壁を作る③
いつ見捨てられるのかとドキドキしてしまうが、彼女はやはり僕にご飯を食べさせる。世話をしてくれる。健気に毎日毎日。
最近になって気付いたが、彼女はこちらに向かって何か話し掛けているようだ。ブツブツとしか聞こえないから、具体的な内容は分からないが。
でも彼女が僕の面倒を見て、話し掛けくれると言う事は、彼女は僕を殺すつもりは無いのかもしれない。ただ僕に改心して、将来を具体的に見捨てて、親にもちゃんと結婚の挨拶をして欲しいのかもしれない。分かった。彼女がそこまで切実だったとは知らなかった。ここを出たら、僕も今度はちゃんと考えようと思う。
だと言うのに、彼女は未だに僕を出してくれない。僕の気持ちがこんなに変わった事を彼女は知らないからだ。僕の顔まで壁に埋めてしまったのが彼女のミスだと思う。せめて口だけでも空間があいていたら、彼女と言葉を交わす事が出来たのに。
時間の感覚が分からないまま、僕は壁になった日々を変わらず送っている。
そうしているうちに、新しい考えが過る。
今の生活は、慣れたら案外快適かもしれない。人間の適応力とは凄いもので、落ち着いてくると冷静になり、違う方向から物事を捉えられるようになる。
今の状態は体も動かせないし、確かに自由は言えない。けれど仕事はしなくて良いし、それでもご飯の三食に有りつける。風呂に入れないのは不衛生だとは思うけれど、正直風呂に入るのが面倒臭い時もある。そう考えれば、どうせ誰にも顔を合わせる訳でも無いし、多少汚くても臭くても良いんじゃないだろうか。
仕事しなくて良いし、トイレに行かなくても良い。本当はゲームなんか出来たら、もっと嬉しいんだけど、それは流石に高望み過ぎるだろう。幾ら僕でも、そこまで調子の良い事は望まない。
と言う事で、この生活も考え方と慣れによっては、そこまで悪くない気が最近してきた。やはり彼女は、僕の事をよく分かっている。
今日のご飯はほうれん草が入ったペースト。出来たら肉が食べたいな。
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