第28話 強欲
強欲
欲望は人間が生きていく上で必須な感情である。
生きることを望み、食料を欲し、眠り、子孫を残すための行為をする。
それ以外にも自分の地位の確立、金銭の確保等の自己顕示欲や承認欲求もまた欲望である。
自分の思い通りの世界にしたい。自分が思った通りになればいい。そんなこと思う人は多いだろう。
欲することは罪なんだろうか?強すぎる欲は大罪なのだろうか?
強欲は身を亡ぼすとはよく言ったものだが、俺はそんな風には思えない。
強い欲こそ人間が楽しく生きるためには欠かせないものだ。
欲し、願い、望みをかなえるために行動する姿こそ人間らしいと思うばかりだ。
では、何故罪と言われてしまうのだろうか。それはその強い欲求を自分の意志で支配できていないからだ。
我々は欲求ではない。我々は自分である。
強い欲で自分というものを失い、様々な事に手をまわした結果、身を亡ぼすと言われれば納得がいく。
人間は強い欲に振り回されてはいけない。自分でコントロールし、己が欲を満たすために振る舞えばいいのだ。
そのためにも、自分が何を欲しているのかを明確にして、それに向かって余計な事を考えず、誰がなんと言おうとも無我夢中でエネルギーを願いに注げばきっと満たされることができるだろう。
12月24日
どうも皆さん。アルトです。
いよいよ世間ではクリスマスと呼ばれる世間的に言うととてもめでたい日になったわけだ。町はグラデーション豊かに彩られ、歩く人たちは・・・・・・
人たちは・・・・・・
「はあー」
「なんだよ、アルト?急にデカデカとため息なんかついて」
急に俺が大きな音でため息をしたことにびっくりしたのか、飛月が話しかけてくる。
「だってよ、世間じゃ今は休日。おまけにクリスマスイブときた。なのに俺たちはむさくるしいこの空間でずっとトレーニングだ。今頃恋仲のやつらはイチャイチャしてると思うと、ため息もつきたくなるもんだ」
「気持ちもわからなくはないけど、俺たちは人々を守ることを生業としてるんだ。それに今、この瞬間に彼らがそう言ったことができるのは俺たちの・・・・・・いや、アルトが日常を守ってきたおかげなんだから、誇るべきものだと思うぞ」
「そりゃそうだけどよ・・・・・・でもどこか、なんか心に引っかかるものがあるというか」
「やるせない感じだと。嫉妬をしている時間がもったいないってアルト。さあ、続きだ続き」
なんだよ、人間なんだからちっとは嫉妬ぐらい・・・・・・
こういったところ、飛月のやつは大人びている。
まるで俺よりも長く生きているような、そんな感じだ。
最初こそずいぶんとマセた中坊だと思っていた。
だが、半年近い時間をこいつと共にしてわかった。こいつはマセてなどいない。大人びているのだ。
弱冠15歳にして何がこいつをここまで大人びさせたのだろうか。
それに俺たちの、組織でさえ知らないことをこいつは知っている。ティリヤ人・・・・・・通称蛇のこともこいつは把握していた。
一体何者なんだろうか?
つかみどころが見当たらないと思ったら、ゲームに関してはかじるように夢中になってやっているし。
その時だけは、まだ幼さが出るのだがな・・・・・・
「はいよ、兄弟。イチャイチャカップルどもへの憂さ晴らしに付き合ってくれよ」
「まずは、俺に攻撃があてられるところからだけどな」
「るせーな!なんだって俺の行動を先読みできるんだよ!ちったあ手加減しやがれってんだ!」
俺は軽く馬鹿にしてきた飛月に対して文句を言いながら休憩室を後にした。
「いい加減、わけを説明してもらおうか。総理」
「君に知る権利はない。私は忙しいんだ。早くここから去れ」
「そういうわけにはいかない。なぜそんなものに調印してしまったんだ!?人類にそれはまだ早すぎる!」
総理はそれを聞くや不敵に笑みを浮かべる。
それは、悪魔のような微笑み。人々を地獄へと陥れてしまいそうなほど闇の深い笑顔。
「口を慎め、大道龍治。これさえあれば君の力だって無力化できるかもしれないのだぞ。下手にこちらに仕掛ければ、お前たちはスーロ先生の時以上の恐怖を味わうことになるぞ!」
「何!?スーロだと!?総理、アンタ!矢形の正体を知ったうえで」
「ああ、そうさ。この国は・・・・・・いや、今となっては滅んでしまったがこの星の国のすべて世界政府による人類への攻撃が始まっていたのさ。差別、紛争、戦争、飢餓。そういったものを駆使し、我々はこの星を我らの者にする。そしてもはやこの国さえ・・・・・・この星の雛型ともいわれるこの龍之国さえ落としてしまえば、もはや敵はいない。人類は生き残れば奴隷となり、滅べばこの星をいただく。そうして我らティリヤは再び栄光を掴むのだ!」
「滅茶苦茶だぞ!国のトップであるアンタがこの国を守ろうとしていないとは!お前もティリヤ人か?」
「そうだとも、選挙では世界政府から操作を受けトップとなり、この国を崩壊へと手引きさせた・・・・・・おっと、そうだった。お前に言っておかねばと思っていたんだよ、大道龍治。龍女共の件だが、やつらはしっかり仕事を果たしているよ。順調に・・・・・・後は一人一人が死に絶え、龍女がいなくなるまで動員すればもう恐れるものはいなくなるのだ。それにお前の愛する女もいずれは死に逝く。その時お前はどんな表情をうかべるのだろうなあ。さんざんこの国を荒らしたお前が絶望に・・・・・・」
部屋に轟音が響く。
我慢できず、俺が部屋の床をなぐりつけたのだ。
「口を慎むのはアンタのほうだ。俺たちの組織を舐めるなよ。総出になればこの国を落とすことだって容易い。例えその調印内容が真実だとしても俺たちは負けない!それに葵は・・・・・・蓮沼葵は死なせない!いや、龍女に関わる誰も死なせやしない!」
・・・・・・総理はすでに気絶していた。
肝の座っていない人間が強すぎる力を持てば調子に乗るのはわかる。
だが、手に入れた力があまりにも脅威過ぎる。
此処はある薄暗い洞窟の中に建てられた小屋。簡単に言えば隠れ家のような場所だ。
今、国の内部では著しい派閥争いが行われている。
『神』の存在を公にし、その概念を利用した神権政治に移行し、龍女を使って紫陽花病に対応する左派。
現在の国家を維持しつつ、紫陽花病に対応しようとする右派。
最初こそ国会でのもめごと程度であった。
しかし、ここ最近、右派の官僚たちの多くが行方をくらまし始めている。
そのせいもあってか、右派の派閥の人たちによる国会に対しての暴動が発生。
総理は隠れ家に入り、身を潜めている状態。
右派の人々に関しては噂によれば、消された 可能性があるようだ。それも裏で総理が操っていた左派によって・・・・・・
事実上、右派に対する裏切り行為。それを国のトップが行っていたのだ。
だが、それは始まりに過ぎなかった。長倉が掴んだ情報によると、総理がいる隠れ家にある人物が出入りしているとのこと。
俺はその男を見張り、隠れ家から出た後に総理との接触を図り、ある密約を結んだという。
その密約の内容は国家を・・・・・・いや、人類の在り方そのものをひっくり返しかねない、とんでもない物だった。
「おお、旦那。お疲れさん」
「二人もお疲れさまだったな。せっかくのめでたい日なのにトレーニングにしてすまない。明日はフリーにするから、休んでくれ」
「了解」
なんか、どことなく旦那が疲れているような雰囲気だ。
「どうかしたのか、旦那?もしかして何かあったか?」
俺がそう聞くと、気まずそうな顔をする。
「ああ、ちょっと面倒なことがあってな。まあ大丈夫だ。この件については俺が・・・・・・」
「私がお話ししましょう。大道龍治」
トレーニング室の中から俺と旦那と飛月以外の人の声がした。
出口前に背の高くて細い男の人が立っている。見たことのない人だ。
「誰だ、貴様。この本部にはここの職員と俺が許可した人間しか入れないはずだ。どこから入ってきた」
その男は丁寧な所作で頭を下げ、自分の素性を俺たちに言った。
「初めまして、八咫烏の皆さん。私のことは単刀直入に、私は元世界政府の職員の者です」
「何!?世界政府の職員だと!?」
突拍子もなく告げられた衝撃な発言に俺や旦那は動揺してしまった。しかし、男はそれに目を配らず、淡々とその男は話を続ける。
「この度は皆様にある協力をしてもらいたく、はせ参じました。お時間の方をいただきますがよろしいでしょうか?」
・・・・・・なんだ、こいつ?凄く不気味だ。嫌な感じがする。
「こちらに土足で踏み込んでおいて、お時間をいただくときたか。なあ、リード!」
その男を怒鳴りつけたのは飛月だった。
今まで見せたことのない、怒りの表情を浮かべている。
「そうでした。ここには君もいるんでしたね?お久しぶりですね。ジェラ」
男は口元の口角だけ上げて微笑む。
だけど、俺はその瞳から、一切の喜楽を感じることはできなかった。
その男の来訪から10分後。
本部内の一部の人間が会議室へ集められた。
これはあの男・・・・・・リードの要求だった。
「では、皆さん。改めまして。私の名はリード。世界政府の元職員であり、新秩序の構成を担当していたものです。以後よしなに」
リードが再びきれいな所作で俺たちに挨拶をする。
髪を整えネクタイを着け、ぴったりとしたスーツを着こなすその姿は人間そのものだ。
だが、こいつも蛇・・・・・・ティリヤ人である。
「おっと、そう警戒しないでくださいよ、立花在人。今回はアナタと戦いに来たのではない。むしろこの戦いを終わらせようとしているのです」
・・・・・・何を言っているんだ、こいつ?
「わざわざこちらに何の用だ世界政府?お前たちは15年前に機能を失い、散り散りになったと聞いているが、スーロの件といい俺たちに何をする気だ?」
旦那の声のトーンが低い。相当勝手に侵入されたことに対して怒っているようだ。
「スーロの件は誠に申し訳なかった。行動は読めていましたが、まさか本当に実行するとは。やはり怠惰の遣いでも、あれを経験してはもうこりごりでしょう」
「なんの話だ?」
「・・・・・・彼の動機は復讐でした。まあその話はおいおいするとして。私はあなた方と友好的な取引がしたい。そのためにここに来訪したのですよ。如何ですか?私と共にこの星を守ってくれませんか?」
なんなんだ、こいつ?
蛇はこの星を食らいつくす存在じゃないのか!?
神託と話が違う。友好的な取引、星を共に守るとコイツは言った。つまり、俺たちと獣の戦いが終わるということだ。
「取引として、まず一つは大道龍治、アナタの権利の剥奪の件をすべて帳消しにしておきました」
飛月の要請で国民保護警報を鳴らすことになったあの件のことか!
旦那の権限で鳴らすことはできたが、政府は警報の発令を拒否していた。
しかし、旦那はそれを無視して発令した。それは政府からすれば非難が殺到する案件で旦那の責任は免れなかった。
下手をすればこの組織も解体されていたかもしれない。
「全く困った人ですよ、あなたは。ここには懸賞金のかかった人たちが多くいるのですから、あまり政府にたてつくようなことを控えてもらわないと全員捕まってしまいますよ。関係のない者も逃走を保護したとして捕まってしまうのは免れないでしょうし」
懸賞金・・・・・・・?なんのことだ?
「どうやら知らないようだな、立花在人。憲法の存在をも揺るがしかねない力を持ち、旧八咫烏部隊の壊滅及び最高裁判所の破壊を行い、多くの懸賞金をかけられた人々を仲間にしてきた天災(ディザスター)大道龍治には18億、旧八咫烏部隊総長、しじまの長倉には4億、国に戦争を仕掛けた大罪人にして煽動者(アジテーター)、五代乃愛には5000万。他にも数百万から数十万の懸賞金をかけられた人たちがこの組織には多くいるというのに・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待てよ!なんだよその懸賞金って!?それに旧八咫烏って・・・・・・」
「そこは俺が後で話そう。まずはコイツの話だ」
旦那が挑発的にリードへ顎を向ける。
「では、続きを加えて、こちらからはあなた方が望む情報をできる限り開示いたします。その代わり、こちらからはシュラバ・・・・・・立花在人の身柄を確保させてもらいたいのです」
「なんだと!?そんな条件をのめるか!」
旦那が怒りのままに吼える。俺の身柄の確保ってつまり、こいつの狙いは俺の金の力なのか?
「こちらの要望を聞いておいた方が身のためですよ、大道龍治。私はこの国とすでに密約を個人で結んでいます。私の合図一つでここの職員全員の命を危機に晒すことができる」
「これのどこが友好的なんだよ。一歩的にそちらの意志を通そうとしてるじゃねーか。だいたい、俺はテメーみたいないけ好かない奴についていくなんざ御免だぜ!せめてもっと行きたくなるような可愛い女の子を連れてきな!」
・・・・・・
本部中から白い目で見られる。
うん・・・・・・冗談だよ、冗談。
ここでもめてたって話がつかなそうだったので身を挺して雰囲気を戻したと言いますかその・・・・・・
「今回のシュラバはずいぶんと色者なのでしょうか?前のシュラバとは一線を画すものがありますね」
前のシュラバ・・・・・・コード:ファーストのことか!?
「アンタ、前任者の事知ってるのかよ?」
「ええ、もちろん、何せ一回戦いましたから」
「う、嘘だろ!?」
驚いた・・・・・・前任者がこいつと戦っているだなんて!
「ですが素性はわかりませんでした。政府の情報網の検索さえも特定できない特殊なマスクをしていましたから。そして、自らの名をシュラバと名乗って我々に戦いを挑んできました。戦う時は・・・・・・今でも思い出そうとすると身震いを起こしてしまいそうなほど荒々しく、猛々しく・・・・・・見た目も相まって本物の悪魔のような人でしたよ」
「悪魔?」
俺が巨大化したときの映像を何回か見せてもらったことがあったけど、角の部分しか悪魔の要素はないような・・・・・・
「強化人間でありながら、抑止の力と融合した彼の戦闘力はすさまじいものでした。当初は懸賞金もかける予定でしたが、世界政府がたった一人の男によって崩壊したなんてことを言い出せなかった各国の首相たちは賞金を懸けることを諦めました」
待った!待った!話に全くついていけない。
「前任者が強化人間!?んで、懸賞金をかける!?」
「おや、ご存じありませんでしたか。では、説明いたしましょう。まずは懸賞金のお話からしましょうか。先ほどの話とも少しつなげましょう。懸賞金というものは、我々政府、もしくは国に害をなすと判定された人につけるものです。
一般的な公開は致しませんが、裏社会などでは金にありつこうとする亡者が多いので、そちらに情報を流し、邪魔者を消してもらおうという魂胆の元、成立したシステムのことです。当初はかなりの数の罪人の首を持ってくる人がいましたよ。龍之国は治安がいいですから、あまり罪人狩りはありませんでしたけど、今は亡き外の国では魔女狩りの如く、一時期大流行りしたものです」
・・・・・・裏社会か。今更政府が繋がっていても驚くようなもんじゃないな。
だってすでに政府内部には宇宙人が入り込んでるぐらいなんだから。
だが、政府にとって都合の悪い人間を娯楽感覚で始末させようとするなんて、人間のやることではない。
ある意味、蛇であるティリヤ人らしい発想なのかもしれない。
「そして、強化人間について。我々は世界秩序という新しい秩序を作り出し、ある意味でのディストピアを作り出そうと考えていました。それに反抗するものはやはり多く、そういった者たちへの対応をするため且つ人間の新たな軍事的利用を図るための実験として作られたのが強化人間。数々の動物や植物などを人間と掛け合わせて作るいわばキメラです。前のシュラバはそのうちの一体だったというわけです」
一体だと!?そんなの人間の数え方じゃない!
それに人体実験・・・・・・惨すぎる。
「待った、リード」
そこで話にストップをかけたのは旦那だった。
「その『ある意味でのディストピア』とはなんだ?ある意味という部分に含みがあるように思えるのだが」
「流石、鋭いですね。そう、我々世界秩序であるディストピアの構造をつくるティリヤはもともと6人いました。あなた方が戦い、討ち果たした『スーロ』もその一人です。他には『グラト』、『ビィ』、『スラ』、『ライド』、そして私、『リード』ですが、それぞれディストピアを作るうえでの目的が違いました。それもあってある意味です。目的が違えば、ディストピアの構造も変わってくるのでね。
古代文明の時代は大きな力をもったティリヤ人が私を含めて7人いたのですが、一人は自分勝手に動いた挙句、千年程前に石に封印されてしまいました。まあ彼女は元々ティリヤ人ではありませんでしたが、ちょっと特別にそういう扱いにしておりました。まあ、彼女の封印は我々にとっても好都合でしたよ。
ちなみにビィ、スラは前のシュラバに殺されました。
グラトに関しては、暴走し世界を食らい始めた自身の悪神を止めようとしたものの敗北、捕食され、そのまま暴食の悪神は世界人口のおよそ8割を食らいつくしてしまいました。これは私にとっても想定外な事でしたね。
おまけにライドは第二次世界大戦以降から姿を頻繁に消すことが多くなり、世界政府が崩壊してからは一切顔を出さなくなりました。スーロはシュラバへの復讐心が途切れず、政府は維持できなくなり解体しました」
・・・・・・なるほど、そりゃ滅ぶわけだ。
3人もいなくなって、3人はもはや機能しないなんて世界の秩序を新たに作り出すどころじゃないもんな。
というか、その暴食の悪神って怖!?人口のおよそ8割を食らいつくすって、そいつのせいで世界が滅びかけたようなもんじゃないか!?
でも、悪神・・・・・・?獣とは違うのかな?
「まさか、強化人間を全員殺され、仲間も殺された挙句、世界中の支部さえも破壊し尽くすのだから本当に悪魔ですよ。それに比べると、今回のシュラバは器用な戦い方をする」
「器用?それは褒めているのか?アンタなんかに褒められても俺は全然嬉しくないけどな」
「そうでしたか。ですが、紫の力の浄化とは恐れ入ったよ、立花在人。おまけに新たな空間さえも作り出してしまうだなんてね」
「そうだ、あの紫の粉塵!あれはいったい何なんだよ!?人をジェル状にして、怪物にもしてしまうあれはいったい何なんだ!?」
「そうですね・・・・・・その話は後でまとめてするとして。立花在人。アナタは何故この星にいない『青の支族』の力を使っているのですか?」
ん?わけわからん。
「やはりわかっていませんでしたか。ですが、それはそれで面白いものが見られそうですね」
「なにが面白いってんだ?なんだ、言ってみろよ!?」
「抑止の力・・・・・・、あなたが使っているのは金色の力。それはこの星に『存在する』人間の色の力すべてを本来であれば使うことができるはずです。何せ他の色を与えた金龍の力なのですから。ですが何故、今現在この星にいない青の力の浄化を?不思議だ・・・・・・おまけに、そのうえで空間をも作り上げてしまうなど完全に・・・・・・立花在人。あなた、相当寿命削っていますよ」
「なっ・・・・・・」
本部内がざわつく。
寿命を削っている。あれは普通の色の力ではないのか?
「ですが、青の力とも性質が違いますね。青の力は精神的な負の感情の浄化のはず。ということは・・・・・・金の力の発動の際にあなたしか持ち合わせていない浄化の能力を使って一人で紫の力をすべて請け負っているということになる。ですが、それ以上に抑止はレアスの光を持つものにしか受け継がれないのではなかったのだろうか?想定外な事が多いですね、今回のシュラバは」
レアスの光・・・・・・?負の感情の浄化?
「レアス・・・・・・俺が調べていた文献の中でティリヤ人と共に記述されていた名だ。古代の時代を知っているといったな、リード。この際だ、教えてもらおうか。お前の知っている情報を」
旦那がリードに詰め寄る。
「交渉の材料になるのでしたら結構。では我々の歴史から・・・・・・こちらも覚えている限りのことを言いましょう。最初に我々ティリヤ人はこの星の者ではなく、はるか昔に滅んでしまったとある星からやってきた者です。
その星では科学技術に特化した我々ティリヤ人と、もう一つの種族がいました。それがレアス人です。彼らは靈的能力に特化していて、我々とは異なる進化をしていました。
ティリヤ人がこの星で言う爬虫類のような見た目を主にしていたのに対して、レアス人はあなた方と同じように猿のような見た目をしていて、角を二本生やしていました。経緯は省きますが我々は長い間争い、疲弊したので我々はある兵器を使う羽目になりました。
その結果、レアス人は絶滅。我々も仲間を多く失った上、星が死に絶え、移住しなければなりませんでした。その結果我々が住んでいた星と似て自然が豊富で水もあるこの星が移住先となりました」
民族間での戦争、まるでこの星の住人と同じだ。そして、レアス人は滅んだ種族・・・・・・
では一体、レアスの光とは何なのだろうか?
「その星で、我々はある動物を見つけました。我々と姿の似ているその動物の中に我々の遺伝子情報を加えました。そして生まれたのが、我々と同じ見た目をしながら、この星で生まれた新しいティリヤ人と、遺伝子異常により生まれた巨人族。その異常の中でも失敗作とされたレアス人そっくりの・・・・・・アナタたち人類。
爬虫類系人類とする新しいティリヤ人は我々が科学を教えた結果、想像以上に発達し、この星の資源を使い、文明をも作り上げました。一方巨人族は知能が高くなく、蛮族のように暴れまわり、失敗作である人類を虐殺し、奴隷にしていました。
ですが、ここである問題が発生したのです。我々がこの星に移住し始めてから数千年が経つと、その人類のうちからレアス人のような角が生えてきていた個体が出現し始めたのです。我々はレアスを滅んだものと思っていた。しかし、本当は滅びきっていなかった。彼らは靈体、光となってこの星の人間に侵入し、自由を得るための行動を起こし始めました。
さらに問題は起こりました。数千年に渡り、勝手に自分の星を荒らされた星が怒り、洪水を起こしてしまったのです。この星で生まれた新しいティリヤ人の一部は我々の宇宙船へ逃がすことに成功しましたが、文明は崩壊。巨人族は大きすぎて母船に乗せることができずに流されて絶滅。一方、人類たちは星の声を聞くものが現れ、舟を作り、この災厄を逃れ生き残りました。
その声を聞き、人間たちは星と契約を結んだのです。その結果、我らが持たない力を手に入れて新たな文明を作り上げました。以前までの文明と違う点で言えば、一人一人の魂の色があり、それに応じた役職をこなしていたのです。
だが、我々の王はそれを黙ってはいなかった。作り物のくせに我々よりも上の文明レベルにはさせないと。
そして我々はできる限りの人類を攫い、実験を重ね、その力の正体を知ることができました。その色の力と、かつて我々の星を滅ぼした科学の力を使って作り上げたものがあなた方の言う紫の力だったのです。
負の感情をばらまき、怪物にする力。我々はその紫の力をさらに応用し、7つの生物を作り上げました。知的有機生命体すべてが持ち、負の感情の根底を成す『原罪』を負うことになったそれらに敬意をこめて、我々は『悪神』と呼んでおります。ティリヤは悪神を人類の文明に送り込みましたが、7体すべてが星の抑止の力に阻まれて封印。王も抑止と戦い相打ちになり、亡くなりました。
ですが、想定外のことが起こりました。その紫の力は人間の感情に負のエネルギーを与えた結果、文明は滅び、互いに理解し合うための共通の言葉を失い、傷つけあい、果てには犯し、殺し合い始めました。その光景を見て我々は一度この星を離れました。その力を我々は畏怖し、『バベル』と名付けました。
数十年後に星に戻ると、その文明があった大陸は氷づけになっていました。恐らく青の支族が凍らせたのだと我々は推測。星から去った形跡もあり、この星から青の支族は姿を消したと考えていました。だが、新たな大陸が生まれ、そこに人類たちが住んでいた。そこで我々はこの星で生まれたティリヤ人を星の大陸の様々な場所に下ろし、あらたな移住区の制作のために文明を築かせてみました。
すると我々と同じように互いに争い、殺し合いながら文明が栄えていきました。というものが私の知る限りの歴史です。何分、古代文明が滅んだことだけでも8000年以上前の事なのでね。記憶に古く、いささか雑な説明になってしまいました」
・・・・・・は、話が難しい。
一気に語られても全然わからない。
「では、その爬虫類系人類、この星で生まれたというティリヤ人はどうした?見た目は爬虫類、とくに蛇のような顔をしていた者が多かったのだろう?」
「そこまでよく知っていますね、大道龍治。我々は星の抑止から追い出されないように人間に偽装できる薬を開発し、彼らに注入しました。そのうえで星に下ろしたわけなのですが、次第に彼らも自分たちが爬虫類系人類だと忘れはじめ、人類として暮らし始めました。
彼らの子孫も、受精し、胚が完成する時には人類になるように設定してありますから、勝手に増えていくわけです。
そして、我々にとって邪魔者であるレアスの光を持ったやつらを我々は邪悪な者、『鬼』として扱い、見つけ次第、男であれば殺し、女であれば龍玉に適合してしまわないように、ついでにこの星の神の地位を堕としいれるために『神への生贄』として殺害するように、上陸したティリヤ人に無意識レベルに訴えかけ、命令しました。
そのおかげでレアスの光を持つ者は減少、彼らは角を隠すようになり、靈的能力を行使できなくなっていきました。まあ、神への信頼が薄れ、生贄の儀式というもの自体が亡くなりつつあったということもあり、最近は増えてきているようですが、およそ4000年かけた甲斐もあり、我々ティリヤは勝利を確信し、この星の侵略及び人類への支配に尽力で来たのですが・・・・・・」
「そこで、コード:ファースト。前のシュラバが現れたというわけか」
俺は彼らの計画の崩壊のきっかけとなった人のコードネームを出す。
その言葉を聞いただけでリードは怪訝そうな顔を浮かべる。しかし、どこか嬉しそうな顔とも捉えることができてしまった。
「ええ、想定外な事が多い。邪魔をされるのは好きではありませんが、そう言った予想を裏切るようなことが起きるとやはり楽しい物です」
「・・・・・・楽しいものなのか?想定外な事が?」
「ええ、何せ我々ティリヤ人は寿命が長いですから。私もすでに1万は超えている。なんでもかんでも自分たちの想定内な事が起きてしまうとつまらないのですよ。常にイレギュラーな事が起きてほしいぐらいだ。その点においては、我々の樹立した世界政府の崩壊は素晴らしく愉快なものでしたよ」
・・・・・・コイツ、狂ってやがるのか?
自分たちが作ったものが無くなって楽しむとか、長生きはしたくないもんだな。
「常に人生は楽しくあるべきです。私の本質は『追及』なのでね。1万年以上生きて様々な知識を得る。そしてある程度の刺激がある。それで私の人生は成立するのですよ」
「じゃあ、何故その刺激をお前に与える人類を滅ぼそうとする?言っていることが矛盾しているのではないか?」
旦那の言うとおりだ。
こいつらは悪神、俺達で言うところの獣を使って人類を滅亡させてこの星を侵略するのが目的のはず。
「いえ、矛盾などしておりませんよ。先ほど言ったではありませんか。我々ティリヤ人は世界政府の樹立におけるディストピアへの目的が違うと。私が政府をつくった目的は、人類の保護です」
「保護だと?」
「はい。端的に申しますと、私は人類を愛しているのですよ。常に我々の予想外な事を起こしてきた。レアスの光を受け継ぎ、我々とは異なる進化を起こし、文明を築き上げた。そんな人類を見ているうちに愛おしくなったのですよ。あなた方、人類の可能性が。そして私は試してみたいのです。人類はどこに到達するのか。それを見届ける観測者のような存在になるのが私の一つの目的です」
人類の可能性の追求ということか。そのうえ、まるで神のようにそれを見ていたいというわけだ。
「人類を愛おしく思った?じゃあ、なんでそんな支配体制を作ろうと思ったんだよ」
「こちらにも体裁というものがあります。あなた方人類にも社会を構成するうえで体裁というものは大切でしょう?例え内面でどのように思おうとも、外面を作っておけば仲間割れは起こすことはありませんから。それぞれ目的は違えど、数千年も共にいた仲間たちですから、仲間割れは避けたかったのですよ。本質がそれぞれ違う以上、我々が真に統一されることはありませんからね」
「その本質というものは何なのだ?先ほどから話に上がっているが?」
旦那が意外な着目点を持っている。
「そうですね。『本質』というのはつまり生物の魂。生まれてきた理由・・・・・・と言いましょうか。人類の言葉に変換するのはいささか難しい物です。我々はレアスの光を研究しているうちに生物が受肉し、物質世界に降臨する理由を分析できるようになりました。そして同時に魂の存在、靈界という存在も認知できるようになりました」
「その靈界というのは?」
「いわば魂の世界。魂の出発点にして終着点。そこから始まり、そこで終わる。この世界の宇宙に生きる生物はその点だけは変わらないのですよ。感情がある生き物はすべてそこから来てそこにたどり着きます。まあ感情がない生物なんてどこにも存在しませんがね。話が脱線しましたね。魂の本質を分析できるようになった結果、我々ティリヤは生まれてきた目的を見出し、それに応じて行動できるようになりました。まあ無視した輩もいましたがね。スーロのように、後に痛い目を見ていました」
魂の本質に靈界の存在・・・・・・
ずいぶんとオカルトチックというかスピリチュアルな世界というか・・・・・・
どこまで信用できる話なのだろうか?
「まあ人類には後数千年早い科学ですから、信じられないのもわかりますよ、立花在人。では見てみましょうか」
「見るって何をだよ?」
「立花在人、君の本質だよ。それを辿っていけば何故レアスの光を持たない君が抑止の力を手に入れたのかもわかるかもしれない。・・・・・・なるほど」
科学力って言っているが、何も道具を出していない。
「見ただけでわかるものなのかよ」
「他のティリヤ人ならば必要かもしれませんが、私は他の者たちとは少し違うのですよ。言ったでしょ、本質が『追求』だと。生物の根源、在り方、進化、可能性といったものを研究しているうちに私は様々なものに触れてきた。それの副産物みたいなものですよ。道具がなくとも様々な事を見渡せるようになってきたのです。・・・・・・なるほど。立花在人、アナタの本質はどうやら『存在』のようだな」
「存在?それって生きてるだけで成立するもんじゃないのか?」
「ええ、実際はそうでしょう。ですが、自分の存在が何なのかといった疑問に多く立たされる場合が多々あるはず。そして自分の在り方を肯定や証明をしてくれるものを必要としている。それがあってその本質が確固たるものとなっている・・・・・・といったところでしょうか」
「・・・・・・!」
確かにその通りだ。
俺は以前ジェル状の人たちや化物を倒していくうちに自分が人ではなく殺人鬼になっていくのではと恐怖していた。
それと同時に自分の体がじわじわと人間でなくなることも少し怖くなっていた。
これに関しては今も少し怖いのだけれど。
だが、チヨが俺を優しいと証明してくれた。
勝手な解釈だが、優しさを証明するということはつまり人間で在ることの証明と等しい。
人間であるから、優しくできる、優しく在ろうと思える。
チヨはそれを証明してくれる大切な人だ。
チヨのおかげで俺の『存在』が確固たるものになっていると言われれば否定できない。
「おい、アルト。こいつの言うことをあまり鵜呑みにするなよ。どこに罠があるか分かったもんじゃないからな」
先ほどまで口を開こうとしなかった飛月がようやく発言をした。
いや、できなかったのかな。何かリードと関係ありそうだし。そういえば飛月のやつ、リードからジェラって言われてたな。リードやスーロとの関係といい一体何なんだろうか。
「罠とはひどいですね、ジェラ。私は人類の可能性のために調停を結びに来たというのに」
「よく言いやがる。お前はさっきから決して人類と共存したいなんて言っていないよな?それに世界政府を樹立する際の『根本的』な目的であるディストピアの構成に、お前自身反対はしてない。そうだよな?」
「ずいぶんと強気になりましたね、ジェラ。初めてあなたを見た時とは全然違う」
「・・・・・・俺の話はいい。お前の目的はなんだ?調停の目的ではない。シュラバ、いや立花在人の身柄を拘束し、何を企む?改めて教えてもらおうか?」
改めて?
俺を拘束する目的なんてリードは言っていた記憶がないのだが・・・・・・
「先ほど言った通りですよ、人類の可能性の追求のためです。その目的のための人類の徹底的な管理及び邪魔な存在な色の戦士たち、ただそれだけのことですよ」
「なんだと!?邪魔な存在、色の戦士・・・・・・では龍女部隊の編成に携わったのは!」
「ええ、私ですよ。出来る限り反抗してくる存在は抹消しておくのが吉ですので」
旦那が眉間に力を入れて拳を握っている!
人類の可能性の追求。その目的の障壁となる俺や五代たちを消すのがこいつの目的ということか!
「まあ立花在人に関しては後5年もすれば寿命で亡くなるでしょうが、龍女は面倒なのでね。まさかこの時代に龍玉の適合者が現れようとは・・・・・・もっと早いうちに気づいておくべきでしたよ」
やってくれたな、こいつ!
政府より地位が上の世界政府。解体されたとはいえ、リードが政府に及ぼす力は計り知れるものではない。
おまけに密約さえ結んでいるときた。いくら旦那の権限があろうとも龍女部隊の解体はできないだろう。
五代の身に危険が迫っているのに、俺たちは何もできない。
「あなた方ではもう何もできない。すでにこの本部の地上の入り口は新しく作られた八咫烏部隊が占拠しています。逃げも隠れもできませんよ」
なんだよ新しく八咫烏部隊って!?この組織が八咫烏じゃないみたいに言いやがって!
・・・・・・ん?地上の入り口だと?上には孤児院がある。まさかコイツ!
「おまえ、孤児院の子どもたちには手を出してないだろうな?返答次第では・・・・・・!」
「おお、怖いですね。何故か一瞬前のシュラバの面影が見えましたよ。ええ、もちろん孤児院の子どもたちや関係者には指一本触れないように指示を出してあります。君が孤児院の子どもたちを大切にしていることは知っていましたし、下手に手を出して暴れられたら面倒ですので。それに私も子どもが好きですから。可能性の塊であり、これから何を作っていき、どのように成長していくのか楽しみではありませんか?」
なんだよ、こいつは・・・・・・
掴みどころがなさ過ぎて、気味が悪い。
「それと、立花在人。君の身柄を要求する前に大事なことを言っていなかった。この戦いを終わらせることですが、私個人では終わらせることができないのですよ。なので立花在人、単刀直入に。私と共に我々の王を倒してくれませんか?」
・・・・・・王を倒す?コイツはさっき、古代の時代に王は抑止と相打ちになって亡くなったと言っていたはず。
「言いたいことはわかる。既に亡くなった、その通りだよ立花在人。ですが彼は蘇ったのですよ。過去の記憶を持ちながらという輪廻の常識から外れてね」
「輪廻・・・・・・?もうよくわからねーけど、その王ってのは一体誰なんだ?」
「我々の王、その名はヤマタノオロチ。私が生まれる前からありとあらゆる星々を征服し、食い荒らしてきた魔物にして、本物の悪神でございます」
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