壁に耳あり障子に目あり①
壁に耳あり障子に目ありとは言ったものだが、耳は付いていても、壁に埋まっていては外の音は聞こえにくい。何度も言っているが、物音しか聞こえない。
とうとう彼女も物寂しくなってきたのか、時折コンコンと壁を叩くようになってきた。あと、ゴンッと鈍い音も下の方からたまに響いてきた。位置的に彼女の足が壁にぶつかったのだろうが、彼女が僕を蹴るはずは無い。恐らくは足を誤ってぶつけたに違いない。可哀想に。壁に足を、それこれ小指をぶつけた時は相当痛いよね。うんうん。
コンコン、コンコン。
今日もまた、彼女は僕に合図を送ってくる。けれど残念ながら、僕にモールス信号の知識は無い。彼女は僕に何かを伝えたいのだろうが、僕には伝わってこない。いっそ僕を外に出した方が早いと思うが、仕事に行くのも億劫なので、僕はこのままでも段々構わない気がしてきた。
突然、ガガガガガッと凄まじい音がして、酷い振動が壁全面に広がる。
しかもその音源と言うか、振動の発信元が僕の顔の近く。一体何をしているのか。この部屋には彼女しか入れないのだから、犯人は彼女だと思うが、またガガガガガガガガガガッと凄く響いてくる。
その音も振動も、徐々に強くなっていく。そして、更に近付いてくる。と言う事は、つまり……壁の表面から深くなっている?
彼女は何をしている! ドリルで壁を掘っているのか!? 僕の顔を貫いたら、どうするつもりなんだ!!
顔に穴があく恐怖を感じて、元から閉じたままになっている目蓋にも力が入る。ぎゅっと強く目を閉じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます