舞えば協調関係が成立しなくなって、助け合いも、相手を思いやることもない・・・・・・それこそ獣や畜生の世界だ」


「そうだ。そうならないために俺達には理性というものがある。様々な状況に置かれても頭を回転させて臨機応変に対応できる力がある。それがなければ俺たち人間は、人類も含めて文明も社会も気づくことはできなかった。そう聞くと理性というものは便利で素晴らしいものだ。だが同時に本能を抑え込んでしまう。それはつまり」


「理性である思考が、本能である気持ちを抑え込んでしまう・・・・・・ということか」

「ああ、アルトはやはり賢いな。前に理由と目的の違いを話していたからこの話も分かると思ってな。伝わってよかった。理性という利便性があり長い人類史の中で重宝され、崇められる対象である理性は本能を抑え込む存在、いわば枷にもなる。

つまり人間は文明や社会を築くために自分の気持ちさえも押し殺してしまうような反獣的存在と成ったのだ。自分の気持ちを殺すというのは、知らないふりをすること・・・・・・いや、もはや気づかないぐらいにまで麻痺させてしまうことだ」


「自分の気持ちの・・・・・・麻痺・・・・・・」


「ああ、思考に縛られ自分がどんな気持ちになっているか気づくことができない。それは気持ちを・・・・・・感情を殺す。自分で自分の首を絞めて殺そうとしていることと変わりない。自分の気持ちを解放するというのは人間が生きていく上ではすごく重要なことだ」


気持ちの開放か・・・・・・確かに俺はいろんなことを考えてるし、自分が置かれている立場のことも思っている。


「今まで縛り続けていた気持ちを解放するというのは本当に大変な事だ。これには時間がかかってしまうかもしれない」


「まあ、そうだよな。がんじがらめになった物を解(ほど)かなきゃいけないってんだ。すごく時間はかかるかも」


「いろんな状況に置かれているアルトに無責任にこんなことを言ってしまってすまない」


「いや、旦那は俺のことを想ってそれを言ってくれたんじゃないか。謝らないでくれよ。じゃあ、特訓の続き頼むよ」

俺は休憩室のベンチから立ち上がり、出口の方へ歩き始めた。


「アルト」

俺の名を後ろから旦那が呼びかける。


「もし少しでも想うことがあったらならば、自分の気持ちに気づけたのなら、その気持ちのままに行動した方がいい。アルト、お前はいろんなものを背負って・・・・・・いや俺たちが背負わせ過ぎて相当負担がかかってる。だから、少しでも気持ちを解放してやってくれ。気づいた頃には遅かったと後悔しないように・・・・・・どうか生きてくれ」


後悔か・・・・・・できればしたくないものだ。


「ありがとう、旦那。だけど、一つ訂正がある。これは旦那たちが俺に背負わせてるんじゃなくて俺が勝手に背負ってるものだ。俺にしかできないことを俺はやってるだけだぜ」


「だが・・・・・・」


「だから、今後一切の旦那からの謝罪は受け付けねえ。謝罪はいいから俺の戦いをどうか見守っていてくれよ」


「・・・・・・ああ」

やるせない顔をして両手の拳を握りしめながら旦那は返事をする。だから俺は心配かけさせないように笑顔でサムズアップをする。そして俺と旦那は休憩室を後にした。


・・・・・・

俺は特訓部屋に向かう道中、歩きながら先ほど旦那から聞いていたことを思い出す。

思考が気持ちを抑え込んでいる。気持ちの解放・・・・・・

ああそうか。俺はもしかしたらチヨのことが・・・・・・

しかし、それは許されない。チヨは確かに俺のことを想ってくれている。俺がチヨを遠ざけるためにしてきたナンパも今まで全く意味を成してこなかった。


だけど、俺とチヨが結ばれてしまうことは避けなくてはならない。

だって、互いの想いを伝えてしまえばチヨはきっと不幸になってしまう。一人取り残されてしまう。

だからチヨには高校に入学したら良い相手を見つけてきて俺がいなくても大丈夫なようになって欲しい。

もうあの子から俺がいなくなっても大丈夫なぐらいになってもらわないとな。

・・・・・・あれ、おかしいな。

今までこんな事思っても大丈夫だったのに・・・・・・今日はなんか胸が締め付けられるように痛いや。

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