第30話 告白

告白


胸の内に秘めたるものを相手に伝えるのは非常にきついものがある。

そのキツイも辛い、恥ずかしいなど様々な感情があるだろう。

しかし、俺の場合は気まずいのだ。

どんなリアクションをしてくるのだろうか、嫌われないだろうか、前と同じような関係を維持できるのだろうかと考えすぎてしまう。

何度も何度も・・・・・・しかし、慣れないものだ。

俺は相当臆病者なのだろう。失うことを極端に恐れているのだ。

だって、俺はもう失いたくないから。怖い思いをするのは、もうごめんだ・・・・・・


12月25日

リードが本部内に襲来してきて一日が経過した。

未だ謎が多い古代文明やレアスの光、ティリヤ人のディストピア構想など俺たちの脳内ではリードによって解禁された情報でいっぱいいっぱいになっている。

昨日もリードが本部から去った後は、チヨを一度寮へ帰してから明日の調停の締結への動きをどうするか、さらにはもはや調停を結ばなくてもいいのではないかなど、いろんな議題をする羽目になりクリスマスイブどころではなくなってしまった。


俺の抑止の力を使ってティリヤ人の王であるヤマタノオロチを倒すということだったが、その話だって真実かどうかもわからない。

こればっかりは飛月も真相がわからないようだ。

しかし、飛月は一体何者なのだろうか?本人が語ろうとするまでは聞かない方がいいのかもしれない。

きっとそれが飛月のためになるのだと俺は信じている。


だが、それと同じぐらい気がかりなことが一つ。何故リードはチヨを勧誘したのかということだ。

チヨは理由こそわからないが、古代文字の暗号を解読でいる唯一の人間だ。

それがリードにとって都合の良い物だったのだろうか?

だが、俺の前でよくもぬけぬけとやってくれたなアイツ!無駄に高身長でイケメンなのがより一層気に食わん!蛇のくせに!

矢形の奴なんて中年のほぼ禿げ頭だったってのに!

まあ、それは置いておくとして、調停を結びにリードがやってくるという時間になった。

俺たち八咫烏は調停を結ばないという結論を出し、新しい八咫烏部隊というのが襲撃してきても対応ができるように戦闘員である俺と飛月、そして旦那と長倉さんだけを本部に残すという形になった。他のスタッフの人たちは寮で待機してもらい、万が一の場合、旦那の味方側の政府の偉いお方に報告し、後の引継ぎやらを行うとか言っていた。


つまり、あの男一人の力でこの組織は崩壊する可能性があるということだ。

地上の孤児院にも影響が出ないように今日はできる限り遠くへ遠足に行ってもらった。

クリスマスなのに働き詰めな孤児院のスタッフさんには感謝しかない。

さて、その調停を結ぶためにリードがやってくる時間になったのだが・・・・・・

リードの返答に俺たちは唖然とすることになるのだった。


「何!?調停をなかったことにする!?それに『引き寄せの法則』も持ち帰るだと!?おまけにこの星から出ていくだって!?」

昨日と言ってたこと全然違うじゃねぇかよ、あの蛇野郎!今までの緊迫してた時間を返しやがれ!


「ええ。私はこの星を去ることにしました。まあ面白いものが今後も見れそうですし、それに昨日は意外なプレゼントも受け取れたので」

飛月以外の3人は全員気が抜けたように固くしていた表情を緩める。


「立花在人。私の声が聞こえていますか?」


「あ、ああ聞こえているが、なんだ?」

急に名指しで呼ばれた。何か用があるのだろうか。


「昨日も言ったかもしれませんが、アナタの寿命のことについて。もって後5年というところでしょう。一人で『バベル』の力を請け負い、体内に蓄積した結果です。ここまで持っているのも奇跡に近いでしょう。もしかしたらコード:ファーストが負担を軽減させてくれているのかもしれません。ですがそれよりも前に、もしかしたら今すぐかもしれない。ヤマタノオロチはこの星に訪れ、今度こそすべてを食らいつくすでしょう」

寿命の話もヤマタノオロチの件も真実性がないとは言え、こいつが嘘を言っているようには俺は思えなかった。


「寿命か。だがその5年ってのは獣がこれ以上現れなかったらの話だろ?じゃあ俺は後4体を相手しているうちに紫の力をまた浄化しては体内に蓄積してなんてやってたらぽっくり逝っちまうじゃねえかよ。お前が帰るってならお前が使うであろう獣も一緒にこの星から消してくれないか?」

紫の粉塵、『バベル』の発生条件は獣の顕現が起因となるものであると俺たちは仮説を立てている。蝿みたいなやつらが現れた時のような、獣の顕現前の化物の出現という例外を除けば、すべてそれが原因となっているはずだ。

龍女部隊の結成後は、そちらが化物討伐を担っているので俺たちの知らない例外のパターンが存在するかもしれないけれど、一体でも獣の数が少なくなれば俺の浄化能力もせずに済むし、龍女部隊も余計な戦いをせずに済む。それに俺の寿命も少しは長く持つだろう。

一石三鳥、なんて頭がいいんだ俺って!


「いいですよ。と言いたいところですが・・・・・・」


「なんだよ、歯切れの悪い。ヤマタノオロチが俺たちの星を喰いつくして人類が消えたらお前のお楽しみが一つ消えちまうぞ」


「いえ、そうではなく。私にはあなた方の言う獣はいませんよ。というか、邪魔なので私が葬りました」


「「「はあっ!!!!????」」」

飛月以外のメンバーが全員驚愕する!

葬ったって・・・・・・前回の矢形、スーロみたいに獣を使って俺たち人類と敵対するのがこいつら世界政府のティリヤ人だと思っていたのに。


「おや、勘違いはなさらないように。私は決して人類のために消したのではありませんよ。ただでさえ邪魔な粉をばらまく上にシュラバにはヤマタノオロチを殺していただかないと人類の存続が危ういのでね。それに8000年もの間、古代文明の王に封印されて負の感情を吸収しまくっているのです。『傲慢の悪神』と同じぐらいの強さはあったことでしょう。レアスの光を持たないあなたが戦えば『強欲の悪神』には勝てなかったでしょうしね」

自慢げに語るリード。クソ、なんか腹立つけどこちらにメリットしかないもんだからなんも言い返せない!


「8000年もの負の感情って・・・・・・昔のシュラバは封印するだけして、獣たちは封印されたまま強くなっていたってわけかよ」


「ええ、昔の悪神はいわばプロトタイプ。負の感情ばらまいて、それを吸収し完成態になるはずでしたが、その前に古代文明の王が封印したのですよ。手早く封印だけして、力を温存しないとヤマタノオロチとまともに勝負できないことを知っていての判断だったのでしょう。

あと、少し語弊がありますね、立花在人。古代文明の時代には金の力に『シュラバ』という名はありませんでした。

言ったではありませんか、シュラバという名は強化人間で在りながら抑止の力に触れたあなたの前任者がつけた名前であり、我々の前でそれを名乗った。それにどんな意味があるのかも私にはわかりませんが、何か意味があるのかもしれない。ですが、我々はあの悪魔のような男のことを記憶から消すことができず、『バベル』と同様、畏怖を込めて『シュラバ』と抑止の力を持つ存在を呼んでいるだけです」


「そ、そうなのか。トラウマみたいなものか・・・・・・」

細かい!別にいいじゃん、どちらにせよ古代文明の王だって抑止の力を持ってたんだからさ!

それと、こんな図太いリードにトラウマを与えるってどれだけコード:ファーストは恐ろしく強かったのだろうか。


「一つよろしいですか、リード」

その声は長倉さんだった。


「おお、アナタと話すのは初めてですね、長倉さん。いかがですか?こちらの組織での活動の方は?」


「前のところなんかよりも居心地が良すぎますね。やはり労働環境というのは大切なものです」

前のところって、そういえば、長倉さんは旧八咫烏部隊の総長とか言われてたな。

でも、そういえば懸賞金をかけられてたって・・・・・・


「まさか、アナタが我々の命令を裏切るとは思いませんでしたよ。おかげで散々な目に遭いましたしね。まあその命令を下したのは一番大道龍治に危機感を抱いていたライドでしたが」


「こちらも死を覚悟しての裏切り行為でした。首が繋がっているのはキャプテンがいたからです・・・・・・その話も今は結構です。それよりも、ミスター・アルトの寿命について。彼の寿命が持って5年ということはそれよりも短くなる可能性があるということですよね?彼の寿命が5年以下になる要因として、獣の紫の力以外には何かあるのですか?」


長倉さん・・・・・・

俺のことを思って聞いてくれたのか、とても嬉しく思う。


「なるほど、確かにヤマタノオロチ討伐の前に余計な負担を立花在人にかけるのは私としても避けたいところ。そうですね・・・・・・紫の力の浸食を恐らく抑止の力が防いでいる状態でしょう。つまり浸食を遅らせる必要がある。さて、どうすればいいと思うかな?」

なんで問題形式なんだよ!焦らすな、さっさと言え!


「紫の力は負の感情を元にその力を強めていたはず・・・・・・つまり余計なストレスをかけてはならないということか?」

旦那がすぐさま答えてくれた。

こういった緊急の場面での大人たちの頭の回転の速さには本当に驚かされる。


「正解。やはり龍神の遣いに選ばれることだけはある。その頭のキレの良さとあなたの腕力でシュラバを導くといい」


「・・・・・・」

旦那が口を閉ざす。

何を考えているのだろうか。だけど、どことなく後悔しているような雰囲気が漂っている事だけはわかる。


「そろそろいいかな?私も権利の移動とかに時間を使わなければいけないのでね。はあっ、誰がこんなに面倒な手続きにしたのか・・・・・・まあ我々なんですけどね」


「いや、お前たちなのかよ!自業自得じゃねえか!」

つい突っ込んでしまった。何でこんなに人類みたいな振る舞いをするのかなコイツは!?いや、異星人というレッテルでもっと意味わからない動きをするとでも思っていたのか俺は。コイツらだって、元をたどれば俺たちと同じようなもんだったわ!


「後、そうだ。立花在人。最後に助言だけしておこう。君がシュラバではなく人として、立花在人としての残りの寿命を過ごしていきたいのなら、君の存在を確固たるものにしてくれるあの子を大切にするといい。きっとあの子が君の生命線だ。あの子が入ればストレスの具合は下がり、想定よりも長く生きられるかもしれない」

チヨが俺の寿命の鍵か・・・・・・まあ納得ではある。

チヨがいる場所こそ俺の帰る場所だ。それがなくなったら俺は俺じゃなくなってしまうだろうな。


「・・・・・・そうかい、言われなくとも大切にするに決まってるさ。テメーみたいなナンパ野郎に捕まらないようにな」

・・・・・・あたりからの視線が少し刺さる。

やめて!俺も時々街中で女の子をナンパをしてるから本当はこいつの事言えないんだって!

でも、チヨのことは必ずどんなものが現れようと守り切ってみせる。

俺の大事な人だからな。


「そして、ジェラ。我々は君を放棄することにしたよ。後の行動は好きにするといい。しかしその黒の龍玉・・・・・・それは一体何ですか?一体どこで手に入れたのですか?」


「・・・・・・」

飛月は何も語らない。そりゃそうだ。本人だって知らないのだから。それに放棄だなんて、別に飛月はお前らのものじゃないのに何言ってるんだか。


「まあいいでしょう。本当はその黒い龍玉も調べたいところでしたが」

黒い龍玉。知的欲求の塊のようなリードさえもその力を知らないのか。

・・・・・・ん、待てよ?あのことを聞いておかないとな。


「そういえばよ、リード」


「どうしましたか、立花在人」


「一つ質問なんだが、俺が抑止・・・・・・金色の力と接触することになったあの日、未確認飛行物体、UFOに襲撃されたのがきっかけだった。お前は何か知っているのか?」


「・・・・・・UFOですか、それは私が知る範疇ではないですね。シュラバの存在を知り、恐れていた他の星の人間たちがむやみにこの星に攻めてくるとは考えにくい。というよりも抑止の力、シュラバと君が接触することになったきっかけを私は初めて知りましたよ」

・・・・・・そうなのか、こいつが知らないとするならば一体誰があの日、地上を攻撃したのだろうか。


「というかお前、なんか都合の良い事言ってこの星を去ろうとしてるけど、実質俺たちにヤマタノオロチの件を丸投げにして自分だけ助かろうとしていないか?」


「おや、ばれてしまいましたか」


「ばれましたか。じゃねーよ!テメーらの王様だろうが!テメー等で何とかしやがれ!このクソイケメン!」


「けなしているのか、褒めているのか・・・・・・今回のシュラバはよくわかりませんね。ですが一つ勘違いをしている。我々は本来敵対関係であり、ヤマタノオロチの件は『引き寄せの法則』をできる限り早く調停をし、この星を実験場にするための材料でしかない。ですがもういいのです」

そういえば、こいつとは敵対関係だった。どっか調子が狂わされるな、こいつには。


「その、もういいってのはどういうことだ?」


「実験は成功、私の知識と技術に狂いはなかったということです。本来であるなら私も他のティリア人と同様、ヤマタノオロチと共にこの星を荒らすはずなのですが、やはり私は人類を愛しているのです。実験こそしようとしましたが、あなた方人類の独自の進化に私は興味がある。私は私の欲を満たすためなら、王を裏切っても構わないですからね。まあ、下手に反抗すれば、私の身が危ないですから。後は人類がヤマタノオロチから耐えきり、新たな進化を遂げることでもあれば、また遊びに来ますよ」

自由奔放なやつだな。命知らずもいいところだ。


「二度と来んな、蛇野郎!テメーの遊び場なんざこの星にはねーんだよ!」

とりあえず気に入らないやつなので俺は最後まで悪態をつくことにした。


「まあいいでしょう。では、健闘を祈りますよ。さらばです、立花在人。いや・・・・・シュラバ」

電話の音声が途絶えた。何で言い換えやがったんだ、アイツ?

もう二度とやつが俺たちの前に現れることはないだろう。


「あー!疲れた!何だったんだよアイツ!気に入らねえ!なんか気に入らねえ奴だった!なあ旦那もそう思わないか?」

俺は旦那に質問してみる。きっと俺以外にもやつに気に食わなさを覚えたやつはいるだろう。


「あ、アルト。何故お前は平然としていられるんだ?」

あ、あれ?質問が質問で返ってきてしまった。

本当なら『質問を質問で返すな~!』とでも言いたいところだけど、そんな雰囲気じゃない。


「平然ってなんのことだ?」


「寿命のことだぞ!お前、5年以内に死ぬかもしれないんだぞ!なのになんで?」

ああ、その事か。きっと旦那たちの感覚が普通なのだろう。

だけど俺は・・・・・・


「最初はびっくりしたさ。流石に寿命なんてこの年で聞くとは思わなかったし。だけど俺はいつ死んでもおかしくなかったんだよ、昔からさ。災害で家が崩れたり、チヨを助けた時にも死ぬかと思ったし、抑止の力を得てからも何回も死にかけた。今ちゃんと生きてみんなと話せていること自体がすごい事なんだからさ」


・・・・・・我慢しているのか、麻痺してしまっているのかはわからない。

もしかしたら無意識のうちに自分の死への恐怖を抑え込んでしまっているのかもしれない。

だけど、少なくとも今の俺は特別何も思わなかった。

自分が死ぬことを考えるよりも、目の前で人に死なれた方がダメージがでかそうだ。


「アルト。この現状を招いてしまったのは俺たちだ。例え紫の力がお前の体を蝕んでいるのが原因だとしても、お前がそうなってしまったのは・・・・・・」


「旦那!」

俺は止めた。これ以上の謝罪のような発言を俺は聞きたくなかった。


「誰も悪くない。誰かがやるしかなかった。もしかしたら他の誰かが抑止の力をもらって獣たちを戦ってたかもしれない。だけどその役目を担うのはたまたま俺だった。ただそれだけのことだ。誰も悪くないよ」

事実そうなのだ。

偶然が重なり俺は生かされ、今を生きている。

そして金の力との邂逅という偶然が再び重なり俺は戦っている。

いろんな人の助けがあったから俺は生きてこれた。日常を過ごすことができた。

それならば、人々の日常を守って命を燃やすことも必然ではないだろうか。

因果は廻り、巡るものだから。俺は廻り廻って、その役目を終えようとしているのだ。


「辛く・・・・・・ないのか?」

辛いのかな?よくわからない・・・・・・


「辛くは・・・・・・ないかな。多分だけどね。ただそれ以上に気がかりなのが、チヨが成人して独り立ちできるところまで生きていられるかって事ぐらいかな」

うん、それを見れなければ死ぬに死に切れん。どうにかそこまでは生きなければ。


「・・・・・・すまない・・・・・・すまない」

旦那が膝からガクッと崩れる。旦那が悪いわけじゃないのに・・・・・・


「謝ってくれるなよ、旦那。これこそ俺たちにとって想定外な事なんだぜ。やつらに想定外な事が起きたのなら、俺たちにだって起きるのは必然だろ?因果は巡るものなんだから」

うん、雰囲気を変えるためにもさっさと話題を移行させないと。

だけど、これを切り出すのはいい物なのか・・・・・・

うん、いいや!聞いちゃえ!


「そういえば、長倉さん」


「ど、どうしましたか?ミスター・アルト?」

長倉さんは意表を突かれたのか少し驚きながら返事をする。


「旧八咫烏部隊とか新八咫烏部隊ってのは一体何なんだ?この組織の名前も八咫烏だろ?そんなにたくさんあっていいものなのか?」

長倉さんは少し考えているのか、顎に手の指を置き少し上の方を向いている。


「そうですね。この際ですから説明してしまいましょう。先ほどリードが言っていたように私は旧八咫烏部隊の総長をしておりました。仕事の内容としては内閣官僚の補佐や世界政府樹立に関わった各国家の重鎮のサポート。果てには世界政府にマークされ懸賞金をかけられた者の暗殺など様々な仕事を幼いころからこなしてきました」


・・・・・・マジかよ。この組織とは全然やってること違うじゃん。


「八咫烏部隊は私にとって居場所のようなものでした。両親は元々八咫烏部隊の端くれであり、私は完全に教えに従い生きてきました。

そんな中。ある仕事が入ってきてそこで私とキャプテンは出会いました。そこからです。私はいろいろあり、仲間を裏切り懸賞金をもかけられ、国に捕まってしまいました。裁判は事実無根なものでしたが、私に死刑判決が出ました。

そこにキャプテンが乗り込み、最高裁判所を破壊。それを聞いて攻め込んできた当時の八咫烏部隊をすべて殲滅してしまいました。そして、居場所を完全に失った私に新しい場所を作ろうと、『俺達で新しい八咫烏部隊を作ろう』と言われたのがこの組織の結成の歴史です。今の新しい部隊に関して、私は一切聞かされておりません。なので、お力にはなれず・・・・・・」


「そんなことがあったのか!暗殺とかする部隊を壊滅させるとかやっぱり旦那すげぇな!」

前に昔政府とつながりがある者がいるとは旦那は言っていたがやっぱり長倉さんのことだったか。

旦那も信用を置くのもわかる。そんなものがなければ、命がけで人を助けようなんて思わないはずだし。

しかし、リードの言っていたことは本当だったのか・・・・・・


裁判所の破壊に組織の壊滅。懸賞金という、政府が危険視してきた人たちを次々と仲間にしてしまう。

そりゃ憲法の存在も揺らぎますわ。この人一人のために軍隊を派遣してもかなわなそうだし。

さて、後は・・・・・・あいつが話すきっかけを作ってみるか。


「なあ、飛月」


「・・・・・・ジェラという名前についてか」

話が早くて助かる。いや、こいつはタイミングが合い次第自分から言うつもりだったのかもしれない。


「いい加減言わないといけないと思っていた頃だ。逆にここまで一言も疑うようなことを俺の前で言わないなんて、お人よしにもほどがあるな、ここの人たちは・・・・・・」

飛月が目を瞑り覚悟を決める。

そして口を開く。自分の正体を明かすために。


「俺は・・・・・・世界政府が崩壊した後、残党たちにより作られた第二世代軍事用生体兵器実験体13号、強化人間ジェラだ」


「・・・・・・!」

言葉にならなかった。

強化人間。話にしか聞いたことがなかったけど人間そのものじゃないか!

飛月が強化人間だなんて・・・・・・


「強化人間!前任者が世界政府を崩壊させてその技術は滅んだものじゃなかったのか!まだ残党がいたのか・・・・・・」


「仕方ないさ。この実験はある場所の地下で行われたのだから。この組織と同じく、見つけるのは至難だ」


「だが、飛月よ。何故お前はこの組織に入ることにしたんだ?勧誘したのは確かに俺だが、あの時、どんな目的があり俺の勧誘を承諾したんだ?」

飛月を勧誘したのも旦那だったのか!一体どんな出会い方をしたのだろうか?


「俺は当初、世界政府復活を目論見る連中の、まあスパイみたいなもんだった。世界政府復活の障害となるこの組織の監視及びここにいる職員の殲滅。そして、大道龍治への切り札としてな」


「もんだったって、それに・・・・・・でもお前は」

俺は俺が思っている以上に動揺しているようだ。言いたいことが言葉になって出てきてくれない。

俺は動揺しているのだ。身近に過ごしてきた人の背景にある闇に・・・・・・

でも飛月がそんな事するような奴じゃないことはよくわかっている。

だって普段から一緒にいるときそんな疑えるような行動をしていないのだから。


「もちろん、今はそんなことはない。すでに俺を改造した施設は改造が終わった直後に破壊した。もう強化人間は生まれてくることはないだろう」


「いや頼もしすぎだろ。身体改造されたら普通は動揺するでしょうが」

なぜここだけ冷静にツッコめたのだろうか。俺自身にもよくわからない。


「まあ、普通はそうだろうな。まあ元々頭がイカレちまってるのかも」

笑いを含みながら自虐する飛月。そこは笑うところじゃないでしょうが!


「てなわけだ。俺はもうスパイじゃないしチップは取り除いたから何も問題はない」

チップ?なんのことだ?


「チップって、まさか飛月!おまえ、埋め込まれていたのか!?」


「なんだよ旦那、チップって?」

旦那が顔に力を入れる。

どことなく、やるせなさそうに。


「遠隔洗脳用装置。世界政府が実験として自分たちの思想などを教え込むために作ったものだ。それを人の脳内に入れてまるで神の声を聞いたかのように思い込ませる。

そうやって世界政府にとって都合の良い人間たちを作り上げようとする計画があったそして、チップを埋め込まれた者の視覚や聴覚情報はすべてデータとなり閲覧が可能になる。その洗脳をかいくぐるほどの行動を起こせばチップが爆発し、対象を死亡させる。だが、それは俺が残党を見つけてすべて破棄したと思っていた。だが・・・・・・」


「実はすでにこちらまで流れていた。それを俺は脳内に植え付けられたってことだ」

そんな悍ましいものがこの世に存在していたのか。

人間にとって自由意志は必要不可欠なものだ。

それぞれの思想や哲学があって個人として人間は確率される部分もある。


しかし、それを奪うのがそのチップ。ということは人間が本当に奴隷のように扱われてしまう。

命じられるままに。その偶像の声に従って行動を起こすことになってしまう。

そんなものは自由なんかじゃない。


「だが、どうやって摘出した?並大抵の医学でも摘出はできるものではないはず」

それもそうだろう。脳内に植え付けられるんだ。

入れる技術があるならば同時に出す技術も存在するのだろうが、世界政府の科学力はほとんどすでに失われている。


「まあそこはいろいろあって外に出せたんだよ。いろいろあってな」

色々って・・・・・そこははぐらかすところなのか?


「飛月、一つ聞いてもいいか?お前は強化人間、そう言ったよな?」

旦那が改めて飛月に問う。その問いの意味を俺は理解できなかった。


「ああ、言ったよ。龍治さんなら知っていてもおかしくないだろうな。強化人間には二つパターンがある。生きている人間から作られるパターンと、死後、つまり死体から作られるパターンとね。因みに、俺は後者だ」


「な!え・・・・・・じ、じゃあ飛月はもう」

後者ってことは、飛月は死んでいるということなのか・・・・・・?


「ああ、とっくに一度死んでるんだよ、俺。おっと勘違いはしないでくれよ、誰に殺されたわけでもないんだ」


死んでいる人間。死んだはずの人間が動く。

そんなものは神話や創作の話だけかと思っていた。

俺だって散々、人が死んでいく光景は見てきた。

誰もが冷たくなり、重くなり、心を無にしながら避難所に運んだ。

だが、俺の目の前の友人は自らそれだと言っているのだ。頭が重くなっておかしくなりそうだ。ダメだ、思考が追い付かない。


「だが、死後作られた強化人間は人としての原型をとどめず、改造された姿のままのはず。その上、脳の腐敗が進んでいれば知能なんてものは皆無だ。なのにお前は人間の姿でいられている。知性だってある。それはどうしてだ?」


「俺も詳しいことはわからないけど、多分その第二世代ってのがそうなんじゃない?せっかく作っても怪物の姿をしてるとスパイなんかできないだろうし」


「そうか・・・・・・もうそれ以上のことは聞かないことにする。それで、これからどうするんだ?知っているのは此処にいる俺とアルト、そして長倉だけだ」


「最後まで付き合うよ。俺にもちゃんと目的がある。そのためにここにいるんだ」


「そうか、この話は此処だけに留めておこう。この組織の中にもかつて強化人間と関係のあるものがいる。下手に刺激はしたくないんだ」

「わかってるよ、龍治さん。この話はここまでにしよう。改めて、俺をこの組織に勧誘していただきありがとうございます、龍治さん。俺にはもうここしかないから・・・・・・」


・・・・・・何を言えばいいのだろうか。

全然頭が回らない。何か言わないと!


「な、なあ飛月・・・・・・」


「無理に話さなくてもいい。自分以外の人の死に関することに、アルトは人一倍敏感なのだから」


「・・・・・・!」

そんなことまで知っていたのかよ、飛月。お前さんは一体・・・・・・


「俺もお前に謝らないといけない。俺にも本当は戦う力があったのに保身のためにその力を隠していた。アルトにばっかり無理をさせてしまった。ごめん」


「あ、ああ。いいよいいよ、そんぐらい・・・・・・」

・・・・・・ダメだ。何も気が回るようなことを言えない。受け答えするのが精いっぱいだ。

思うことでいっぱいだ。飛月は何故命を落としたのか。家族はどうしたのか。

今考えることではないかもしれないけど、どうしても『死』を間近で見過ぎた俺はその思考に囚われてしまうようだ。


「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。流石にいろいろと疲れたからさ。それでは、また明日」

飛月は出口の方へ歩き、姿を消していった。

会議室に沈黙が広がる。それもそうだ、思ってもみなかった告白が多すぎたのだから。


「ま、まさか飛月君が・・・・・・」


「ああ、想定外だ。だが、あいつは俺たちの仲間だ。そんなもの関係はない。今まで通りでいい。俺たちは俺たちにしかできないことをやっていこう」


「・・・・・・」

俺は頭が真っ白のまま会議室を後にした。


20時

俺は部屋に戻り、机に伏していた。

頭が重い。リードの件と飛月の告白が結構精神的にずっしり来たようだ。

まあ、この程度ならストレスには感じないから大丈夫。

昔に比べれば、全然大したことではない。でも、やはり少しフラッシュバックが起こる。

災害の後の亡くなった人たち。遺体や死体を見て悲しむ人たち。

逆にここまでの戦いの最中に起きなかったことが不思議なぐらいだ。

大丈夫。俺が大丈夫と思っている限り俺は大丈夫だ。

こんなことで寿命を縮まるわけがない!そう思い込んでやる!

動揺するな、大丈夫!


「アルトさん・・・・・・アルトさん?寝ているんですか?」

部屋の戸がたたかれる。

チヨの声が部屋の前から聞こえてくる。


「ハイハイ、何か御用でしょうかチヨさん」

戸を開けるとチヨが左手を後ろの方へパッと隠す。

何か持っているのだろうか。うっすらと影が見えた。


「い、いえ。さっきから戸を叩いても返事がなかったので・・・・・・」


「あ、ああ。少し作業、みたいなことをしていてな・・・・・・」


「そ、そうなんでしたか!ち、因みに何してたんですか?」

うーん、今日の出来事を言うわけにはいかない。とりあえずはぐらかさないといけないけど、うまい具合に頭が働いてくれない。


「・・・・・・ま、まあいろいろだ。いろいろだよ、いろいろ・・・・・・」

俺は先ほどまで何があったのかを探られまいと言い訳を考えたけど思い浮かばなかった。


「あ・・・・・・すみません、もしかしてお邪魔しちゃいましたか?そ、そうですよね、最近大変でお時間なかったでしたもんね」

チヨの顔から冷や汗が出てきて少し顔が赤くなっている。

あれ、なんか嫌な予感が・・・・・・


「ち、チヨさん?チヨさーん?何か勘違いしていませんか?」


「あ、あの一旦戻りますね。お、お邪魔しました」

チヨは俺の部屋の戸を閉めようとしてきたので俺は戸を押さえた。


「ま、待て待てチヨ!絶対何か勘違いしてるから!ちょっ、なんでこんなに力強いのこの子!?」

なんでこの子片手しかってないのにこんなに力強いの!?

いつの間にそんな怪力になったんだ!?

とりあえず、俺は誤解を解いて部屋から出ることができた。


「・・・・・・すみません、少し早とちりしすぎました」


「い、いやいいよ。普段の行動が招いたことだし・・・・・・」

俺とチヨはテーブルの椅子に座っていた。

普段は食事する時ぐらいしか座らないから少し違和感がある。

なんかぎこちない。

何してたのかを探られるのも嫌だし、気晴らしにいつものやりますか。


「まあでも、チヨさんは一体、俺が何をしているのかとおもったんでしょうかねぇ?」


「え、ええ!?それは、その・・・・・・」

チヨの顔が赤くなっていく。うん、楽しくなってきた。


「いや~お邪魔しちゃったとかなんか言ってたからさあ~、別に俺は部屋で何もしてなかったんだけどなあ」


「あ、あんな含みのある言い方をするのがいけないんですよ!それに自分の言動を振り返ってみてください!思い当たる節があるはずです!」

考える、深く、深く考える・・・・・・


「うん、ないな。思い浮かばない」

何か悪いことしただろうか。身に覚えがなさすぎる。俺という人間はなんて潔白なんだろうか。


「なっ!?自覚がないとは言わせませんよ!今までだってさんざんいろんな事してきてるじゃないですか、この変態!」


「おうおう!言ってくれるじゃねぇかよ!一体何のことだい、このむっつり!」


・・・・・・

俺たちは向かい合う。

チヨがクスリと笑う。俺も自然と笑いがこみあげてくる。やっぱりこの空間が一番落ち着く。俺の帰る場所だからな。


「良かったです。元気そうで。帰ってきてからずっと部屋に引きこもっていましたので」


「心配させちゃったな。ごめんなチヨ」

ただでさえ受験期で気が張っている時期なのに心配させちゃいけないよな。


「いいんですよ、昨日だってとても忙しそうでしたし。それに守ってもらっちゃいましたし」

う、それ言うか・・・・・・


「何保護者の前でナンパしてるんだって・・・・・・普段から女の人ばっかり色目を使ってる人が良く言えましたね」

チヨがニヤッとした顔で俺を見てくる。やめろ、それは俺も気にしていたことなんだ。


「それで、何か用があったのか・・・・・・そうだ!夕飯作ってないじゃん!悪い!少し待ってな、すぐ作るから!」

もう20時を回っている。

普段は19時過ぎにはできるようにしていたが、今日はそんな余裕がなかった。


「い、いえ!今日は何か買ってきましょう!アルトさんも疲れてるでしょうし」


「・・・・・・まあ、たまにはいいか。でも今日は冷えるんだよな~。っても多分夕飯の材料もないからどのみち外に出なきゃいけないけどさ」

今から作るのも面倒だが、外に出るのはもっと面倒だ。

寒いの苦手だし、外に言っても今の時期的にカップルばっかりだし。

それに、みんな厚着だから露出の多いお姉さんは町にいないから楽しみがない。


「今、何考えてたんですか?」


「いえ、何も。まあどのみち行かなきゃいけないか。チヨは留守番しててくれよ。寒くて風邪ひくのも嫌だし」

俺は部屋へ上着を取ってこようと席から離れる。


「あ、あのアルトさん」

だが、その動きをチヨが止める。


「どうした、チヨ?食べたいもの思いついたか?簡単なものなら作れるけど」


「い、いえ。そうではなくて。き、今日は寒いですよね」


「ああ、かなりな。この後雪でも降るかもしれない」


「なので、これ。もし、よかったら」

チヨが膝元に置いていたものを両手で持って俺に差し出してくる。

顔は恥ずかしそうに下を向いたままだ。

多分先ほど俺の部屋を訪ねた時に持っていたものと同じもの。それは四角い長方形をして、プレゼント用紙につつまれたものだった。


「こ、これはチヨ?」


「あ、開けてみてください」

俺はチヨからそれを受け取った。俺は包みを破り、箱を開けた。

そこに入っていたのは・・・・・・

真っ白なマフラーだった。


「これは・・・・・・俺のために買ってくれたのか?」


「前に寒いの苦手って言ってたのを思い出したので・・・・・・それに今年は家事のこととかいろいろまかせっきりで、何もできてなかったので・・・・・・そのお礼です!ど、どうですか?」


・・・・・・めちゃくちゃ嬉しい!

チヨが俺のためを思って選んでくれたんだろ!?

嬉しくないわけがない!上がった口角が下げられない!


「・・・・・・・嬉しい!ありがとう、チヨ!早速これつけていってもいいかな!?」

それを聞いてチヨはパアッとうれしそうな顔をする。


「もちろんつけていってください!でも・・・・・・巻いてるところ、私も見たいので私も一緒に行きます」

俺とチヨは近くのショッピングモールへ歩いて向かった。


町の中はカップルだらけ。普段ならイライラしているところだが、今日はもうそんなちっぽけな事に嫉妬している暇はない。

ただただ嬉しい。かなりご機嫌である。


「どうですか、暖かいですか?」


「ああ、もう十分なほどに!ありがとな!チヨ!」


「そ、そんなに喜んでもらえたなら、選んだ買いがありました。本当は手作りも考えてたんですけど、勉強のことがあったので」


「いいのいいの!俺のことを思って買ってくれたんでしょ?それは手作りの愛の深さに勝も劣らないものなんだから!」


「・・・・・・もうこの人は。素でこういうこと言うんだから」

なんかチヨが小さい声で言っていたが、町の賑わいでよく聞こえなかった。

外は冷え込み、チヨがくれたマフラーがなかったら正直きつかった。

そして、チヨがなんか大人っぽい厚着をしている。黒くて長めのコートだ。


「チヨ、そんな上着持ってたっけ?」


「このコートですか?かっこいいでしょ?前に五代さんの赤い力を見た時、かっこいいと思って、それに似たものが売ってたので買っちゃいました。どうですか?」


「うん、似合ってるよ。普段よりも大人っぽく見える」


「そうですか!私も五代さんみたいにカッコよくなりたいなあ」

ずいぶんと五代のやつを好んでいるようだ。


「そういえば五代とすごく仲良かったもんな、気づいたら急に距離が縮まってやんの」


「やっぱり初めて本部に行ったときに私が動悸を起こしたときに五代さんが支えてくれたのがきっかけですかね。でも、思い出してみると五代さんってどことなくアルトさんに似ているような気がします」

五代と俺が?似てるところなんてあるかな?

そんなことをチヨと話していると、空から冷たいものが降り注ぎ始めた。


「わあ!雪ですね、アルトさん」

チヨはますます嬉しそうな顔をするが、寒いのが苦手な俺はまっぴらごめんな相手だ。


「うわ~寒くなるじゃん。早くショッピングモールいこうぜ」


「せっかくのホワイトクリスマスですよ。もうちょっと風情を楽しむとかないんですか?」


「だって寒いの嫌だもん」

チヨがムスッする。そして、構ってほしいと言わんばかりに俺の体に寄りかかってきた。


「私も冷えてきました。あ~寒いな。温めてほしいな~」

そう言いながらチヨは手をぶんぶんとわざとらしく振る。勿論、この甘えん坊が何をして欲しいかはわかっている。

だけど、なんかあまりにわざとらしくするので面白い。誰がのってやるものですか。


「寒い!?それはまずいな!ほら俺が持っているカイロで温まりな!」

俺もわざとらしく声を張り詰めてコートのポケットの中に入れていたカイロを取り出すと、チヨの顔が余計ムスッとした顔になっていく。なんだこの小動物みたいなやつ。可愛いかよ。


「ほら、わかったよ。あいよ」

俺はチヨの手を掴んで俺のコートのポケットの中に入れた。


「・・・・・・!」


「これなら寒くないだろ?なかにカイロもあるし」


「は・・・・・・はい」

チヨが顔をうつむけて黙り込んでしまった。少し大胆過ぎたか。

俺たちはしばらく無言のままショッピングモールに向かう。


「アルトさん」


「どうしたチヨ?」


「こういった景色もアルトさんが守ってくれているんですよね」


「・・・・・・まあ、部分的にはそうなるな。俺やみんなで守った景色だ。勿論チヨだって一緒に」


「・・・・・・いつもありがとうございます。私たちを守ってくれて」


「どしたん、藪から棒に?」


「でも、正直に言うと、アルトさんがこれ以上戦って傷ついていく姿を私は見たくないです」


「・・・・・・そっか」


「でも、アルトさんが決めたんですもんね」


「・・・・・・ああ」


「アルトさん。ずっとそばにいてくださいね。ずっと、ずっと・・・・・・」


「・・・・・・そうだな・・・・・・長生きしねぇとな」


寿命のことはチヨには伏せておくことにした。

そのことを告白するのはせめて受験が終わってしばらくしてからにしようと思っている。

この子がしっかりと自立した大人になるまでは生きないと、きっとまた壊れてしまう。

それに、俺もチヨとはできる限り長く一緒に居たい。

俺にとってこの子といる時間が一番の幸せなのだから・・・・・・




解読が終了し、内容の公開が可能と審査された神託


1,人、あまりにも勝手すぎる行いで、星、泣いているぞ。悲しんでいるぞ。星、人々を敵として定めたくないぞ。行いを振り返れ。さもないと、この世は楽園から地獄と化するぞ。


2,悪神、攻めてくるぞ。大きなラッパの音と共に攻めてくるぞ。悪神と共に蛇も来るぞ。色を持つ者よ、抑止の力を持つ者よ。どうか対応してくれ。食われてくれるな。


3,星、太古の時代から狙われているぞ。よう周りを見ておけ。食われる人多いぞ。恐怖に駆られすぎるなよ。食われるものは身体とは限らないぞ。心も食われるぞ。


4,人は星にとって資源だぞ。資源は資源らしくしておけよ。あまり自分第一になるなよ。痛い目見るぞ。


5,目を澄ましてものを見ろ。疑問に思ったことは素直に受け止めておけよ。批判怖いぞ。迫害怖いぞ。けれど自分の素直な気持ちは、光を生きていく上で重要だぞ。


6,蛇やってくるぞ。三度(みたび)星、食われるぞ。星、抑止を解放するも苦戦するぞ。人、互いに争い合っている場合ではないぞ。防いでくれよ。


7,あまり物事に振りまわされるなよ。嘘は災いを呼ぶぞ。


8,疑問は食われないためには確かに重要だぞ。しかし、疑い過ぎるな。疑いが過ぎる者は心の暗きところに邪が来るぞ。邪、自分も周りも苦しめるぞ。身も心も周りも見えなくなるぞ。


9,烏の動きに注目せよ。


10,赤、人々に力を与えるぞ。赤は命の源ぞ。血であるぞ。穢してくれるなよ。


11,橙、人々に暖かさをくれるぞ。いろんなものを創り出すぞ。大事にしろよ。寒いと人、身も心も参ってしまうぞ。物がないと人、生きにくいぞ。


12,黄、人々に光を与えるぞ、土台であるぞ。目を大事にしろよ。足を大事にしろよ。暗き道は蛇の道だぞ。気を付けろよ。


13,緑、人々に癒しを与えるぞ。自然は物質だぞ。癒され、癒してくれよ。


14,青、この星にいないぞ。悲しいぞ。青は心だぞ。精神だぞ。身体と心を繋いでくれるぞ。帰ってきたら丁寧にしてくれよ。


15,紫、人々に   を与えるぞ。人、これを呪いと言わないでくれ。乗り越えてくれ。物事の負の側面を見がちなのは人間、みな同じだぞ。意識、目覚めるときが来たぞ。  

を切り替えるときが来たぞ。

獣に堕ちた人、悪いがやり直しだぞ。負の心が表すものがその自分の身体だぞ。紫に侵されなかった光よ、どうか彼らを導いてくれ。

(空白箇所、解読不可能)


16,閲覧不可 八咫烏閲覧済み


17,閲覧不可 八咫烏閲覧済み


18,金、信仰せよ。しかし宗教にはするな。信仰と宗教は異なるものだぞ。金、星の抑止だぞ。支えてやってくれ。(ここから下の文章、解読不可)


19、銀、決して金に劣らないぞ。素晴らしいぞ。(ここから先、解読不可)本編だと解読不可扱いにする。


20,色、人を構成するものだぞ。人を構成するのは骨や肉だけではないぞ。魂もだぞ。魂の本質、見抜いてくれ。


21,急いでくれ。色の特徴を見抜かないと、後に辛くなるぞ。


22,道、誤るなよ。人の道を外れれば、そこは獣の道ぞ。踏ん張れよ。


23,獣、食らうぞ。心を食らうぞ。肉も食らうぞ。その獣、最後は滅びの食い物になるぞ。改心してくれ。昇華して人に戻れよ。


24,我らは星の子、人間で在るぞ。驕るなよ。人も神も同じだぞ。(ここから先解読不可)


25,星は学び舎だぞ。       学校であるぞ。ここが最終地点ではないぞ。学べよ。学べよ。(空白箇所解読不可)


26,龍は星の抑止だぞ。水だぞ。血だぞ。光だぞ。自然だぞ。恐れないでくれよ。蛇は龍ではないぞ。姿が似ているだけだぞ。

27,龍は人間を信じ、色を与えたぞ。己に課された役割、果たしてくれよ。


28,世界、始まりに攻めてくるぞ。終わりが近いぞ。


29,解読不可


30,傲慢、一番思い罪だぞ。根元だぞ。自らの行いを顧みよ。改心してくれ。


31,強欲、身を亡(ほろ)ぼすぞ。だが、進化には欲が必要だぞ。常に考えよ。抑えてくれ。


32,嫉妬、恐ろしいぞ。そのエネルギーは小さな幸せや気づきをも悉く壊すぞ。周囲をよく見よ。人の話に耳を傾けよ。自分を知り、信用にたる人に知ってもらえ。


33,怠惰、後悔するぞ。『何を思おうとも後の祭り』にならないように心がけよ。しかし、時には休めよ。極端になるなよ。この世は100か0では成立しないぞ。1も2も50もあっていいのだ。


34,暴食、キリがなくなるぞ。臓物を汚すのは肉体や精神を穢すのに等しいぞ。獣や畜生になるぞ。野菜食えよ。肉もある程度食えよ。感謝して食えよ。されば満たされるぞ。


35,憤怒、悲しいぞ。怒りは悲しみが根底にあるのだぞ。何が悲しいのだろうか。

なんで怒るのだろうか。原因を探り、解消してくれよ。


36,色欲、愛憎にならないようにせよ。人は愛を知るために生きているぞ。憎しみは道を外す理由だぞ。愛し、愛されてくれ。



新たに解読された神託


37,人は廻るものだぞ。肉体は魂の器だぞ。器が壊れたら、魂は靈界に還り、行いを多種多様な視点から見ることになるぞ。道、外れたら獣になるぞ。畜生になるぞ。また人になるぞ。やり直しだぞ。己の在り方、振り返れよ。気づけば改められるぞ。改心し、楽になれよ。


38、資源、無限だぞ。足りない、足りないと嘆いていると本当に何もなくなってしまうぞ。満ちていると感じよ。満たされるぞ。宇宙(そら)は無限に与えるぞ。


39,星は蛇以外にもいろんな者から狙われるぞ。愛と幸福の星故かな。


40,狐に気を付けろ。狐、人の情をついて気力奪うぞ。人、枯れるぞ。憑かれた者、振り回されるぞ。守ってやってくれよ。追い出してやってくれよ。


41,人、死を必要以上に恐れてはならない。人は廻る者だぞ。血が循環がよくない身体は調子が悪くなるのと同じように、世界の循環を逸脱するとバランスが崩れるぞ。星、怒るぞ。


42,人、道の基準をある程度定めよ。どの程度のことまでして良いのかを予め把握しておけ。しかし強制はするな。強制は支配だぞ。蛇の策略通りだぞ。


43,病気、早く治せよ。変に気を落とすなよ。病は気からだぞ。薬も良いが頼りすぎるなよ。良薬は口に苦いが、過ぎれば毒となることも覚えておけ。


44,命がけを尊ぶ者よ、反省せよ。皆、生きているだけで命がけなのだ。それ以上を要求するのは強欲だぞ。食われるぞ。


45,新たな命、大事にしてくれよ。命も愛も廻るもの。抱きしめてくれよ。


46,命、人間が意図的に生み出してはならないぞ。それは神が行うものだぞ。廻りを守れよ。都合勝手に生み出してくれるな。悲惨だぞ。大罪だぞ。


47,政治をよく見よ。国を良くする集団が己が欲に振り回される始末。皆、振り回されるぞ。振り下ろされるぞ。欲に振り回される者よ、改心せよ。大罪だぞ。


48,太陽の力、凄まじいぞ。我らに恩恵を与えるぞ。しかし人の太陽、使い方を誤ると星が持たないぞ。人、辛い辛いになるぞ。星も辛くなってしまうぞ。苦い思いをしたくなければ、依存は禁物だぞ。


49,お金の使い方に気を付けろよ。欲を満たすためだけに使えば、畜生だぞ。自身の工場の為に使ってくれよ。自身の向上の方法は、人によって過程が違うぞ。


50,愛の星。文明の向上を図る。しかし一度失敗した。罪の影響は大きいのだ。皆、己の欲するままに動き、滅びたぞ。                      外の者たち、自分たちが越されないように抑え込んでくるぞ。星々の協定を破ってくるぞ。追い返してくれ。(空白箇所解読不可)



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