第25話 協力
協力
人間は一人では生きていくことができない。
これは歴史的に見ても、現代からしても普遍的な真理である。
一人で生きていけるだなんて正気か?誰がその家を作った?誰がその食料や服を作ったと思っている?
昔の俺に声を掛けてやりたい。意地張ってわがままになりすぎるなって。
もっと広く視野を見てごらん、俺を支えてくれている人たちはちゃんといるんだって。
皆で力を合わせて生きていく。それはきれいごとなんかじゃない。
生存の為だなんて律儀で義務的な事を言うつもりはない。
一人じゃつまらないから。ただそれだけの理由で人と協力して生きていく理由は成立する。時に利益を求めたり、損得感情で協力する関係もあるだろう。それもまた人間だ。
だが、本当の協力は互いに支え合いたいという親愛から来るんじゃないだろうか。
よりどころが欲しい。安心できる場所が欲しい。自分を出せる場所が欲しい。
それが多ければ多いほど、人間の幸福度は増していく。
いや、もしかしたら少ない場所でも十分と思える人もいるかもしれない。
そうなれば、もっと自分を出したいと思ってしまう俺はあまりにも強欲なのかもしれない。
13時
俺は昼ご飯も食べ終え本当なら訓練があるところなのだが今日はみんな忙しく、飛月もけがで安静中なので手持無沙汰になっていた。
というわけで、地上に行って孤児院を訪れたわけだが。
「まーた隅っこで何してるんだ、成人」
俺は俺と長い間接点のある孤児院の重鎮こと、成人に話しかけていた。
「別に何もしてない。小さい奴らと話し合わないし、みんな小さい子たちの面倒を見に行ってる」
「そっか。暇なのか」
「まあ、そう」
コイツも大変なやつだ。
同い年の子どもたちはもう引き取り手が現れてすでに一番この孤児院で一番長くいる子どもの一人だ。
まあ、本人が引き取られるのを嫌がっているというのがこの現状を招いているのが原因なのだが。
成人には成人なりの生き方があるのだろうか。
「しかし、暇なのもなんだ。どっか行くか?」
俺が孤児院の職員の人にお願いすればいけないことはないだろう。
「いい。今外は病気流行ってるらしいし」
「紫陽花病か・・・・・・」
紫陽花病は本来獣が顕現しない限り原因となる紫の粉塵は発生しない。
俺の浄化の光と五代たちの部隊が対応してくれているらしいので、下手に広がることはない。
しかし、メディアの発表の仕方はその真実とは全く異なるものであった。
未知の殺人ウイルスという公表、まあウイルスではないがウイルスみたいなものなのでそこはいい。
前にも旦那が言っていたが花を燃やす運動や花粉のような粉が原因として粉物の生産がストップされるなどデマの情報が盛んに行われている。
度々、政府による陰謀論を唱える者もいるが、あながち間違いではないというのもタチが悪いものだ。
「また元の生活に戻れるのかな?」
成人は不安そうにつぶやく。
「戻れるさ、きっと。昔のような日常に戻るために戦っている人たちがいろんなところにいる。だから信じようよ。彼らの勇気をさ」
俺は成人の頭を撫でる。
チヨにするように昔から俺もコイツの頭を撫でるのが癖になっているのだ。
「そうだよな。きっと大丈夫」
少し元気が出たようだ。
どことなく今日は暗い感じがしていたので戻ってよかった。
俺は孤児院の周りを見渡す。
・・・・・・うーん。
どこにもあの人がいない。
あのボンキュッボンでナイスバディで人妻でとても愛らしいあの人が。
「なあ成人よ。蓮沼さんは今日はいないのか?」
「なんだよ、アルト。知らないのか?」
そう言った成人の顔はさっきより以上に暗くなっていた。
「いなくなったんだよ、急に。とても大事な仕事ができたとか言ってさ」
・・・・・・え!?
マジかよ!全然知らなかったんですけど!
最近割と忙しくて顔を見せてなかったけど、いなくなっちゃったのかよ!
うわー残念過ぎる!もうあのお姿を拝むことができないだなんて!
「何考えてるんだ、アルト?」
「いえ、何も」
イカン、イカン。子どもの前では極力下心は隠さねばなるまい。
「しかし、急にか。いつ頃いなくなったんだ?」
「いつだったかな?えーと・・・・・・」
成人はしばらく考えて急に思い出したのか口を開く。
「本当に最近だよ。ここ数日。俺もすごくお世話になったからかなり寂しい」
数日か・・・・・・本当に最近だな。
旦那は絶対に何かしら知っているであろうが、あまり口出ししないでおこう。
・・・・・・その後、蓮沼さんが五代たちと同じ龍女部隊の一員であることを知ったのはまた別のお話。
16時
「じゃあ、またね。チヨ」
「うん。またね」
私は学校の授業を終えて寮へ帰る途中だった。
少し学校から遠いけど、途中まで一緒に帰れる友達がいるから寂しく30分近く一人で歩くことはない。
・・・・・・
家が無くなってしまった。
一度目は家族も家もなくなってしまった。
二度目は家こそなくなってしまったけど、アルトさんが生きていてくれたから本当に良かった。
居場所ならあの人が生きていてくれたら何度でも、どこでだって作れる。
だけどやっぱり5年間過ごしてきて、私を私に戻してくれたあの思い出が跡形も残っていないと思うと今でも悲しくて泣いてしまいそうである。
「はあっー」
私はわざとらしくため息をこぼす。
ため息は幸せが逃げていくと言われているが、案外それだけではない。
心の中にたまっているモヤモヤとしたものがため息と共に外へ流れていくような気がするのだ。
だからと言って人前ではしないようにはしている。
それにアルトさんだって相当落ち込んでいるはずだ。
私は5年間しかいなかったけど、アルトさんは15年もあの家に住んでいたのだから。
繋一さんとだって親子のように過ごしていたはずだ。繋一さんもいなくなり、家もなくなってしまった。
そのショックは計り知れないだろう。
なのに、あの人は強く在った。
だから私も強く在ろうと思った。
アルトさんができる限り私を心配しないように。アルトさんに支えられるだけじゃなくて、一緒に歩いていきたい。もっと頑張ろう!
私はそう決意しながら信号機が赤になったので横断歩道前で止まる。
後ろの方からすごい速さで走っているのか、車の音が異常なほど大きく聞こえる。
その音はどんどん大きくなっていく。
私は気になってその音の方を見た。
・・・・・・もう距離はなかった。歩道(そこ)にはないはずの車(もの)がそこにはあった。
エンジンの故障・・・・・・?それとも運転ミス?
いや、そんなものではない。
「・・・・・・え?」
車が私にぶつかる直前、私の目に移ったものは・・・・・・
殺意と、どことなく喜びに満ちて口角を上げる男の表情だった。
グシャリ!!!!!!
そんな擬音が似合うように私はこの車に轢かれるのだろう。
私はさっきの決意なんてものを忘れてゆっくり動く視界の中で何もできずにた立ち尽くすだけだった。
辺りに人と車がぶつかる音が響き渡った。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、あれ?」
あるはずの痛みがない・・・・・・一体何があったのだろうか!?
結論を言うと、私は轢かれてなどいなかった。
目の前には大破した車。かなりの勢いだったのか、原形をとどめていない。
しかし、そんな勢いで私にぶつかってきていれば私の命はなかっただろう。
だけど、私は生きている。
そして何者かが私の前に立っている。
どっしりと構えたその姿。突き出した拳からは蒸気が噴き出ている。
「ハアーーーーッッッ」
深々と息を吐く男は、車に向かって構える。
その男と車が当たったのだろうか。
なら、なんでこの人は平然と立っているのだろうか。頭の整理が追い付かない中、ある一声で私は気を戻した。
「怪我はないか、チヨ君?」
「りゅ、龍治さん!?」
私を守ってくれたのはなんと龍治さんだった。
す、すごい・・・・・・
今の私からはそんな感想しか出てこなかった。
「生きていたのか、矢形」
運転席のドアから出てきた男は一切けがなどしていなかった。
あんなに勢いよくぶつかってきたのに。
「またしても貴様か!大道龍治!」
男は憤慨しながらドアを殴る。殴ったドアがへこみ、衝撃で車が動く。
「殺してやる!殺してやるぞ、桜田千世!!シュラバッッッッッ!!!」
「ヒッ・・・・・・」
私は恐怖した。
こんな憎悪に満ちた人を見るのは生まれて初めてだったから。
「ん?シュラバだと?」
龍治さんが不思議そうな反応をする。
私にもわからない。シュラバってなんのことだろうか?
「いや、それより!龍治さん、なんでこんなところに」
「嫌な予感がしたのでな。仕事を切り出してここにやってきたのさ。アテは当たった。一旦引くぞ、チヨ君」
私は龍治さんに抱きかかえられた。
俗に言うお姫様だっこ。
以前、ゲームでアルトさんへの罰ゲームとしてやってもらった時は今まで感じきることができなかったアルトさんの体温や骨格、筋肉の固さとかであまりにドキドキして気を失いそうになってしまった。
龍治さんはアルトさん以上に筋肉がすごくて、とても安定感がある。
これはこれで・・・・・
「フンッ!!!」
そんなことを思っていると、龍治さんは足に思いっきり力を入れたせいか地面のアスファルトが一気に凹みながら沈んでいく。
身体にズンという感覚が伝わってくる。
「え?何を・・・・・・」
私が声を出す間もなく龍治さんは私を抱きかかえたまま跳んだ。
普通の人の比ではない。何十メートルも跳び上っているのだ。
「しっかり捕まっていてくれよ!落としてしまうからな!」
「エエエエエエエエ!!!!!!!」
人間が生きている限りあまり見ることのない世界。
それこそ遊園地の絶叫アトラクションに安全装置なしで乗り込んでいるような感覚。
・・・・・・前言撤回。
これはこれで意識を失ってしまいそうである。
ドキドキで。それもアルトさんのお姫様だっことのベクトルが全く違う緊張感で。
16時 本部内
「できたぞ!時間かかったなあ!」
科学技術部の研究室から声が聞こえてきた。
俺は暇を持て余していたので見に行こうと思い、部屋に足を運んだ。
「どんなものができたんですか?」
部屋に入ってみると、そこには普通のサイズよりも若干大きいドローンと・・・・・・
ミサイルがあった。
「あら、アルト君。ちょうどよかった。飛月君が言っていたものがスタンバイできたの!」
ウキウキな様子で話しかけてくる原田さん。
いや、この短時間で飛月の指定したものを作り出すとは。
うちの科学技術班の力ってすげー。
でも、やっぱり気になる。
「あの、原田さん。これって?」
俺は後ろのあまりにも大きい物を指さす。
「ああ、これ?ミサイルだよ!これならあの獣も瞬時に凍らせることができるわ!」
「うん、ミサイルですよね」
科学技術班の方々がとても誇らしいどや顔を決めている。
・・・・・・うん、ツッコんでもいいかな、これ?
「これ。どうやって外に出すんですか?俺が巨大化して持っていくとしてもこの地下を吹っ飛ばすことになりますよ?」
・・・・・・その時、研究室に激震走る!
「そうじゃん!ノリノリで作ってたら一番大事な事忘れてた!」
科学技術班の天才たちが慌てふためく。
マンション何十階分もある生物を一瞬で凍らせるほどのものを半日足らずで作り上げてしまうほどの技術。
政府は間違いなく欲しがるだろうなあ。
だけど、使用までのプロセスだけは頭に入っていなかったようだ。
効能的に使うことができても、持ち出せなければ意味がないのだ・・・・・・
「え~。どうしよう、どうしよう。ポケットサイズぐらいに小型化するのにはさすがに時間かかるし、今攻め込まれたら・・・・・・」
いや、ポケットサイズさえも時間かけたらできるのかよ!?どうなっているんだうちの科学力!?
そんなことを思いつつ、一方で原田さんたちが対応を練っていると研究室の扉が開いた。
そこに現れたのは、旦那とチヨだった。
「あれ?旦那。何でチヨと一緒に?」
街中で会ったのかなと呑気な事を考えているとチヨが急に抱き着いてきた。
「チヨ?どうした、チヨ?」
様子がおかしい。確かにチヨは俺には甘えてくる習慣があるが、人前で急に抱き着いたりしてくることは今までなかった。
チヨの体が震えている。間違いなく何かがあった。
「旦那、何があった?」
旦那は険しい表情をして口を開く。
「矢形がまだ生きていた。車でチヨ君を轢き殺そうと企てていたんだ」
「な・・・・・・んだと!?ふざけやがって・・・・・・!」
チヨを殺す・・・・・・その言葉を聞いて絶句した。それ以外の表現方法が見つからない。
俺に眉間に一気に力が入る。ふざけた真似をしやがったな矢形!
「俺の見立てが甘かった。あの時確実に仕留めていればチヨ君がこんな危険な目に遭わずに済んだというのに!」
旦那が悔しそうな顔をする。
相当席何を感じているようだ。だけど・・・・・・
「旦那は悪くねえよ。あの時助けに来てくれていなかったら、俺も飛月もどうなっていたかわからなかった」
俺は震えるチヨを強く抱きしめながら言った。
「アルトさん」
チヨが俺の胸に顔を埋もれながら俺の名前を言う。
「ごめんなさい・・・・・・私、アルトさんみたいに強くなりたくて、いろいろ我慢してたけど・・・・・・結局ダメだった!怖かった!怖くて仕方なかった。家が燃えたって聞いた時もアルトさんとそのことを話している時も、頑張って泣くのをこらえてきたけど、もう・・・・・・ごめんなさい」
俺の服の胸の部分がじわじわと濡れてきていることが分かった。
俺は高まる感情に身を任せないように。
まずは優しくチヨの頭を撫でた。
「ありがとな、チヨ。俺のことを思って強がってくれて。危険な目に遭わせてすまなかった」
「アルトさん・・・・・・!アルトさん!」
チヨの抱きしめる力が強くなっていく。
「今日の夜はうんとうまい物作ってやる。だから・・・・・・待っててくれ」
俺は抱きしめるチヨの腕をゆっくりほどいて研究室の出口の方へ顔を向ける。
今の表情は、チヨに見せるわけにはいかない。人間の怒りや悲しみなど、これ以上チヨの人生には不要なのだ。
「旦那、行ってくる」
「ああ、武器に関しては任せろ。俺が何とかする」
本当にこの人は頼りになる。
この人の何とかする以上に信用できるものはないな。
「待て!アルト!」
部屋の扉が開いたと思ったら、救護室で安静中の飛月がそこにいた。
「飛月!?お前、今は療養中だろ!寝ていないと・・・・・・」
「アルト!今のお前じゃ危険だ!今度こそ、死んでしまうかもしれない!」
俺の心配を遮って飛月は俺への憂いを吐露する。
「やつの・・・・・・スーロの狙いはお前の精神状態を如何に悪くするかだ!精神状態が安定していないと、抑止との繋がりが悪くなってエネルギーの消耗が激しくなってしまう!
アイツはお前の家を燃やし、農場の人たちや桜田さんのようなお前が大切にしている人たちの命を奪うことによってコンディションを悪くしたお前を殺し、獣を使ってこの星を侵略するつもりだったんだ!」
何故そこまで飛月が知っているのかは今はどうでもいい。
だが、いくつか聞き捨てならないことが耳に入ってきた。
「家を燃やした。村田夫妻を襲おうとした。俺のダチも殺そうとした。挙句にチヨの命を奪おうとした・・・・・・んでもって、獣を操ってる?」
「・・・・・・」
飛月が顔を気まずそうに下に向ける。
きっと何故知っているのかを言及されるのかと思っているのだろう。
だけどそれ以上に。
「飛月、ありがとう。どうやって知ったのかはわからないが、矢形・・・・・・いや、スーロだっけか?から村田夫妻や農場のみんなを守ってくれて。あの時国民保護警報を流す要請をしたのも、村田夫妻やみんなをその場から逃がすため。それと俺の変化を誰にも見られないようにするためだった。そうだろ?」
「・・・・・・ああ、そうだ」
「なら、そんな気まずそうな顔をしてくれるなよ。お前はすごいことをしたんだ。俺の大事なもんを守ってくれた。ありがとう飛月。お前がいなかったら俺は今頃・・・・・・」
いや、これ以上言うのはやめておこう。考えたくもない。
「でも、俺は行く。家を燃やされ、お前に大けがを負わせて、村田夫妻やダチを襲おうとした。それに・・・・・・チヨを危険な目に遭わせた。ただじゃおけない」
「だが、アルト!」
「大丈夫だ」
俺は飛月の肩をたたいて廊下に出る。
「けがが治ったらめっちゃ遊ぼうぜ、兄弟。満足するまで、寝かせねーからな」
扉の閉まる音がした。
・・・・・・ようやく一人になれた。
ここまで来たらもう必要以上に人で在ることにこだわる必要はない。
何故なら・・・・・・チヨが生きていてくれる限り、俺は人に戻れるのだから。
「シュラバァァァァァァァァ!!!!!!!!」
俺は薄虹色の光に包まれた。
巨人は地下の組織を破壊することなく空へと飛び立った。
宙を飛びながら体の色を変化させ、一度止まり胸に手を当て、集中する。
その虹色の輝きは手を伝って腕へと流れる。
その光を、巨人は空高く放った!
巨人が作り出した空間の中には封印した獣がいた。
何もない空間で取り残されていたためか、空にこもっている。
どうやら寝ているようだ。
巨人は躊躇なく、空中から全体重を乗せた蹴りを入れる。
鈍い音共に殻が割れて、中身が肉片となって辺り一面に飛び散る。
「やはり、とんでもない一撃だ。侮れん」
巨人は声が聞こえた方向を振り向く。
そこには、巨人の大切なものを奪おうとした張本人がいた。
「巨大化か。やはり古代の王が巨人族を恐れてこの姿になったとしか思えないな」
・・・・・・巨人にはその発言が理解できなかった。
「まあ、いい。ここで仕留めてやる!シュラバ!」
男の体が白く濁った光に包まれ姿が変わる。
見るだけで吐き気がしそうな醜い見た目。
宿業そのものを肉体に宿らせたようなその醜悪な姿は、次第に巨人と同じほどの大きさとなっていく。
「さあ、殺してやるぞ!シュラバ!!!」
巨人は身構えた。スーロが飛び掛かってくる!
飛び掛かってきた勢いで、体勢を維持できず、巨人は倒れこんでしまった。
スーロは巨人にまたがって殴る。
怒りに任せて殴る。
・・・・・・彼は自分の怠惰を呪った。
後悔先に立たず。仲間をころされた彼は復讐と念願である侵略のために巨人を殺害しようとそているのだ。
巨人はスーロを蹴り飛ばす。
巨人は立ち上がりスーロに向けて構えるが、後ろから鋭利な爪で引っかかれてしまった!
巨人からいたみで声をあげる!
背中から血の如く光が零れる。巨人は次の一打を受けないように振りかざしてきた腕を掴み、獣を背中に乗せ投げる!
ひっくり返った獣に、巨人が追撃を入れようと殴りかかったが、背中への衝撃で体勢を崩してしまった。
スーロがビームを腕から放ってきたのだ!
巨人の腹立たしいと言わんばかりの声と動きに、スーロが高笑いを上げる。
後ろを振りむこうとするが、獣が殻に閉じこもり前の戦闘と同じように飛び上がった。
巨人に以前のように突進する。
前は受け止めきれず、飛ばされてしまった。
だが、今回の巨人は一味違う。
巨人は獣の突進を受け止め、スーロに向かって獣を投げつけた。
「何ッ!?」
スーロは前回り受け身を取り、難を逃れたが驚きを隠せないようだ。
「何故だ?以前の戦闘では攻撃を食らっていたはず・・・・・・」
おかしなことを聞くものだ。その理由はいたってシンプル。
(テメーへの怒りと!根性ってやつだァァァァァァァァ!!!!!!!!)
巨人は角に手を当て、腕を引き、赤い光線を獣に放つ。
獣は爆発し、炎上する。
「バカめ、我が悪神の特性は不死身だ!何度同じような事をしようとも復活するのだ!」
巨人の体の赤い輝きがゆっくりと消え始める。
「どうやらエネルギーの消耗が激しいようだな、シュラバ!そうだ!もっと怒れ!もっと負の感情を抱け!」
勝利が迫ってきたと高らかに笑うスーロとは裏腹に、巨人は急に地面へ向けて拳を思い切りたたきつける!
「なんだ?そんなに悔しいのか?滑稽だな!」
その姿が滑稽に見えたのだろう。さらに嬉しそうに笑うスーロ。
だが、それは巨人の狙い通りであった。
巨人は右腕に光を集め、一気に放出する!
腕をたたきつけられたことによって発生した砂煙が辺りに広がる。
「グッ、小癪な!」
スーロは砂煙で周囲が見えにくい中、顔と身体に着いた数十もある目で周囲を見渡す。
だが、背中にもついているその目でも、巨人の動きをとらえきることはできなかった。巨人はマッハの速度でスーロの懐に入り、拳を叩き込んだ!
「ガッ・・・・・・カハッ」
スーロが痛みで声も上げられず、力なく血を吐きながら地面に倒れ込む。
獣はまだ再生の途中だ。瞬時に身体を燃やし、復活を遂げる不死の炎。
巨人はそれを狙っていたのだ。巨人はスーロの足を掴んでジャンプした!
「・・・・・・!!!!!!!!」
高く跳び、降りてくる衝撃をすべてスーロにぶつけるように掴んだ腕を振り下ろした!
振り下ろした場所は・・・・・・
獣がちょうど再生している場所だった。
スーロの体が燃え始める。
たたきつけられた衝撃で既に死んでしまったのか、気絶してしまっているのかはわからないが、もう声を一切上げない。
巨人は胸の前に両手を合わせ、赤いエネルギーを手に流す。
次第に掌に球体のようなものが出来上がり、それを燃えるスーロと復活した獣に向けて投げた。
その球体は獣にぶつかった瞬間、爆発を起こした。
獣の体も、スーロの死体もすべて吹き飛ばしたのだ。
・・・・・・しかし、赤い命はもうほとんど残されていない。
エネルギー切れが近いのか体中から荒ぶる笛の音が鳴り響く。命の限界が近くなっていく。
だが、その爆発は逆再生を起こすような動きをして、再び獣が復活する。
巨人はもう限界だった。
その場でひざまずいてしまう・・・・・・
「待たせたな、アルト!」
巨人はその声に反応し、近くの地面を見渡す。
そこには、大人がいた。
巨人が一番信用する大人が。その大人の近くには、ミサイルが置いてある。一体どう運んできたのだろうと、巨人は疑問に思ってしまった。
「アルトが限界だ!ドローンの用意を!」
「了解!」
本部を私に任せ、現地へと向かったキャプテンであったが、見事にミサイルを運ぶために本部の廊下の天井に穴をあけて地上へと持って行ってしまった。・・・・・・修理はどうなることやら。
「太陽光の補給、マックスです!」
「了解しました!ドローン砲、発射!」
ドローンはミスター・アルトの方向へ飛んでいき、そして・・・・・・
胸の玉のあたりにぶつかって爆発を起こした。
「「「・・・・・・え?」」」
その場にいた科学技術班以外の人たちはドローンカメラでその光景を見て唖然とする。
「私、もっとドローンから何かが放射されるものかと思ったのですが?」
そうである。砲というぐらいだから何かがドローンから飛び出してくれるものだと思っていたのだが・・・・・・
「さすがにロマンはあるかもだけど、今の私たちにはそこまでの科学力はないの。だから・・・・・・」
「だから?」
「ぶつけて内蔵した太陽光を放出すればいいんじゃないかって話になって」
原田さんが平然と事情を話す。
「いや、爆発しちゃってるんですけど!?大丈夫なんですか、ミス・原田!?」
映像の絵面なだけにかなり焦る。
「アルトさん!!!」
チヨさんが叫ぶ。初めてミスター・アルトの戦闘を見るであろう彼女であったが、一切目を背けることなくただ見守り続けていた。
しかし、この状況。叫ばないのは無理もない。
そして、ミスター・アルトはというと爆発の光が消え・・・・・・
身体の光が復活していた!
アルトは何が起こったのかわからず、自分の手を見つめる。
「金龍は太陽の神とも言われている。それならば、飛月が言った通り太陽光を胸の龍玉に与えればエネルギーは復活する!不死身なのは敵だけではない!」
よくやってくれた!科学技術班!
「さて、次は俺の番だな」
俺はミサイルの最後部の方へ行き、右足に氣を流し、貯める。
「どいてな、アルト!ぶち込んでやるぜ!」
俺は思いっきりミサイルを蹴り飛ばした。
狙う先は獣の方角。
復活してただ立っていた獣はミサイルに当たり一瞬にして凍り付いた。
流石俺たちの科学力だ!20メートルはあろう獣が凍り付き、一歩も動かない!
「頼んだぞ、アルト!」
アルトは頷き、凍った獣の方へ走っていった。
巨人は心の底から感謝していた。この戦い、仲間の力がなければ間違いなく自分は死んでいただろう。
だが、最後にこいつを倒せばこの戦いは終わる。
巨人は念力で凍った獣を浮かせ、自分も一緒に飛び立っていった。
ある程度飛んでいくと、魔祓いの空間から抜け出し、大気圏に入っていた。
巨人が足を踏み入れた、いや足を浮かばせたのは、宇宙だった。
何もない闇のような空間。
だけど、たくさんの光がそこにはあった。
あれが星なのだ。幾星霜の彼方から、ここまで光が届いているのだ。
その無限に広がり、存在する光は、まるで生物のようだ。
巨人は凍り付いた獣を遠くへ投げて、可能な限りのエネルギーを角に集め、腕にその力を流す!
力の限りの光線を放出する!
獣は凍ったまま宇宙に跳び散っていった!
・・・・・・凍ったままでは二度と復活することはないだろう。
巨人の体から光が再びなくなり始めるほどの威力の光線。
だが、もう安心だ。今、この瞬間に巨人の命を脅かす存在はいないのだから。
巨人は安心しながら故郷の星への帰路につく。
ここは愛の星。この星は様々な形であると推測されてきた。
球体、平面、三角形、四角形、楕円形・・・・・・
しかしどれも当てはまっていなかった。この星は愛の星。ハートの形をしていた。
青く光る愛の星。それが彼の故郷なのだ。
この星は様々な異星人に侵略されている。どうか、守り切ってくれ!
・・・・・・とは思うものの、彼にそんな責任を負わせたくはない。
彼は星に帰りながら考えていたことは、共に生きる大切な人へ作る今日の夕飯の献立であった。
そうだ、そのぐらいでいいのだ。変に気負いしていなくて本当に良かった。
すまない、君を助けるにはこうするしかなかったんだ。それも・が・・・・・・・を倒しきることができなかったから・・・・・・
そのせいで君が酷い目に遭ってしまうかもしれない。
だけど許される限りどうか君は君の人生を生きてくれ・・・・・・
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