第4話
それは最初、世界を壊さない?
と誘われたことを思うと、いささかスケールに欠けるものなのかもしれない。
しかし、知ってる人をみんな空に送る、即ち殺すというのは、十二分にとんでもないものだった。
こんな話は個室でするべきなんじゃないか?
とか思いつつ、空虚の店内を見渡す。
要するに僕たち二人以外は店長しかいない。
二十四時間営業の無意味さを感じた。
そしてその店長は、面倒ごとに首を突っ込まない性格のうえ、長時間労働のためか、すでに心ここに在らずといった状態だ。
だがしかし、ノーリスクというわけでもないので双方声のトーンを落としてしゃべることにする。
彼女は……そういえば彼女の儚さと話に気を取られて、名前をまだ聞いていないことを思い出した。
僕が言えるのは、彼女がそこまでの美貌を持っているということだ。
「あの、名前を教えて貰えないですか?」
彼女は何かを閃いたみたいにハッとした表情で茎わかめの手を止め、手を合わせてはにかみながら言う。
「そういや言ってなかったっけ、ごめんね、私の名前は……『ユウ』、十七歳の浮浪人だよ。
キミの名前は?」
ユウ。
大人びていると言うよりは全てを悟った女子だとは思っていたが年上ではなかった。
そして僕も名前を言っていなかったので、答える。
「
多分ユウさんとは同い年です。
学校は……行ってません」
ユウさんは、「なるほど、哉汰くんか……」とつぶやきながら、今度は茎わかめを空にしたようでゴミ箱の方に向かっていった。
「じゃあ私も哉汰くんに質問。
これで一対一だね。」
戻ってくるやいなや、彼女も僕に対して質問をしてくる。
一対一?
なんのことだ?
「破滅願望はある?」
いきなり出てきた言葉。
僕はおののいた。
破滅願望、つまり自分の身を投げたい。
なんで初対面でこんな質問を?
とも一瞬思ったが、そんな事はすぐに消え去っていく。
僕の核心を、深層をつくような質問。
友人などいない、進学もしていない、母とともに、ただ明日を待つだけの人生。
正直、それが僕の世界だったし、それは変えがたい運命だとも知っていた。
だから僕は人生を投げ出した。
要するに、ここにただあるだけの存在。
むしろ、生活保護を受け取っている以上、いない方がマシとも言える。
僕はきっと無意識のうちに「自分が生きていて良いのか」と言う言葉を封印していた。
いや、自分が努力しないことを母の存在で盾にしていたのかも知れない。
禁じられたその言葉は、僕の心を荒し、蝕み、破壊する。
明るい店内が、田舎の道路みたいに真っ暗に見えた。
一体僕は今、どんな表情をしているだろう。
ユウさんは僕のことを嘲笑うような目で、こちらを見てさらに質問をしてくる。
「じゃあ逆、破壊願望は?
例えば想像してみて、もしも自分の周りの人がいなかったらどんな未来になってたか。」
破壊願望、壊したい思い。
周りの人は、母しかいない。
母のいない未来。
例えば、僕が父親に引き取られていたら、幸せに、普通に、目的を持って日々を送れていたかもしれない。
どちらもいなかったなら、孤児院で高校までの勉強をして、就職もできる明るい未来があったかもしれない。
現実は中学すらも行けていない、無職で税金を食いつぶす社会権を濫用するだけの人間。
母がいなければ、親権を取っていなければこんなことにはならなかった……
これがどうにもならない嘆きであると、責任転嫁であることを知っているのに。
努力しなかったのは自分なのに。
僕はきっと、一押ししてくれる人を待っていたのだろう。
結論を出す。
僕は悪くない。
母が悪い。
その時、ユウさんについていくだけのはずだった僕に、世界を壊す理由が生まれる。
「じゃあ同盟成立だ。
私の親もキミの親も、二人で協力して壊す。
いいね。」
僕は首を縦に振った。
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