第29話 引寄 (ひきよせ)

              引寄(ひきよせ)


「ヤマタノオロチ?そいつがお前たちティリヤ人の王なのか?」

ヤマタノオロチ・・・・・・聞いたことがないな。

本物の悪神と言われているぐらいだから神話とかに名前が書かれていてもおかしくないと思うのだが、見たことがない。


「八岐大蛇だと!?まさか実在したと言うのか!?」


「旦那知っているのか?」


「ああ、俺が元居た世界、日の国の神話に存在したとされる8つの首を持つ蛇の神だ。悪意を食らい、人を食らう者として恐れられていたんだが、須佐之男命という神の手で葬られたと聞く。だが、それはあくまでこちらの世界の八岐大蛇の話だ」


「なるほど、そちらの世界にも我が王は存在していたのか。おまけに須佐之男命、スサノオときた。なるほど道理で・・・・・・」

なんか一人で納得してしまった。


「そういえば、どうやら我々ティリヤのことを前から知っているような節がありますが、ジェラから聞いたのですか?」


「・・・・・・」

飛月がリードを睨みつけているが、リードは見向きもしない。


「いや、我々が独自で研究し、お前たちの正体にたどり着いた。お前たちが古代文明の時代から何かとやっていたことは知っている」

リードは考え込むような所作をしている。脳内で考察でもしているのだろう。


「なるほど・・・・・・ですが、古代の言葉を解読できるものがいるのですか?正確に記号や音を解読できる者がいるのか・・・・・・」

先ほどまで動かなかったリードの表情が少しだけ変わった。

その表情の動きはまるで動揺しているようだった。


「なるほど、龍神の遣いであるアナタであるなら納得だ。前のシュラバの時にはそんな存在いませんでしたが・・・・・・だが、龍神の遣いであっても、古代文字の音声を認識することはできても暗号の解読はできるわけがありません・・・・・・いったい誰が?」


「教えるわけねぇだろ。ヤマタノオロチだか何だか知らねえけど、本当に生まれ変わっているのかもわからねぇし、こちらの情報の開示は取引にはなかったはずだぜ」

チヨのことを探られるなんてこちらとしてはまっぴらごめんだ。

あいつはこの戦いとは全然関係ないんだ。


「まあ、そうですよね・・・・・・」

リードは再び考え込み、ポケットに手を入れた。

その手がポケットから出たと思ったら、何か紫色の三角錐上の物体を持っている。

その物体がリードの手の上で浮遊する。


「なんだあれ?旦那は知ってるか?」

旦那に聞いてみると、顔色が悪そうだ。


「ま、まさか・・・・・・あれが!」


『受け入れる』


リードがそう発言すると、その物体が少し光る。


「・・・・・・なるほど。まさかこんなことが起きているとは」

リードが先ほどよりも少し口角を上げ、指を鳴らす。そうすると、ふっと風が少しほんぶの中に吹いた。

室内なのに風が吹くか?と思っていると、そこには・・・・・・


「あ、あれ?私、なんでここにいるだろう!?今勉強してたのに!?」


「なっ!?チヨ!?なんでここに?」


「あ、あれ、アルトさん?それにみなさんも!え、ええ!?」

チヨがやってきた。風と共に・・・・・・

なんだ?何かに引き寄せられたってのか?


「そ、そうか。お前が龍之国政府をそそのかし、あの法則の取引を行ったのか!?」

旦那が冷や汗をかいている。旦那は何か知っているようだ。

あの物体がそんなに恐ろしい物なのか?

だけど考えてみればわかる。あの物体はリードの『受け入れる』という言葉に反応するかのように光り出し、チヨを本部内へ瞬間移動させた。


「おや、ご存じでしたか、大道龍治。これが私と国の密約で取引したものです。龍之国政府は龍女への適性があるものを探しだす。その代わりに私が追求し発見した法則を取り入れたこの物体を差し上げるというものです。まだ実験最中なのでお渡しはしていませんがね」

まだ完成していないのか。いや待て、それよりも気になることがある。


「なんだよ、見つけ出した法則って?」

俺が聞くとリードが今日一番嬉しそうに語り始める。


「よくぞ聞いてくれました!これこそ、私が見つけ出した宇宙の法則である『引き寄せの法則』というものです!いや~苦労しましたよ。原理こそ掴んだものの、これを物質化させるまで次元を落とすのは!まあ完全版ではないので数回使うと使えなくなってしまうのですがね」


「はあ!?引き寄せの法則の物質化だぁ!?」


「それを使って桜田千世がこの本部内にいるという『世界』を引き寄せました。どうですか、驚いたでしょ?」

めちゃくちゃだ!めちゃくちゃすぎるぞ!この宇宙人!


「それが政府の手に渡れば何が起こるかわからない貴様ではないはず!なのに何故密約を交わした!」

旦那がガチギレをしている。それもそのはずだ。

引き寄せの法則といえばオカルトやスピリチュアルの世界では有名なものである。

自分の思ったことを引き寄せて具現化する。

色々原理や方法はあるものの、もっと簡単に言えば、自分がそう在って欲しいとか、自分がそうなりたいといったものをイメージしたり、口に出したりすることでその世界線に移動することができるというものだ。

俺も一時期そんなものがあるのかと思ってネットで調べまくったがどれも眉唾物ばかりで嫌気がさしていたのだ。


だが、それを物質化して俺たちの目にも見えるようにコイツはしたのだ。

つまり、引き寄せの法則は実在し、やり方さえわかってしまえばだれにでも使えてしまうというものだ。

今ここにある世界を自分の都合の良い世界へ書き換える。それはとんでもないことだ。

正規のやり方でやれば法則に則った方法なので問題はないだろうが、コイツがやっていることはいわば、『ゲームの違法改造』みたいなものだ。

下手をすれば世界にバグ(ゆがみ)が発生しかねないし、世界線がいくつ発生するかわからない。この星がおかしなことになり始める可能性があるぞ!


「わかっていますとも。引き寄せの法則の悪用は宇宙法や銀河連邦において禁じられているものです。ですが、銀河連邦に加盟できるほどの文明レベルのないこの星でなら実験が可能です。それに物質化が本当に成功していたのなら、人類の更なる進化を私はまた見ることができるのです」

訳わかんねー。やっぱりこいつは自分の欲を満たすために俺たちを道具のように扱おうとしているんじゃないか。


「おっと、気分が上がってしまいました。失礼、つまり私はこの法則の運用を確実なものとし、次元を超越し、すべてを知りたいのです。そのためには人類の進化を見てその進化の仕組みをも知る必要があるのです。そのために私は、私が発見したこの法則で人類を新たなステージに立たせ、それを見守りたい。

だが、あなた方はバカではない。これの危険性を十分にわかっているはずです。確実に私を止めに来るでしょう。そう思ったので、騒ぎになる前に立花在人の身柄を押さえ、いずれ反乱分子になるであろう龍女部隊を片付けてしまおうと思ったのですが、ダメですか?」


「ダメに決まってるだろ!!!」

ついでかい声で返してしまった。何あたりまえの事聞いてるんだこいつ!


「俺たちがはい、いいですよって頷くわけねーだろ!お前なんか凄そうなの作ってるけど本当はバカだろ!バカなんだろお前!」


「いいえ、あなた方人類よりも発達した科学力を持つ私があなた方人類よりも劣っているわけがありません。それに私はただただ追求したいだけなのですよ。黙ってうなずかないと痛い目を見るぞこの猿!」


「言ったな!爬虫類野郎が!そんな危険なもん、俺たち人類には早すぎるんだよ!それをわかったうえで渡すとかアホだろ、お前!さっさとこの星からその法則ごと出ていけ!」


「何を!私はあなた方を作った存在ですよ!親に歯向かうなど!」


「はーい、最近流行りの毒親ってやつですか?子どもが親の言うことを純情に聞くと思うな!反抗期の一つや二つ、癇癪の一つや二つぐらい受け止めてみやがれってんだ、この蛇野郎が!燃やして食うぞオラ!」


「・・・・・・なんであいつ等急に言い争いしてるんだ?さっきまでシリアスな話をしていたのに。」


「それになんで自分自身の次元を上昇させるとか言ってる人があんな低次元な争いをしてるんだろうな龍治さん」

俺とリードの言い争いを旦那と飛月がしょうもなさそうと言わんばかりに見つめてくる。

なんかこいつと一緒にされるのは癪だ。


「あ、あの・・・・・・」

俺たちの言い合いに水を差してくれたのはチヨだった。


「何が起きているのかさっぱりわからないのですが、あの男の人が持っているあれってもしかして、紫陽花病とかに関係しているものですか?」


・・・・・・!

そういえばそうだ!

あの物体は紫色をしている。それに紫色といえば紫陽花病や獣、やつらで言うところの『バベル』なのか?

じゃああの物体は紫の力を応用したものなのか?


「桜田千世ですか。古代文字を解読し、この組織に情報を伝えたという・・・・・・」


「え?なんですかこの人?なんで古代文字のことを?」

リードがチヨの近づく。


「そうか、アナタが・・・・・・まさかとは思ったが・・・・・・」

さらにチヨに近づく。

俺は身構えた。こいつがチヨに変な動きをするようなら一瞬で叩き潰す。


「桜田千世さん。私と共に来てくれませんか?あなたが入ればもしかしたら・・・・・・」

続きを聞くまでもない。俺は間髪入れずに金の力を腕に纏わせてリードを殴りつけた!

だが、リードは黒く鋭い爪を持った手で俺の拳をガードしてきた。

会議室内に鈍い音が鳴り響く。


「おいおい保護者の前でナンパたぁ、いい度胸してんじゃねぇか?アアッ!?」


「ナンパとは、そんな下賤な事はしませんよ。計画をもしかしたらスムーズに進められると思ったのですが・・・・・・なるほど。立花在人、君の本質を確固たるものにしているのはこの子か」


「んなこたぁどうでもいいんだよ?これ以上チヨに近づくんじゃねーぞ!」


「おお怖い怖い。そういうところはかつてのシュラバを思わせますね・・・・・・ですが力だけなら圧倒的に前の方が強かった。それに立花在人、君では私には勝てませんよ」


「なんだと!?じゃあ試してみるか!?今、ここでよお!!!」


「アルト!一旦沈まれ!俺たちが包囲されているということを忘れるな!」

俺を止めてくれたのは旦那だった。


・・・・・・その通りだ。今俺たちは停戦をする上で圧倒的に不利な場に立たされているのだ。


「そ、そうだった。悪い旦那」

・・・・・・

高まる感情を抑えることができなかった。少しは反省しないとな・・・・・・


「まあいいでしょう。今回のシュラバの件。そして桜田千世の存在。私にとって想定外な事が多い!実に楽しいひと時を過ごすことができましたよ!今日は一旦引き上げることといたします。明日にでも、いい返答を聞かせてくださいね、大道龍治」

そう言ってリードは紫色の光に包まれて本部から去っていった。

瞬間移動だろうか。引き寄せの法則を使ったようには見えなかった。


「ハアーーーーッッッ」

旦那は大きくため息をこぼす。

俺が朝方、カップルたちのことを飛月に語っていた時と同じぐらいの大きさだ。


「かなり面倒なことになった。アルトの身柄の拘束。そしてチヨ君の存在が相手に渡ってしまった。どうしたものか・・・・・・」

旦那は机に両肘をつく体勢をして両手で頭を抱える。


「・・・・・・」

何故リードのやつはチヨのことを想定外と言っていたのだろうか?

古代文字の暗号を解読したから・・・・・・いやそれ自体、やつは引き寄せの法則で情報を手に入れた時点でわかっていた。知っているような情報を想定外というようなやつだろうか?

謎だ・・・・・・全く持って理解できない相手だった。

ただわかったことは一つ。あいつはバカだ。





「待ちなよ、リード」


「おや、ジェラ。何か用ですか?八咫烏の情報を流せとスーロに言われていたはずなのに情報を送らず、おまけに埋め込んだチップさえ取り外している。アナタ、何故生きているのですか」


「・・・・・・」


「・・・・・・ほお!これは驚いた!そうかそういうことだったのか!ッハハハハハハ!!!わかりましたよ。何故君の本質である『未来』が歪み濁って見えたのか!そうか、そうだったのか!どうやら私の実験は成功していたようですね!」


「この件から手を引け!リード!そして二度と立花在人と桜田千世に関わるな!」


「・・・・・・あなたの経験で、彼らと何があったのか私にはわからない。だがいいでしょう。今日はとんだクリスマスイブでしたよ。こんなところにサンタさんがいるとは!いやはや、結構、結構」


「・・・・・・」


「いいでしょう。この件から手を引きます。勿論、『引き寄せの法則』も持ち帰ります。ただ伝えるのは明日でいいでしょうか?今日はこの充実感と達成感に酔いしれたいのですよ」


「構わない。本当に約束してくれるのなら」


「ええ、必ず。嘘は悪しき心です。悪しき心は次元上昇にも関わってきますからね」


「強欲が何をぬかすか」


「それはアナタもでしょう、ジェラ。『嫉妬』であるアナタが、強欲にも先の見えない未来を掴み取ろうとしている。アナタの理想とする未来に向かうために何度も何度も・・・・・・そろそろ限界なんじゃありませんか?その調子では近いうちに人間の体を維持できなくなるでしょう。そうしたらどうするのですか?」


「その時は、兄弟が何とかしてくれるさ。きっとアイツなら俺を殺してくれる」


「ずいぶんと信用しているのですね、立花在人を。初めて出会った時とは全然印象が違うと思いましたが、立花在人の存在があなたにとって大きな影響を及ぼしましたか」


「・・・・・・」


「面白い。やはり人間は面白い!さあアナタたちはどこに向かい、何をなしてくれるのでしょうか!楽しみで仕方ありませんよ!私は必ずまたこの星を訪れます。そうですね・・・・・・まあ機会があればですが。人類がまだ生きていればきっと新しい進化をまのあたりできるはずですからね。楽しみだ!長生きしませんとね!」


「・・・・・・」


「では達者で、ジェラ。いや、飛月未来。君の未来が輝かしい物で在りますように」


・・・・・・

そろそろ伝えるべきだろうか。

俺がなんの目的でこの組織に入ることになったのかを・・・・・・

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