第9話 龍神
龍神
神は実在するのだろうか?そんな議題は、はるか昔の時代から行われてきたものだ。
信じる者は救われる。奇跡が起きたから神はいる。俺は、私は不幸だから神なんていない。
本当に十人十色な意見が勢ぞろいであろう。
では、神はいると仮定するとして一体何のために俺たちのような人間を生み出したのだろうか?
無神論者はこの話を無視したって構わない。意外と俺はロマンチストなのだ。
まあ、そんなことは置いておくとしてと。
神話の世界では、神様は人間と同じような姿で描かれていることが多い。
もしかしたら・・・・・・人間というものはいずれ神になるように設定された蛹(さなぎ)のような存在なのかもしれない。
それはきっと俺たち人間が子どもを作るのと同じようなものなのだろう。
ならば、人間というものは生まれてくること自体に価値があるということになる。
では、生まれてくるとき。神の材料となる存在が一番最初に欲するものは何なのだろうか?
わざわざ自分たちと神を作るという過程を放って、人間にする意味は何なのだろうか?
きっとその次元に至るためには何かが必要なんだろう。
それは多分、人間として生まれてくることがなければ経験することができないもの。
少し恥ずかしいし、書いていて照れくさい物だけど・・・・・・俺はそれが『愛』なんじゃないかなって思うんだ。
――虹色のオーラのような光は町に広がる。
温かい光は、だんだんと薄くなっていく。
そして、それがフッと光が消えていき俺は・・・・・・
大きく成れなかった。正しくいうと、なり切れていなかった。
「か、変わった・・・・・・!」
だが、この一か月以上の間右手以外何も変化がなかった身体が明らかに変化している。
右腕は、どこか夢の中の黄金の龍を思わせるような形をした金色になっているが、右腕は赤く、左腕と同じく鎧のようであるが右腕よりもどこか人間らしさが残っている。
腹部はどこか歪だが、しっかりと身体を守ってくれそうな鎧に変化し、そして胸には金色の玉がついている。
だが、その鎧も腹部の真ん中の方や、下半身に至っては腰のあたりまでしか変化しきっていない。あまりにも中途半端な変化である。
「あ・・・・・・熱い」
おまけに額が燃えるように熱い。
手で額を覆うとすると、何かがある。
「・・・・・・角なのか?」
明らかに今までにない部位がそこにあった。硬くて太い、逞しい角の根元が額の真ん中から生えてきている。
「・・・・・・お、俺ってもしかして、人間やめてる?」
冗談は置いておくとして、チヨから聞いた話とは少し違う変化。
中途半端な状態だ・・・・・・行けるか?倒せるか?
また考えてやがる俺の頭。もういいから行くぞ!
思考を遮り、化物に向かって俺は構えようとした。
「・・・・・・っ!痛ってぇ・・・・・・」
だが、痛みについ身体がうずくまってしまう。
どうやら先ほどあの化け物から受けたわき腹へのダメージが抜けていない。
だから腹部の鎧の部分の変化が歪なのか?
俺が苦しんでいると、化け物が発狂しながらこちらを睨みつけてくる。
先ほどまで淡々とジェル状の人を喰っていたが、どうやら餌が無くなって機嫌を損ねたようだ。まあ、あの化け物に機嫌やら感情があるのかは知らないけどね。
そして、その蛇のような腕を伸ばしてきた。
俺は痛みをこらえながらアスファルトを転がり、その腕をよける。
そして、立ち上がりやつの方へ走る。
腕が再び鞭のようにしなって俺に向かってくる。
怪我をしていない左わき腹でその腕を受け止め、右手で手刀の構えをする。
右手に何かエネルギーのようなものが集まり、赤く輝く。
そして、抑え込んだ腕に右手を力いっぱいに振り下ろす。
グジャリとまるで分厚い肉に水がたっぷり入って物を切った気持ち悪い感覚とともに、化け物の腕は切り落とされた。辺りに紫色の血のような液体が散らばる。
だが、化け物は痛がるそぶりを見せることなく、すかさず俺にもう片方の腕をたたきつけてくる。
ヤバい!回避が間に合わない!
そう思ったが、何故か腕は俺の頭をかち割るどころか、俺の体のどこにも届かなかった。
俺の右手の籠手から出たバリヤーみたいなのもが俺を守ってくれた。
「・・・・・・マジかよ。こんなこともできるのか!」
だが、これでは守っているだけで身動きが取れない!
一方的に攻撃を受け止め続ける羽目になるだけだ!
「だったらっ!」
俺はそのバリヤーを勢いよく相手に向けてぶつける。化物は体勢を崩し俺は自由の身になる。
「お返しだッ!」
弾き飛ばしたバリヤーを小型化させ、フリスビーのように化物に向けて投げつける。
狙いは勿論、軌道が読み切れないやかましいあの蛇の腕だ!
バリヤーは見事に化物の腕を切り裂く。腕がボトリと重たい音を立てて地面に落下する。
もう、やつに戦う手段はない。
「・・・・・・そこか?」
目に見える。やつの急所が。
体内の胸の真ん中、人で言う心臓の部分だ!
その場所を破壊すればやつはもう起き上がることはできない。なんとなくだがそう思った。
俺は切り落とされた際の反動であおむけに倒れこんだ化け物に馬乗りになり、右手で化け物の心臓部に突き刺した。
腕を切っても痛みによる怯(ひる)みや怯(おび)えを見せなかった化け物が、断末魔を上げる。
・・・・・・見つけた!これか!
そして俺は突き刺した手で、化物からあるものをもぎ取った。
やつの急所、心臓みたいな器官である。
それは紫の丸い玉のようで・・・・・・
だが、心臓のように力強く鼓動もある。
そして、心臓のような丸い玉を引き抜かれた化け物は、跡形もなく崩れ、塵のように消えていった。
だが、その心臓だけはいまだに生きているかのように鼓動を止めない。
「気持ちわりーけど、何かのサンプルになるかもしれないな」
俺は金色の大きなシャボン玉のようなものを作り、その玉をそれにしまい込む。
その作業が終わって、急に力が向けていくのを感じた。
どうやら力が使えるのはこれが限界らしい。
「アルト!」
「おー飛月!無事だったか!」
飛月が五代をおぶって俺のところまで来てくれた。
「悪かったな、五代のことまかせっきりにしちゃって」
「構わない。おかげで助かった。ありがとう」
俺はつい口角を上げる。
ご機嫌な俺を見て飛月が不思議そうな顔をする。
「な、なんだよ?さっきの戦いで頭でも打ったか?額から角は生えてたけど」
「いや~昔のお前さんに比べると少し物腰が軽くなったなと思うと、なかなかに微笑ましいような気がしてな」
「・・・・・・ついでに言っておくと、力が抜けたのはいいが目が赤くなったままだぞ」
「え!?俺って目ぇ赤いの!?」
まさかのそんな厨二心を揺るがすような姿になってたの俺!?
嬉しーんだか、嬉しくないんだか・・・・・・
「まあ、そんなことよりもみんな無事でよかった。旦那に連絡してヘリに戻ろう」
「お、おうそうだな・・・・・・事が上手く運び過ぎているような・・・・・・」
何か飛月が言っているような気がしたが、俺は構うことなく旦那に終わったことを連絡した。
「そういえば、その・・・・・・心臓?みたいなものも持って帰るのか?」
飛月が嫌そうな顔をする。
「まあな、何かのサンプルになるかもしれないじゃん。じゃ、さっさと行こうぜ。帰って夕飯作らないといけないからさ」
チヨのやつ、腹すかせてないといいけどな。
もしかしたら、自分で作ってくれているかもしれない。
うーん、受験生だからできたらやっぱり作ってあげたいけどな・・・・・・
俺は飛月の代わりに五代をおぶって、ヘリに向かった。
――21時
俺たちは本部に到着し、まずは救護班に五代を任せた。
五代は赤の力によって体の強さが増していたので、軽い脳震盪で済んでいると聞いてとりあえず一安心!
・・・・・・一方、俺の怪我はというと。
「す、すでに血が止まってかさぶたになっています!」
「そ、そんな!その規模の怪我なら普通なら出血によるショック死に数分で至るのに!」
・・・・・・どうやら俺は少しだけ、人間をやめているようです。
ずっといるのも退屈で、大丈夫そうだったのでさっさと救護室から出てきてしまった。
出口を出ると飛月が壁に寄りかかり、腕を組み、目を伏せていた。
「おう!飛月。お前さんは何もなかったか?」
「ああ、まあな。それと、原田さんには俺から伝えておいた」
「・・・・・・そうか、ごめん」
「何故謝る?」
「だって、大切な人の死を人に言うのってすげーつらいじゃん。伝える側も伝えられた側も。まだ子どもなお前さんに酷なことさせちゃったな」
事前に話しておけばよかったなあ、後で俺から話をするって。
完全に気を抜いていた。
「いや、構わない。俺も慣れていることだ。最初は本当に辛そうに泣いていたが、俺たちに、見つけてくれてありがとう。看取ってくれてありがとうって伝えてとも言ってくれたよ」
「そうか・・・・・・伝えてくれてありがとな」
――つい天井を仰ぐ。
飛月に少しでもつらい思いをさせてしまった俺の不甲斐なさと、原田さんの悲しさにつられて泣かないように・・・・・・
しかし、何故人の死を伝えることにこいつは慣れているんだ?
俺と同じように数々の死を見てきたからなのかな?
流石に聞けないので、俺は飛月と共に先ほどの心臓のようなものを預けた旦那の下へ足を運ぶことにした。
「またせたな、旦那!」
俺たちは本部の作戦室へと入っていく。
「三人ともご苦労だった!そして悲惨な思いをさせてしまって申しわけなかった」
旦那が俺たちに頭を下げる。
ここにいる俺達だけの苦労をねぎらうだけじゃなくて、救護室で眠っている五代のことも含めてる時点でもうアンタの人の良さはわかってるっての。
「もういいよ、旦那」
飛月が俺の言葉にうなずく。
いつも通りの本部内。無事に帰ってこれたという証だろう。
だけど、いつもと明らかに雰囲気が違う・・・・・・
というのも、本部内では長倉さんと旦那、そして見たことのない婆さんがいるからだ。
「だ、旦那。それで、こちら様はどなた様で?」
杖を持ち、背が歳のせいか、かなり小さく背筋の曲がった婆さん。
だが、その眼光はどこか鋭い物を感じさせる。
「ああ、このかたこそ!俺が以前からいろんなことを教えてもらっている婆さんだ!俺の出身の村で様々な知識を使って仕事をなさっている。今日は少し無理を行って俺がここまで呼びつけてしまった」
それを聞いてその婆さんがため息をついた。
「全くだよ。アンタ、何時だと思ってるんだい。いい加減その身勝手さを治した方がいいんじゃないのかい」
旦那が申し訳なさそうに婆さんに手を合わせる。
「何、手を合わせてるんだい!私ぁまだ仏さまにはなってないがね!」
「いや合掌じゃねーよ!申し訳ないって意味で手を合わせたんだっての!」
なんか、婆さんと旦那がギャーギャーやってる。
仲いいのかな?
「「良いわけあるか!!」」
「うわー!二人そろって地の文まで読み取ってくるな!」
瞬間、俺の方を向いた婆さんが目をカッと開きおれの方へ近づいてくる。
「お、お前さん・・・・・・」
「な、何か俺、まずい事してしまいましたか?」
な、何?怖いんだけどこの婆さん!?
「意外と可愛い面しておるな、ほれ無料で占ったろうか?」
俺はガクッとした。
な、なんであんなプレッシャーを放っておいて急にそんなこと言うのかね。
びっくりしたわ!
「ど、どうも・・・・・・ありがとうございます」
「あ、俺は、俺は?」
旦那が自分を指さして婆さんに言う。
「あんたは有料!一回1万な!」
えーというリアクションを取る旦那。
な、何なんだこの微妙な空間は・・・・・・
「それで、何かわかったことはないでしょうか、ミス・ミー子?」
長倉さんがこの何とも言えない空間から、本題に戻してくれた。
閑話休題である。
てかこの婆さん、ミー子っていうのか。
どこか前の時代のアイドルみたいな名前だな。
「そうなの、アタシねミー子っていうの。よろしくね、坊や」
めっちゃ満面の笑みで見てくる~
というか人の思考(地の文)をさっきから読むな!
「そうだね、話題を戻そうか」
そして急にまたあの威厳の在りそうな眼光へ戻る。
温度差で風邪ひきそうだぜ。
「この~アルト君だっけ?が持って帰ってきてくれたこのキモイやつ・・・・・・心臓見たいだけど、どうやら人工的に作られたもののようだね。だけど、まるで何かにコーティングされているようにも見える」
「人工的!?・・・・・・だが、コーティング?そうなると、以前世界政府が秘密裏に行っていた強化人間計画のようなものか?」
旦那がわけのわからなことを言っている。
多分、噂の政府が隠蔽した情報の一つなんだろうな。
「まあ、それと似たようなものだろうが明らかにわかることは一つ。これは人工物ではあるが同時に人間が作れるような代物ではない。何故なら、人間はこれに触れられないからだ。
果たして人間が触れないようなものを人間が作るか?
龍治、お前がいた世界ではどうだったかは知らないけどね、こっちでは道具は人が使えてなんぼなのよ。
道具は人が使うために生まれ、誰にも触れなくなった道具は自動的に忘れられる。『それはこうある物』という定義で何もかもが決まってしまう。印象という名のね。触れたら使用者を壊してしまうような道具は同時に自らの存在をも壊しているようなものなんだよ」
・・・・・・凄く難しい話をしておる。全くついていけない。
それに旦那のいた世界って?
「おや、龍治?龍神のことを伝えていなかったのかい?アンタのことも?」
俺はもうついていけなくてキョトンとしてしまう。
最近はついていけないことが多いな・・・・・・
「まあ結論を言えば、この星じゃないどこかからか送られてきた代物だろう。
つまり、異星人が作ったものだろうね。なんの目的でどんな効果があるのかは、私にもわからないがね」
異星人・・・・・・昔ならデマカセだろうと思っただろうが、もはや今の俺には疑う余地がない。
「ミー子さん、先ほど言っていた龍神というのは何なのですか?」
聞くと、ミー子さんは旦那の方をあきれた顔をする。
「全く。『遣い』のくせに。自分の役割を果たさんか馬鹿者め!」
「す、すまない。いろいろと立て込んでいてな」
そう言って俺の方を見て話を始めた・・・・・・
「――龍神様はね、この星の守り神なの。龍治は抑止力といっているからそちらの方が聞きなじみがあるかな?
確かにその通り、龍神様はこの星に危機が訪れた時に何かしらの現象として発生する。いわゆる浄化作用というものだけどね。
だけど、いつからか災害の数が多くなってしまった。これは龍神様の怒りだろう。君の前任者は神に近づきすぎた故の罰なのかもしれないね。でも、人間を滅ぼそうとは思わないはずだよ」
「それは何故ですか?」
「契約さ。
はるか8000年以上前、人間と龍神様はある約束事をしたのさ。この世を平和にする力を与える代わりに龍神様を信仰するというね。契約対象が滅べば龍神様も忘れられて、消えてこの星は他の星の人ものになっちゃうからね。これも道具の定義と似たようなものだよ」
「そういえば、以前契約の話は聞きました。ですが、龍神といえば様々な色があったはずです。なのに何故今は金色のみに?」
「確かに君の言う通り、龍神には様々な色がある。じゃあ、ちょっとした昔話をしようか。そのためには、他の場所に移りたいねえ。ほれ龍治!案内せえ」
「わかった。これはすごく重要かつ機密事項のランクが高いものだ。すまないが、飛月に長倉。この物質の話はまた今度だ」
旦那が、婆さんを出口に案内する。
俺もその後ろについていくが、婆さんがそうそうと言って立ち止まる。
「飛月君?だったかな。
君、そろそろ限界が近いんじゃないかい?私に何回同じこと言われたかわからないけど、二つの意味で限界が来ているな。あまり下手な真似をするんじゃないよ」
・・・・・・一体何の話なんだ?
俺にはよくわからなかったが、飛月からはどこか怪訝な雰囲気が感じ取れる。
最初に出会った時のいけ好かない感じではなく、何か探られたくないものを探られた感じか・・・・・・?
それは俺が中学の友達の話をしたときに地雷を踏んだと思った時の感覚と同じだった。
作戦室をあとにした俺たちは、旦那に連れられて客間にやってきた。
どうやらここが一番防音の機能があるらしい。
「すまないね。本当はいろんな人にこの話を聞いてほしいのだけど、厄介なやつらが万が一いると私たちの村が危ないんでね」
ミー子さんが、客間に着くや否や話し出す。
「あ、あの!」
「どうしたのかね?」
「厄介なやつらというのは・・・・・・恐らく世界政府や龍之国政府のことだと思います。ですが、今からする話が何故ミー子さんの村が危ないということになるんですか?」
うーんと唸るミー子さん。
「そこは、この話が終わった後に俺が話をしよう」
旦那が少し複雑そうな顔をしている。
「そうしてくれると助かるわい。じゃあ物語を語ろうか。これは私や龍治の村に昔から伝わるおとぎ話さ。
――むかしむかし、人々が姿の異なった人々にいじめられていました。それをかわいそうだと思ったお星様が大泣きしてしまいました。
そしたら、たくさんの人々がその涙で洗濯されてしまいました。みんなが作った町や、道具もみんな洗濯されてしまいました。
だけど、その洗濯のなかでもお星様の泣き声を聞いて舟を作った青年がいました。青年はたくさんの人々と動物を舟に乗せました。姿のちがった人々は大きすぎて舟に乗れなかったので、星に洗濯されてしまいました。洗濯が終わると辺りはすべて海になっていました。
お星様が洗濯してしまって何もなくなった人々は嘆いていました。それを見たお星様は金色の龍になってみんなの前に現れました。そして人々と約束をしました。
【人々にいろんなことを教える。その代わりに私たちを思い続けてくれ】と。お星様の声を聞いた青年が龍神様と契約を結び、青年は金色の体を手に入れました。
それと同時に舟の中で青年と永遠の愛を誓った女の人はその人はその青年を導く力を手に入れました。
さらに、龍神様は人々に豊かな生活をしてほしいと、赤、橙、黄、緑、青の力を授けました。
男の人は力を手に入れた代わりに星の声を聞けなくなってしまいました。
ですが、女の人は龍神様の声が聞こえるようです。その声に従ってみんなを導きました。
まずは青の力で水を割り、黄の力で大地を隆起させて大陸を作りました。そして緑の力で植物などの自然を作り、橙の力で火をおこし人々に温かさや道具を与え、赤の力で健康な体にして平和に暮らしましたとさ」
洗濯に色・・・・・・
以前にも旦那が言っていた箱舟の話と同一の事なのだろうか?
「――人々は龍神様に感謝し、祈りました。そうすると生活はもっと良くなり、大層平和に暮らしていました。時間が経つにつれて町は大きくなり、文明と呼ばれるようになっていました。
人々は金色の青年を王に、龍神様の声を聞く女の人を姫にして生活し、人々も自分たちを赤の支族、橙の支族、黄の支族、緑の支族、青の支族と定めてそれぞれの役割に準じていきました。
しかし、そんな日々も徐々に崩れていきます。ある日、大地が揺れ、壊れた笛のような音が大陸中に響き渡ります。そして空が真っ黒に染まり、空間が割れて奇妙な生き物たちが出てきました。
王様は金色の力を使って7つの厄災をすべて封印し、悪の親玉と戦い打ち勝つことができました。
ですが王はその時の傷で死んでしまいました。人々は泣きました。姫は王様を忘れないようにと海に落とすとそこから新たな大陸が出てきました。
人々はその姿にも感銘しました。ですが、悲劇が始まります。
人々がいろんなところでケンカを始めてしまいました。悪の心が芽生えたのです。殴って蹴って、憎み合って。そのことに嫌気のさした青の支族はお星さまから離れ、戦いを嫌い、悪の心にならなかった一部の人々は王様の大陸にすみ始めました。
その後も人々の傷つけあいは此処にとどまらず、とうとう互いを殺し始めるところまで発展しました。そのころから人々の体からお花が咲いてきました。
そのお花は人々の姿を変え、様子を見に帰ってきた青の支族がその姿に恐怖しました。そして青の支族は協力してその大陸を氷づけにしてしまいました。そしていずれか龍神様への思いの心もなくなっていきすべて忘れられてしまいましたとさ」
・・・・・・
お花・・・・・・姿が変わった・・・・・・
「もしかして!そのお花というのが!」
「ああ、多分三人が今日相まみえた紫陽花病のことだろう。そして、姿が変わったというのが五代にけがを負わせ、アルトと戦った例の犬と蛇のキメラのような化け物のことで間違いない。それに、7つの厄災・・・・・・壊れた笛のような音というのがラッパの音。そして――」
「空を真っ黒にして、大地を揺らした。5年前に襲来した災害の状態と同じだ・・・・・・」
つまり、チヨの家族を殺し、町を壊滅寸前まで追いやったやつが伝承として語られていたのか・・・・・・!
「以前俺が倒したやつも空間を割って出てきていたな。要するに、その言い伝えと今の状態が同じだとするならば、俺たちの呼称している『獣』がまだ6体いるってことになる」
旦那が困ったように頭を掻く。
「うむ、そうなるな。しかしその伝承には、何故そやつらが現れたのかの理由や、何故人々に悪の心が芽生え、花が咲くことになったのか。そこまでは書いてなかったようなのだよ」
「そうでしたか・・・・・・」
それさえわかれば事が上手く進むかもしれないんだけどな。
「しかし、婆さん。よくそんな長い物語を覚えることができたな」
旦那が関心そうに言う。
「はっ。あの村には言い伝えぐらいしかなかろうて。若いころから暇さえあれば読んどったから覚えちったわ。お前さんの世界での村がどうだったかは知らないけどね。そういえば、アンタの世界でも何か伝承のようなものがあったと言っていたな」
そ、そういえば!
「旦那にミー子さん!二人の言っている旦那の世界って・・・・・・」
旦那が忘れたと言わんばかりにあっと言った。
「龍治や。思い出すのも辛いかもしれないが、少しは教えてやったらどうだい?アンタのこと」
「まあ・・・・・・そうだな・・・・・・」
旦那はバツが悪そうに後頭部を掻いているがよし!という気合の入った声と共に口を開いた。
「聞いてくれアルト。俺はな・・・・・・元々この世界の住人じゃないんだ。俺は世界線を越えてきた人間なんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます