第2話

 勿論キミと言うのは僕のことを指しているのだろうが、その言葉が何を意味するのかは、現段階では見当のしようもない。

 しかし、深夜のコンビニに佇む女子とか、どう見積もっても怪しいのに、僕は不思議とその声に惹かれた。

「えっと、その、どうしたんですか?

 話は聞きますけど」

 普段の僕ならきっとそそくさと逃げ出していただろうが、僕は彼女の問いに二つ、理由を持って遠ざけることのない返事をした。

 一つ目は端麗な、彼女に近づきたいという、余り純でないもの。

 二つ目は学校にも行けない、母に縛られる生活から抜け出したいというもの。

 要するに、彼女の話なんてどうでもよくて、自分の利益のために聞いている。

 もちろん、こんなことを考えていると感づかれないよう取り繕った表情で答えていた。


「立ち話も何だし、中で話さない?」

 彼女と一緒にコンビニに入ると、「彼女がいるのか?あのアル中の息子が?」と(後半部分はあくまで推測だが)怪訝そうな顔で、店員のおじさんが僕たちの方を見てきたが、これもまた、深入りはしないのか、すぐにいつもの顔に戻る。

 彼女の身長は、僕自身、長らく身長を測っていないのでいまいち分からないが、僕の鎖骨部分くらいだろうか。

 顔に見とれてよく見なかった服装は、自分のスタイルを晒したくないのか、死に装束のように真っ白な、ブカブカのパーカーにこれまた真っ白な、ロングスカートを履いていた。

 ちなみにはなるが、僕は正反対の上下喪服のような黒の服を着ていた。


 僕がそんなことを考えているうちに、前を行く彼女は、髪をなびかせながらくるりと振り向き、口を開く。

「私の奢りでいいから」

 僕が貧乏だということが、汚れたロンTを着ているからか、あるいはかなりの痩せ型だからわかったのだろうか。

 断っておくべきかとも思ったが、そんなことを考えているうちに彼女はとっくにお菓子コーナーに移動していた。

 奢ってもらえるとはいえ、僕に商品の選択権はないようで、ぽいぽいと次々にものを入れていったカゴの中には、酒呑みが肴にしていそうな、さきいかとかカルパスとかジャーキーとか茎わかめとか。

 まあ、流石に商品の指定は厚かましいと思ったので、そもそもする気などなかったが。

 とにかく、その美貌からは想像もつかないようなラインナップ。

 だがしかし、人の内面は外見では想像できないと言う言葉もある以上、僕が先入観にとらわれていたことも明らかだった。


 レジを通し、十パーセントの消費税と一緒に払ったあと、イートインスペースの席につく。

 彼女は僕の左の席についた。

 早速、彼女はカルパスを開けたのだが、「うげぇ、濃すぎ」と、渋い顔でつぶやくと、「もう残りはあげる」と言った。

 好きだから買った訳ではないのかと思いつつ、僕の良心が問いかけた。

「良いんですか?

 僕、お金持ってないですけど」

「だから、奢りだって言ってるじゃん。

 使う機会ないのに、金だけは持ってるからいいんだよ。

 ああ、別にこんなので懐柔させようとしてるわけじゃあないから」

「お言葉に甘えて」


 僕はそれを口に運ぶ。

「なんだこれ。

 こんな濃いものは初めて食べたな。

 ……うまい」

 恐らく、大半の人にとっては安価なものだろうし、一度は口にしたこともあるのだろう。

 しかし、貧乏で金のない、薄味が基本の僕にとっては一瞬、隣に女子がいることすら忘れてしまうほど、衝撃的なものだった。

「そこまで喜んで貰えると、買って良かったなと思うよ」

 彼女は天使のように微笑みながら呟くと、さきイカの袋を開けて、つまみだす。

 これは自分用のようで、彼女自身で食べ進めていた。


 「ところで話は変わるけど、付いてきてくれたということは、その話をして良いってことかな?」

 その話は勿論、世界を壊すことだろう。

 さきイカの袋を空っぽにした後、コンビニ内のゴミ箱に捨て、席に戻りながら彼女は本題に入ろうとする。

 僕としては彼女についていくことが出来たら、母から逃げられたら内容など別にどうでも良いのだが、勿論と言わんばかりに僕は首を縦に振った。

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