第27話 反芻

反芻


繰り返す。繰り返す。また繰り返す。

牛のような動物は一度飲み込んだものをもう一度口の中に戻して再び噛み、また飲み込むという行動があるらしい。それを反芻というようだ。

反芻、つまり同じことを繰り返す。また味わう。何もかもをまた俺は噛みしめるのだ。

楽しいことも辛いことも・・・・・・


  

11月15日

飛月が怪我から復帰し、今日から軽くだが一緒にトレーニングを再開した。

俺の休暇は一週間ほどで、一人での特訓が多かったので退屈で仕方なかった。

やはり、一人だとやることが限られてくる。

俺一人じゃきっと何もなしえることはできない。

誰一人守ることはなんかできやしない。

ならば俺には何が必要なのか!

そうだ、仲間だ!ともに汗を流し、共に涙し、共に成長できる仲間が俺には必要なのではないだろうか。

例え金の抑止の力を持っていようと俺はたった一人の人間だ。

仲間が必要なんだ!

共にこの世界に平和をもたらすために!力を合わせようではないか!


「で、なんの話?」


「あの・・・・・・ゲームで行き詰まってしまったので手伝ってくれませんか?」


21時


「あの微妙に長い前振りからのこんなショボイお願いだったとはな」


「ショボイとはなんだ!ショボイとは!」

俺は夜が更けていく中、飛月の部屋を訪れていた。

理由は勿論、以前約束したことを果たすためである。


「なんだっけ?それ?」


「覚えてなのか?ありったけゲームして寝かさないって言ったの。さあやろうぜ、兄弟」

俺は前に飛月にあげたものと同じゲーム機とゲームカセットを手に持つ。

元々は難しいゲームということもあり、途中で挫折したものを飛月にあげたのだが、人がやっているのを見るとやりたくなるという、まあ皆さんにもご経験があるかもしれないあの現象に苛まれ、中古で売っているお店を探し出し、買ってきたのだ。

休日のうちに進めようと思い、一日4時間ほどで日中のほとんどの時間をそのゲームに費やし、なんとか飛月と同じぐらい進めたと思ったのだが、あと一歩のところで手詰まりとなってしまったのだ。

ハアというわざとらしい溜息をつく飛月。


「行くぞ、アルト!睡眠時間は十分か?」


「おお!任せろ!やってやろうじゃねーか!」

俺たちはノリノリでゲームを始めるのだった。

俺たちはゲームの中で同じクエストを受けるために集会所を作った。


「おい、アルト」


「なんだよ、飛月」

何故か飛月が呆れた表情をする。


「おまえ、なんでその武器を使ってるんだ?」


「なんでって言われても見た目が一番好みだったし、実際に使ってみるとめっちゃ使いやすかったから」


「アルト、いいか。その武器はな、確かに性能としては他の武器とは一線を画すものがある。敵モンスターの動きを止めたりな。だが、動きが微妙に遅かったり火力が微妙だったりと不安定な要素が多い。だから・・・・・・」


「ご忠告ありがたいが、なめるなよ飛月。立ち回りだってネットの動画で確認したり実際に練習もした。このクソ忙しい中の二週間で総プレイ時間100時間越えの俺の力を見せてやる!」

「二週間で100時間!?やりすぎじゃないか!?だけどそれなら期待できるかもしれない!」

飛月の呆れた表情が徐々に期待に変わっていくのが目に見えた。


・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

何度諦めかけただろうか。

何度その脅威を目の前にして諦めてしまいたいと思っただろうか。

自分たちが乗り越えるには大きすぎる壁。

それを乗り越えるためには何度も挑むしかない。

だけど、俺は諦めたりしない。

俺たち二人ならなんだって超えていける!


「そうだろ、飛月!」


「ほとんどお前のせいで負けてるけどな」

はい、その通りでございます。

だって敵が強すぎるんですもの。

通信を始めた最初の辺りまでは良かった。

立ち回りも順調で、俺の軽快なプレーに飛月も関心をおいていた。

だが、ラスボス戦が近づいてくるとさすがに魅せるプレーができなくなり、俺の技術では勝ち目が薄くなっていくのは明白だった。


「なあ、アルト」


「どうした、飛月?ハッ!もしかして、俺が弱すぎるから後は俺一人でやるとか言い始めるんじゃ!?弱い奴はいらないってコト!?」


「いや、ちげーよ。話してもいないことを勝手に想像するな、この自意識過剰が」

ひ、ひどい・・・・・・

そういえば、前にチヨにも同じことを言われた気がする。俺の周りの中学生は辛辣な子が多いようだ。


「そうじゃなくて、一個聞きたいことがあるんだけどいいか?」


「なんだよ、改まって?」


「アルトは・・・・・・例えばさ、こんな風に何度も思い通りに行かなくて、何回も負けているのに、なんで挫けたり、諦めたりしないんだ?」

なんだ。至ってシンプルな質問だった。

そんなこと決まっている。


「俺はただ諦めたくないだけだ。そうやすやすと諦めてたら自分の可能性だって捨てちまうだろ。俺はそんなもったいない事したくない!だから何としても諦めずに俺の勝利を引き寄せるんだ」


・・・・・・

う、うわー。いつも思っていることだけど言語化してみるとかなり恥ずかしい。

くそ、笑うなよ、笑うなよ!


「ハハッなんだよそれ!」

笑われた。おのれ飛月め。


「だけど、いつ聞いても変わらないな。お前の言うことは。すごく・・・・・・心に響くよ」


「ん?俺ってば飛月にこんなこと前に言ったっけ?」

思い出せない。

言った記憶が全然思い浮かばないな。


「アルト、頑張ろうぜ。何度同じことを繰り返そうとも、何度だって諦めずに続ければきっと希望は見えてくるよな?俺も頑張るよ!」


「お、おう!頑張ろうぜ兄弟!」

何かわからないけど、俺の発言が飛月の心に火をつけたようだ。

俺たちは日が昇る直前までゲームを楽しんだのだった。


・・・・・・

そうだ、何度だって繰り返す。

俺は何度だって繰り返す。例え世界に負けようと。

その在り方を否定され、何度も失敗しようとも、俺の体が俺のものである限り俺は諦めない。

俺には俺の守りたいものがある。俺は俺の戦いを最後まで続けるんだ!


・・・・・・可能性を引き寄せるか。

いつ聞いても数奇な事だ。

俺は俺を人にしてくれたみんなを守る。

だから、だから・・・・・・


翌日、眠いまま本部に行き、フラフラになりながらだったが無事今日の訓練を終えた。

昨日の徹夜だけではない。昨日までの寝不足が一気に祟ってきた感じだ。


「大丈夫か、アルト?」


「ああ、うん。昨日少し飛月と遊び過ぎてさ」

心配してくれたのか旦那が俺に話をしてきた。

最近の寝不足のことを言うとさらに心配されそうなので言わないようした。

おまけにその理由がゲームのやりすぎとなればね。


「旦那の方こそ大丈夫かよ。今は奇跡的になのか獣は来てないけど、やっぱり精神的に来るものはあるんじゃないか?その、トップとしての責任というか」


「まあ、なくはないな。皆の実力を活かすことができる環境づくりとか、政府との繋がり、誰がこちらの味方で誰が敵なのかの判別・・・・・・まあこれに関しては判断を着けるのがかなり難しいのだが」


政府の話か。組織に資金援助をしてくれるような人もいれば、目の上のコブのように扱う人たちもいるようだが、矢形のように明らかに俺たちに敵意を向けてくるような奴は実際に事が起きてからでないとわからないのではないだろうか。

矢形はチヨと旦那が解読した神託の記述の中でいうところの『蛇』というものに該当するらしい。

星や人を食らう者という位置づけであったが、いまだに詳しいことはわかっていない。


「矢形のような奴はこの組織にとってかなり脅威だ。本部関係者の友人、果てには親族まで殺めようとするやつがいようとは。最悪なパターンとして考えてはいたもののまさか本当のことになってしまうとはな」


「まあ、そうだよな。矢形・・・・・・スーロの狙いは俺の周りの人たちだったけど、もしかしたら、また似たような『蛇』が現れてみんなが危険な目に遭うかもしれない」


「うむ。あの一件以降は本部の職員や関係者は個人での行動を控え、できる限り複数人でいるようにと促した。そうすればせめて気づかないうちに多くの犠牲が発生するという悲惨な事態だけは避けることができる。長倉と話してそう結論付けることとなった」

敵がいつどこで現れるかわからない上に誰が蛇なのかもわからない以上、人数を固めて行動することによって避けられる惨劇もあるはずだ。

旦那と長倉さんの考えは一理ある。


「だけど、一番の問題なのはすでにこの組織に蛇やそれと関係する者が内部に侵入している場合だよな」


「そうだ。もともとこの組織のメンバーは俺がいろんな面々で名を残した人たちを参加させて作り上げた組織だ。だが、政府に関わっていた人間はただ一人しかいない」


「いたんだ、関係者。ちなみに誰なんだ?聞いていいなら、聞いておきたい」

うーんと考える旦那。

それもそうだろう。人にとって経歴ってのは誇るべき部分もあれば隠したいものもある。他人の一存で勝手に口にしていい物ではない。

しかし、できるのなら知っておきたい。

逆に政府内部の事情を知っていたら、国にとって都合の悪いことが起きた場合に真っ先に狙われてしまう可能性があるかもしれない。


「まあ、あいつなら別に構わないと言いそうだがな・・・・・・一応伏せておこう。だが、そいつは俺が初めてこの世界に流れ着いたときに一番最初に出会った人であり、俺と一緒にこの組織を作った人だ」

マジかよ、すごく重要な人物じゃねーか。


・・・・・・まあだいたい誰か見当がついてしまう。

確かにあの人は不思議な部分が多いけど、この組織を旦那と作り上げるぐらいだから裏切りはしないだろう。

そうなってくると、矢形をスーロと呼んでいた飛月が本部内部に侵入したスパイとなってしまう。

だけど、あいつがそんなことをするようには思えない。

思えないのではなく、思いたくないのかもしれないが・・・・・・


「そういえばアルト。11月の頭に獣を倒した日があったろ?」


「ああ、あったな。それがどうかしたのか?」

旦那が神妙な表情を浮かべる。


「あの日にスーロがある言葉を言っていたんだ。シュラバという言葉だった。アルトは何か知っているか?」

うむ、それならもちろん。


「シュラバか。うん、勿論知ってるぜ。ほぼ毎回変化する時にその名前を叫んでるけど・・・・・・そういえば、その名前も確か初めて巨大化した後の夢の中で教えられたっけかな」

「一体何故だ・・・・・・?教えられたというのは、一体何にだ?」


「何にって、金色の龍にだけど?夢の中で何言ってるのかはわからなかったけど、どことなく名前みたいだなって思って変化する時に唱えてるんだ。シュラバ!って」

旦那が驚いたような顔をしながら固まる。


「だ、旦那?おーい、旦那?」


「ん、ああ、すまないな。いや、まさかなと思ってな」


「なんだよ、奇遇な事って?」


「実は、シュラバという名前はな・・・・・・一緒なんだよ、俺がこの世界に来て初めて降り立った村の名と」

・・・・・・え?


「い、いや!何か関係ありそうだろ!俺がたまたまそう聞こえた声が旦那の降り立った村の名前と一緒なんて!」


「だが、関係性が一切わからない。本当に奇遇な事だったのか、それとも本当に何か関係があるのか・・・・・・」

金龍、抑止の名と村の名前の一致。

かつて金龍の力を持ち、7つの獣を討ち果たした古代文明の王はこの大陸を作り眠ったという。

それと関係しているのだろうか。


「おっと、アルトすまない!これから本部でお世話になっている人と会わなければいけないんだ。寝不足で疲れている中、呼び止めてしまってすまなかった。今日はゆっくり休んでくれ」


「あ、ああ。頑張ってな」


「このことについてはまた後程一緒に考えよう!じゃあな!」

旦那は走って地上に繋がるエレベーターの方へと行ってしまった。


・・・・・・

何気なく変化する時に叫んでいた名前だったけど、言われてみればどこか意味深長な感じがするな・・・・・・

何故、あの時金龍は俺にその名前を告げたのだろうか?

そして、何故旦那がこの世界に流れ着いた時に初めてたどり着いた村の名前と一緒なのだろうか。

俺は頭の中が疑問だらけになってしまったが、あまりにも眠すぎるのでこれ以上のことを考えるのはやめて、部屋に戻り惰眠をむさぼるのだった。


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