第26話 成長
成長
人間は成長する生き物である。どんな人間も様々な変化を毎日遂げるものだ。
変化しない人間なんていない。変化していないと思うのは、大きなものを期待しすぎているのだとアルトさんが以前言っていた。
変化は意味合いがプラスでもマイナスでも使われるものであるが、成長という言葉は基本的にプラスの側面として使われることが多い。
成長とは喜びであり、同時に新たな視点を得ることができるチャンスでもある。
新たな価値観、生き方に気づき、日々新たに成長していく。
肉体的な成長は・・・・・・まあ置いておくとして、精神的な成長は何かを成し遂げるためには重要な鍵になる。
日々努めるというのはそう言うことなのだろう。
でもやっぱり、目に見える成長も心の成長もとても楽しくて嬉しいものだ。
だって、少しずつアルトさんに近づいているように思えるから!
11月2日
激闘の戦いが終わり、無事宇宙から戻ってきた俺は数日休憩をはさむことにした。
まあ、俺が最終的に決めただけであって提案してくれたのは旦那たちだった。
・・・・・・まさか人生において不死身のやつに出会うとは思わなかった。
それこそアニメや漫画、ライトノベルの世界ならそんな奴らは、うじゃうじゃいるだろうが実在するとは思わなかった。
まあ、俺もその不死身に片足突っ込んでいるようなものである。
太陽光を吸収してエネルギーを回復するとかもう植物みたいなものじゃないか!?
というか、今の俺の境遇そのものがもはや創作の世界のようなものであるが。
うん、やっぱり平和が一番だわ。
のんびりして、町を歩いて、女の子を眺めて、好みの子がいたら声をかけてと。
こういったことも日常あってこそできるものだ。
やはり町に出るのは目には良い刺激だ。そこら中にたくさん女の子がいるんだ。
・・・・・・うーん、どの子に話しかけようか?
あそこの黒髪ロングの清楚系の子かな?それとも、茶髪にパーマをかけたスタイルの良いあの子かな?
「町の中を歩きながら何フラフラと視線をそこら中に向けてるんですか?」
隣を歩く連れから嫌なほど見下されたような視線が俺に刺さる。
「いやな、チヨよ。こういったこともやっぱり必要だと思うんよ。常日頃から何かと頑張っている俺への、俺からのご褒美として!」
「ご褒美なのは結構ですけど、明らかにその視線は変質者のそれです。正直言って不快です。やめてください」
あらやだ、チヨが今日は一段と冷たいわ。
「どうしたんだよ、チヨ。お腹すいたのか?さっき食べたばっかりなのに。もう食いしん坊さんだな!」
「私の機嫌が悪いのは、私とのお出かけなのにずっと他のことにばっかり気を向けているからです!もっとお出かけに集中してください!」
「お出かけに集中とは・・・・・・?」
チヨがプリプリと怒る。
「せっかくアルトさんが休みで久しぶりに昼間から二人でお出かけできたのに・・・・・・」
「なんだ、チヨ。俺と出かけたかったのか?」
俺が思ったことを聞いてみるとチヨが急にアタフタし始めた。
「え、あの、いや、その。た、たまには二人水入らずで出かけるのもいいなと思ったので・・・・・・ただそれだけです」
そうか。チヨは受験勉強、俺は本部での訓練で忙しいからこんな風に二人で町にくりだすのも久しぶりだ。
チヨも大変な時期だもんな。
たまには何かしてあげられたらいいけど。
「そうだよな。たまにはこんな風に二人で外に出るのもいいよな」
「で、ですよね!私もそう思いますよ!」
なんでこの子はこんなにもテンパってらっしゃるのだろうか。
「あ、あの、アルトさん!」
「ん?どうしたチヨ?」
歩きながらチヨが俺の名前を突然口にした。
「そ、その・・・・・・私、行きたいところがあるんです」
「おう、なんでも言ってくれ。普段から頑張ってるチヨにご褒美あげちゃうぞ!」
「・・・・・・じゃ、じゃあ。あのお店に一緒に入ってくれませんか?」
チヨがあるお店の方角に向けて手を伸ばした。
「いらっしゃいませ!お客さんは、お二人様でよろしいですか?」
「はい、二人です」
「では、奥のお席の方をどうぞ」
や、やった誘えた!頑張ったよ、私!
このスイーツ店は最近流行りのデートスポットである。
いろんな口コミでもかなり評判が良いところだ。
と言っても、私がこの場所を知ったのは本当に最近のことであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お出かけするのに最適な場所?」
「うん、なんか最近流行ってるところとか知らないかな、咲ちゃん?」
「そーね、知ってるけど・・・・・・」
「知ってるの!教えて教えて!」
私が教えてもらおうとすると、咲ちゃんは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「え~どうしよっかな?教えてあげてもいいけど、ただ教えるだけじゃつまらないわ」
「そんな~そこを何とか!」
私は両手を合わせてお願いする。
「じゃあ、一緒に行く人とその人と関係を教えてくれたらいいよ」
「え!?そんな!?」
咲ちゃんの顔がますます悪くなっていく。
「まあ、一緒に行く人はアルトさんとして・・・・・・」
「なんで決めつけるのさ!」
「だって、チヨがお出かけの場所を聞くとか、そんぐらいしか考えられないでしょ?愛しのア・ル・ト・さんとのデートスポットを聞きたいんでしょ?」
「え!?そ、それはその・・・・・・」
明らかに動揺を誘っているのはわかるけど、どんどん顔が熱くなっていくのを私は止められない。
「アハハッ。チヨったら可愛い!私のお嫁さんにしたい!」
「ええ!?」
なんでこの子は人を動揺させることがこんなにも上手なのだろうか。それとも、私がからかわれやすいのだろうか。
「さて、冗談はこのぐらいにしておいてと。ここなんかいいんじゃない?」
咲ちゃんはスマホを操作して、私に画面を見せてくれた。
「わー!美味しそうなお店!」
「って違う違う。見る場所はそこじゃなくて」
そう言って下の方へ画面をスライドしていく。
「カップルが多く集まるデートスポット・・・・・・って!」
「何うろたえてるのよ!今の世の中ただでさえ厭世観が漂っているんだから、幸せになりたいなら先手を
打つに越したことはないよ、チヨ!」
「何言ってるの咲ちゃん!べ、別に私は・・・・・・」
「チヨ!」
咲ちゃんは私の肩をポンとたたいた。そして少し力を入れて握ってきたのだ。
「頑張りなさい、チヨ!私は・・・・・・貴女をずっと応援してる!絶対に幸せになりなよ!」
「え!?う、うん。ありがとう?」
「じゃ、私帰るね。家帰っていろいろとやらなくちゃいけないから!」
「うん、また明日ね」
そう言って笑顔で手を振って咲ちゃんは私のクラスの教室から出ていった。
・・・・・・その日以降、咲ちゃんは学校に来なくなってしまった。
元々さぼりがちな子ではあったが、数日も連続で休むのは珍しい。
連絡をしてみたが一切帰ってくることはなく、家を見に行っても誰もいなかった。
先生たちに聞いてみても、誰も何も言ってくれなかった。
後にわかったことは、咲ちゃんは五代さんたちと紫陽花病の調査を行っているということ。
私がそれを知ったのは、テレビで名前と顔が公開されていたからであった。
何故、咲ちゃんが五代さんのように紫陽花病の調査に向かったのか私にはわからない。
だけど、最後に行っていた幸せになりなよという言葉が何回も繰り返しで私の頭の中を駆け巡っていく。
一体何が目的で『幸せ』という言葉を私に残していったのだろうか?
それに・・・・・・あれが最後なのだろうか。
もう一度会ってまたたくさん話したいよ、咲ちゃん・・・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ご注文の方承ります」
「えっとじゃあ・・・・・・」
私はチョコレートパフェを頼んで、アルトさんはいちごパフェを注文した。
アルトさんが甘いもの好きで本当に良かった。
男の人は大人になるとあんまり甘いものを食べないって聞くけど、アルトさんはどうやら例外のようだ。そういう子どもっぽいところもまた素敵なのだけれど。
「なんか、心の中で小ばかにされたような気がしたんだが、気のせいだろうか?」
アルトさんがジトッとした目つきで私の顔を見てくる。
「い、いえ!気のせいですよ!」
「そうか、自意識過剰だったか」
「そ、そうです!反省してください!」
「ええ・・・・・・」
うん、やっぱりこういった平和はいい物である。好きな人と何気なく会話して、お出かけして。
それもこれも、アルトさんたちが守ってくれたから存在する日常だ。
例え一瞬で終わってしまうような儚い時間で在ろうと、その刹那の時を大切にしたい。
私は何度もボロボロになって帰ってくるアルトさんを見てそう思っていた。
いつアルトさんがいなくなってしまうのかわからない。
考えたくもないけど、命がけで戦っているアルトさんが生きていることだって奇跡なのだ。
「というか、ここって」
私の脳内を駆け巡っていた思考はアルトさんの一声で停止してしまった。
「は、はい」
「なんか、カップル多くないか?」
「そ、そうですね。アハハ・・・・・・」
会話が止まる。
ばれてしまったようだ。き、気まずい・・・・・・
「も、もしかしたら私たちもそういう風に見られていたりとか?なんて・・・・・・」
何言っちゃってるの私!?
さすがに今のは恥ずかしすぎるって!
「まあ、そうかもしれないな。こういう店で男女二人が入ってきたらそう思われても仕方ないかもな」
「そうですよね!やっぱり見られちゃいますよね!」
「なんで嬉しそうな顔をするかね、この子は?」
それは嬉しいに決まっている。
周りからあまり評価されるのとかは好きではないが、好きな人といるときに他人からカップルと断定されるのは何故か嬉しい。
評価されるのが好きじゃないと思っているくせに、軽はずみな気持ちになってる自分自身に普段なら落胆するのだろうが、今はそんなことどうでもいい。
「お待たせしました。チョコレートパフェといちごパフェになります」
運んできてくれた人が丁寧に注文したものをテーブルにおいてくれた。
「ありがとうございます」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「ありがとうございます。ごゆっくりお過ごしください」
お店の人との会話はとても丁寧だ。
こういったところもとても素敵である。
以前、ヤンキーのような格好に似合わず、なんで丁寧なのかを聞いてみたら照れ臭そうに、繋一さんの真似をしたら自然と身についたと言っていた。
ありがとうございます、繋一さん!
アナタのおかげで今のアルトさんがあります!
なんか、どことなく繋一さんの嬉しそうな顔が私の脳内に浮かび上がってきた。
まるで近くにいるように。
「思ったよりも大きいな。食べきれるか、チヨ!」
「もちろんです!こんなおいしそうなもの、残したらバチが当たりますよ!」
「そ、そうだな。なんかチヨが頼もしく見えるぞ」
アルトさんは苦笑いをしながらスプーンを持つ。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
私もスプーンをもって早速パフェをいただく。
「うん!美味しい!」
口に入れた瞬間、まろやかな食感が口全体に広がって、それでいていい感じの冷たさとチョコの甘さが脳に響く!
「うまいな、これ!見た時は少し心配になったが、俺も食べきれそうだ!」
良かった!アルトさんも美味しそうに食べている。
いちごパフェか・・・・・・おいしそうだなあ。
そんなことを思っているとアルトさんがいちごパフェを乗せたスプーンをこちらの方へ寄越してきた。
「ほら、食べたいんだろ。口開けな」
「え!?いいんですか!?」
「ご、ご褒美だ!変な事思うなよ!」
照れながら言うアルトさん、うん最高ですね。
普段なら絶対にそう言ったことをやらないのだけれど、周りの雰囲気に呑み込まれたのか、それとも本当
にご褒美のつもりだろうか。
「アーン。うん!美味しいです!ありがとうございます!あ、私のも食べますか?はい、アーン」
私は勢いに乗って叩き込んでしまおうと一気に心の距離を詰める。
「い、いや。いい」
「え~何でですか?美味しいのに」
どうやらここまでのようだ。
相変わらず装甲が固い。
まあ、私もこういう風に勢いに乗ることができないと責めることができないのが原因でもあるのだけれど。
・・・・・・
この流れで言ってしまおうか。
前は恥ずかしくて言えなかったけど、私の将来を・・・・・・
完全に周りに流されてしまった。
まさかこの俺があんなことをしてしまうなんて。
嫌ではない。チヨは大切な・・・・・・
いや、そうではない。ただただ恥ずかしい。それだけだ。
まあでも、チヨの嬉しそうな顔が見れてよかった。
一昨日は命の危険に遭わせてしまった。もう二度とあんな目に遭わせたりなどしない。
もしかしたら、今の俺の気持ちは・・・・・・
チヨに喜んでほしいのは確かだ。だけど、もしかしたら俺なりの罪滅ぼしなのかもしれない。
自分が何故そういう気持ちになったのかはわからないけど、もし今の時間を罪滅ぼしと考えるのなら、俺は自分勝手な最低なやつであろう。
うん、やめだ!やめ!
今はチヨとの時間を楽しもうではないか!
チヨがパフェを食べ終わり、テーブルに置いてあったテッシュで口の周りを吹き終わると俺の方へ視線を向けた。
「アルトさん」
「どうした、チヨ?食べたりないか?」
「いえ、そうではないです。もう満足しました。いろいろと」
「さいですか。それならよかった。」
チヨの視線から何か強い意志が伝わる。間違いない、何か言おうとしている。
なんだ?何を言うつもりだ!?
俺は静かに何を言われても大丈夫なように覚悟を決める。
「私、前に夢があるって言ったじゃないですか。その夢のこと、聞いてくれますか?」
「ゆ、夢!?そ、そうだったな!」
夢か!びっくりした!まさかな・・・・・・なんて思って心の準備をしていたがとりあえず安心した。
「どうかしたんですか?」
おっと、びっくりしたことを悟られないようにしないとな。
「いや、なんでもないよ。どんな夢ができたか、聞いてもいいか?」
そうか、なんか前まで小さくて俺の後ろに引っ付いてきていたようなチヨに、以前夢ができたと聞いてほっとした。だがその内容を聞いてはいなかったのだ。
気になってはいたが、本人の口から語られるまでは聞かないようにしていた。
生きる気力を失っていた5年前とは全然違う。
チヨも日々成長しているのだ。
「私、小説家になりたいんです。昔たくさん読んだお話は悲劇的で、悲惨な物語だったけど切ない物でした。それもよかったんです。だけどやっぱり、私は幸せなのがいいんです。綺麗事かもしれないけど、喜劇的でも悲劇的でもなくて、面白味がないかもしれないけど、みんなが読んでこんな世界いいなって思えるような小説を書きたいんです」
チヨ・・・・・・自分の意志で新たな一歩を踏み出そうとしているのか。
「そっか。話してくれてありがとな。じゃあ俺はチヨ先生のファン一号になるわけだな!」
「は、はい!書いたらまずはアルトさんに見せますね!楽しみにしていてください!」
チヨが満面の笑みを浮かべる。
チヨがまた一つ成長していく。嬉しいけれど、どこか寂しい部分もある。
どうやら俺は、チヨに頼られたり甘えられたりするのが好きなようだ。
ん?あれ?俺ってもしかして・・・・・・?
いや、ありえない!そんなことがあっていいわけではない!
だってそれは、恩に乗じた卑怯な手であるから・・・・・・
俺は自分の想いを誤魔化そうと口を開けた。
「ほ、ほら。でもその前に受験はするんでしょ?頑張りなよ!わからないところは教えるからさ!」
「は、はい・・・・・・うう、お出かけ中に勉強のことを思い出したくない・・・・・・」
こういうところはまだまだ子どもである。
それもまたかわいらしいのだが。
一体この子は将来どんな大人になるのだろうか。
それを見届けるためにも、これから俺も頑張っていかないとな!
俺は喜びと決意と共にお会計に向かうのだった。
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