最終話

「それって、どういう……」


「いきなりだけど、お別れみたいだ。

私の寿命は最初から決まってたんだよ。

そう、キミの形を映し出すものとしての権利を失うときだ。


だって私はキミ、キミは私。

比喩じゃなく鏡写しだから。」


この時、僕は過去の出来事が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。


鏡は確かに母が割っていた。

鏡は、自分を全く同じ姿で映すが、左右は完全に反対。

だから鏡の中の正反対な僕はそこから出ていった。


コンビニで簡単に僕に対してお金を出せたのも、地球の壊し方の考えの違いも、読書の趣味も、破壊願望と破滅願望も、顔の整い方も、性別も。

綺麗に正反対で、まるで鏡写しのよう。


名前は「you」。


もうこれはそうだ。

これはもう一人の僕であり、これは真っ向からの他人でもある。

ただ、あまりに対極に位置する彼女のことは、正直なところ自分とは言い難いものがあった。


「心配だよ。哉汰くん、いや私と言った方がいいのかな。

私は自己肯定感が低いし、この先母とどうするつもりかも、私には知るすべがない。

いや正確に言えば私は知っているわけだけど、私は知らない。

なんだか禅問答みたいになってきたね。

答えは出ないけど、私は知っていて知らない。


全て知ってるのはキミで、私だ。」


彼女に声をかけても、彼女がここにいられる時間が増えるわけではないと僕は悟った。

きっとあの割れた鏡は、もう家の中から無くなってしまったのだろう。

すなわちそれは、僕と母の鏡ではなくなったと言うこと。

すなわちそれは、僕を映すものではなくなったと言うこと。


僕を写して実体を持った彼女は、僕が鏡を捨てるだけで簡単に消えてしまう。

いや、たまたま鏡が割れて出てきただけで、実際に実体があるわけでない。

今ここで声を交わし合い、心を通わせているのも奇跡なのだろう。

そもそもこれ自体、盛大な独り言なのかもしれないが。


「ありがとう」

彼女はそう言うと、まるで最初からなかったかのように存在が消えていた。


僕は長い下り坂をゆっくりと踏みしめ、自分の家へと帰ろうとする。

途中、ゴミ捨て場に割れた鏡が捨てられてあった。

僕は彼女を見て、「ありがとう」と呟く。

母があれを捨てたのだろう。

僕は自然と前を向くことができた。


「ただいまー!」

僕は笑顔で古びたアパートの扉を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界破壊同盟 友真也 @tomosinya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ