壁に耳あり障子に目あり②

 ガゴッと、これまでとは違う音がすると、急に振動も音も止んだ。

 それと同時に、ずっと暗かった右瞼に、光の様なものが差し込んできた。


「あ」


 彼女の声が聞こえる。くぐもった感じはするが、これまでより外の音が聞き易い。何より、目蓋の上の圧迫感が無くなっている。今なら目を開けられる気がした。

 すぐに目を開けようとしたが、その時、丁度目蓋の辺りを柔らかいものがパタパタと軽く叩いてきた。この感触は彼女の指だと分かる。


 指で触られる感覚が無くなって、今度こそと目を開ける。

 彼女と目が合った。

 そうか、とうとう僕を壁から出す気になったのか。やっと外へ出られるぞ! 何だかんだ、やっぱり壁の中に埋められたままなのは辛いから、外で自由に動きたい! そのためなら仕事だって、正直面倒臭い彼女の両親への挨拶も頑張ってみせる!


「……」


 だが彼女はそこで動きを止める。もしや、僕を壁から出すのではなく、ただ単に様子を見たくて穴をあけただけなのだろうか?

 だとしたら、これでは壁に目ありだ。本来は、壁に耳あり障子に目ありのはずなのに。壁に目が埋まっているとは、なかなかホラーな光景だと思うが、どうだろう。彼女はそれで良いのだろうか。


「間違えた。目だった」


 彼女はまたセメントらしきもので、僕の目元にあいた穴を塞いだ。どうやら目を出したかった訳では無いらしい。

 やがて僕の目元のセメントが固まった頃、もう少し隣の場所に彼女は再び穴をあけた。なるほど。これが本当の壁に耳ありか。お陰で更に、外の音が拾い易くなった。

 でも耳だけが壁から出ているのは嫌だったようで、スポンジのような柔らかいものが、その壁の穴には詰められた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る