壁を打ち破る

 あれから彼女が男の連れ込む事は無くなった。

 当然だろう。彼女と僕の付き合いは長い。僕と慣れ親しんだ彼女にとって、僕以上の男は居ないはず。この間の男も、壁を乗り越えたのではなく、僕と言う壁にぶつかったのだ。うん、上手い。


 けれど、ある日……ガチャッと開いた扉から、また彼女以外の声が聞こえてきた。まさかと思い、正しく壁越しに僕は耳を澄ませる。するとキャッキャッと楽しそうにする女性二人分の声が聞こえてきた。勿論一つは彼女だから、もう片方は彼女が連れてきた女性と言う事になる。何だ、友達を連れてきただけかとホッとする。でもそれなら、僕も挨拶をした方が良くないだろうか?


 彼女と友達の話を聞くのは少し忍びないが、楽しそうに話す彼女の声は悪くない。久し振りに聞いたと思う。早く僕をこの壁から出してくれれば、ああやって話せるはずなのに。


 とか思っていると、雲行きがおかしくなる。

 フフフと楽しく、少し怪しい笑い声。キャッキャッとしているはずだけど、何だか妙な雰囲気を感じる。


「止めてったら」

「え~? 何で?」


 何だろう……聞いてはいけないような会話。女子校的な乗り? これが女の花園なのか? 何となく、イチャイチャしているように感じる。

 彼女と友達との距離がこんなに近いとは思わなかった。それとも、どちらかの距離感が単に近いだけのだろうか。正直ガールズラブ的なものを彷彿させる。僕は決してあれが嫌いではないから、ついドキドキしてしまう。勿論、あくまで妄想としてだけど。


「ねぇ……」

「……うん」


 何やら彼女と彼女の友達がヒソヒソと話をする。人が居ない家の中でまでヒソヒソ話とは、可愛らしいじゃないか。


「本当なら、その壁を打ち破って」

「良いよ。打ち破るって言うより、ぶち壊す感じで良い?」


――え?


 ギュイイイイイイイイインと、耳を劈く音が突然響き渡る。

 こんな時間に、そんな大きな音を立てたならご近所さんに絶対迷惑だ! いや、そもそも今何時だ?


「破片飛んだら危ないから、先輩は離れていて」

「うん」


――え? え??


 聞こえてくる音は、よくテレビで木を伐るとか、氷の彫刻で使うアレ……チェーンソーに似ている気がする。


 と言うか、コレ、絶対チェーンソーの音、


 ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!! 

 これ!! 

 何か段々と近付いてき




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