壁に耳あり障子に目あり①

 壁に耳あり障子に目ありとは言ったものだが、耳は付いていても、壁に埋まっていては外の音は聞こえにくい。何度も言っているが、物音しか聞こえない。

 とうとう彼女も物寂しくなってきたのか、時折コンコンと壁を叩くようになってきた。あと、ゴンッと鈍い音も下の方からたまに響いてきた。位置的に彼女の足が壁にぶつかったのだろうが、彼女が僕を蹴るはずは無い。恐らくは足を誤ってぶつけたに違いない。可哀想に。壁に足を、それこれ小指をぶつけた時は相当痛いよね。うんうん。


 コンコン、コンコン。

 今日もまた、彼女は僕に合図を送ってくる。けれど残念ながら、僕にモールス信号の知識は無い。彼女は僕に何かを伝えたいのだろうが、僕には伝わってこない。いっそ僕を外に出した方が早いと思うが、仕事に行くのも億劫なので、僕はこのままでも段々構わない気がしてきた。


 突然、ガガガガガッと凄まじい音がして、酷い振動が壁全面に広がる。

 しかもその音源と言うか、振動の発信元が僕の顔の近く。一体何をしているのか。この部屋には彼女しか入れないのだから、犯人は彼女だと思うが、またガガガガガガガガガガッと凄く響いてくる。

 その音も振動も、徐々に強くなっていく。そして、更に近付いてくる。と言う事は、つまり……壁の表面から深くなっている? 

 彼女は何をしている! ドリルで壁を掘っているのか!? 僕の顔を貫いたら、どうするつもりなんだ!!


 顔に穴があく恐怖を感じて、元から閉じたままになっている目蓋にも力が入る。ぎゅっと強く目を閉じる。

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