優しい彼氏と子宮の話

アサキ

あれは内膜が剥がれるせい

 私の彼氏は優しい。

「体調、大丈夫?」

 女特有の月のもの。あれでどうしても体調が左右されてしまうが、そういう所にも気を配ってくれる。

 男の人は基本、そういった類には鈍感だと思っている。男の体では経験しないから分からないだろうし、仕方無い。代わりに女の私達には、タマを蹴られた悶絶する痛みは分からないから。

 これまでの彼氏では、あれで体調が悪い時に喧嘩になった事もある。けれど今回の彼氏は違う。よく気を遣ってくれて、苛つき易い時期にもイラっとする事が無い。


 付き合いが長くなってくると、更に気配りが細かくなる。

「そろそろ排卵日?」

 些細な変化にも気付いてくれる。若干気持ち悪いと感じる時もあるけれど、それを上回る配慮。私がこれまで、こんなに気を遣ってくれる人に出会ってこなかっただけかもしれないと思い直す。温かい飲み物をくれたり、ブランケットをくれたり、お腹や腰をさすさすと擦ってくれる手使いは優しい。


「生理、遅れてる?」

 体調やストレスで、そういう時もある。私のリズムはおおよそ規則正しくて、時期は比較的読み易いけれど、どうしてもそういう場合がある。それでも彼は怒らない。出掛ける日程をずらしてくれるし、私を心配してか「ナプキン持ってる?」と荷物の確認までしてくれる。


 正直やっぱり、時に気持ち悪い。

 でも、それを上回る優しさ。無神経や無頓着な人に較べたら、これ位の人と一緒に居る方がストレスが少ない。それに、ここまで私の事を考えてくれているなら浮気の心配も無い。事実、彼には女の気配を一切感じない。多少重くても、一途に居てくれる方か嬉しい。


「今月、順調?」

 付き合いも長くなってきて、そろそろ結婚も考える頃合い。彼は子供が好きだと話していたから、きっと将来は子供が欲しいはず。この前も出掛けた先の公園で、ボールを誤って転がしてきた子にも優しく、嬉しそうに接していた。迎えに来た母親に会釈する姿も紳士的で、益々素敵な人だと思う。彼との家庭を想像してしまう。



――そう思っていたのに。


 自分のお腹が切り開かれる光景を、私は机の上からぼうっと眺める。

 頭だけになった今、痛みはもう感じないが、決して良い気持ちはしない。


「子宮内膜は、生理前が一番厚いからね。流してしまうなんて勿体無いけれど、女性の体はそういうリズムを持ってしまっているから仕方無いよね。でも僕は、肉厚で、血生臭いから、この時期が一番美味しくて好きなんだよね」


 なるほどと納得。彼が生理周期を気にしていたのは、それが理由だったのか。別に結婚とか子供ではなく、ただ自分のため。上手い事、騙されてしまったと思う。良い人悪い人を一発で区別する方法があったら、誰か私に教えて欲しい。


 きっと彼はこれからも、美味しい子宮を探して、新しい彼女を作るのだろう。きっとその子は、彼から一途に愛される違いない。その瞬間は羨ましい。少し前の私なら、嫉妬してしまう。


「熟したお肉は、もっと美味しいのかな。一度お子さんを出産されていると、また違ったおもむきが出るのだろうか」


 なるほど。彼があの時、見ていたのは、子供ではなく母親の方だったのか。


 それなら彼は、次は年上キラーになるのかもしれない。でもお母さんが居なくなると子供が困ってしまうから、その辺りはちゃんと配慮するか、フォローして欲しい。



 ひとまず、彼が子宮以外の肉をどうするのか不思議だが、私がそこまでを見届けるのは難しいそうだ。


 どうか次に彼に引っ掛かった人には、その辺りまで確かめて欲しい。あの口調だと、恐らく私が初めてではないから。出来たら過去に何人引っ掛けて、どうやって片付けてきてきたのかも聞いて欲しい。出来る事なら、彼より一枚上手で、やり返せる女性が現れる事を願っている。


 取り敢えず、いやに優しい人には気を付けてください。でもこれは、もしかしたら男女関係無いかもしれないね。

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