「病む病む病む〜」が口癖の奥様。年齢を考えてくれ。

MiYu

第1話 円満?な夫婦関係

「ねぇ、私がどうして怒っているのか分かってるの?」

「…いえ」

「私の事嫌いになった…?」

「…愛してます」

「じゃあどうして、私じゃない女と喋ってたの?」

「女って…。母さんじゃん…」


美月燐みつきりん24歳。

専業主夫として家に尽くす。一般男性。

奥さんを支えるため、家事全般を担っている。。

そんな俺は、今正座をしている。

菜切包丁を持った奥さんを前にしてだ…。


「そんな言い訳を聞きたいんじゃないの」

「事実なんだけど…」

「あなた、私に誓ってくれたよね?。幸せにするって」

「誓ったな」

「なのに私なんか放っておいて、女とチャットでやり取りなんて」

「だからその女って母さんなんだけど…」


美月紗夜みつきさや24歳。

小説家兼漫画家として働く、一般女性。

ベストセラーを何作も生み出す作家だ。

彼女の書く小説は、主に恋愛ものが多い。

家で執筆をし、たまに打ち合わせで出版社にて会議をするが、基本的に自宅にて働いている。


「じゃあ証明して」

「…何を?」

「私を愛していることを」

「どうやって?」

「あなたの心臓をちょうだい」

「怖っ!!」


菜切包丁の先端を俺の左胸に押し当てる。

菜切包丁の先端は尖ってないため、刺さることはないのだが、それでも恐怖心はある。


「あなたの血肉美味しそう…」

「不味いと思うけど…?」

「ねぇ、私の一部になってよ」

「嫌なんだけど」

「私のこと嫌いなんだ」

「そうは言ってないけど」

「私の事好きなら、喜んで心臓を差し出せるよね?」

「話聞いて?」

「あー!!もうっ!!病む病む病む!!」


そもそもどうしてこうなったか、振り返ってみよう。




数分前…。


(ピコン)

俺のスマホから通知音が鳴る。

誰からかメッセージが来たため確認すると、画面には母さんの名前が映し出された。


『見て!!このキャラが当たった!!』


そのメッセージと共に一枚の写真が送られてきた。

そこには、母さんが暇な時にやっているゲームのスクリーンショットであろう画像だった。

母さんは、課金をすることは滅多にないがログインボーナスによって配布される石を貯めてガチャを回している。

そんな頑張って貯めた石を使ってガチャを回した結果、期間限定キャラが当たったようだ。


『このキャラ凄いんだから!!警察官でありながら、コスプレが大好きでよくコスプレのイベントに出てるって設定なの!!ドS王子系のコスプレをして、かっこよくない!?』


「ああ、そう…」


これが率直な感想だった。


「なんか適当に返しておくか」


俺は、返信をしようと思い、文章を考える。


『かっこいいな』


結局、大した感想も思い浮かばず、この程度の内容になった。

それから、何度かチャットで会話をする。


「燐、誰と連絡とってるの?」

「ふぇっ!?」


いつの間にか、俺の背後に紗夜が包丁を握りしめて立って居た。


「もしかして女?」

「母さんだけど」

「浮気してたんでしょ」

「実の母さんなんだけど」

「そういう態度取るんだ」


そこからは冒頭に戻る。

やましい事が何もないのに、正座をさせられているのだ。

まあ日常茶飯事みたいなとこはある。

紗夜と俺は、幼稚園以来の幼馴染だ。

幼馴染は負けヒロインとはよく言ったものだ。

うちのヒロインは、諦めという言葉を知らない。

幼稚園の時に交わした約束を守り守らせるような奴だ。


『燐君、私と結婚しよ』


この言葉を言われたのは5歳の時だ。

そして、その言葉を紗夜から伝えられ、俺は…。


『いいよ』


承諾してしまった。

この時の俺は、別に何とも思っていなかった。

というか、正直忘れつつあった。

しかし、彼女は俺を手放さない。

嫌って言うほど知ってる。


小学生の時。

『燐、キスしよ』


中学生の時。

『燐、セックスしよ』


高校生の時。

『家族で済むなら、部屋はどんな間取りが良い?』


大学生の時。

『首輪は何色が良い?』


大学を卒業する時には、紗夜を支える専業主夫となった。

それも紗夜がお願いこと脅しによるものだった。

紗夜が小説家になったのは、俺たちが高校生の時だ。

俺と紗夜は、高校生の時に二人で同居していた。

俺と紗夜の両親が許可してしまったため、実現してしまったのだが、その時に紗夜は、一つの小説を執筆し、それが爆発的に売れた。

そのタイトルが『大好きな彼を監禁してみた♡~大好きな彼の観察日記~』

その小説が売れた後、自分で絵も書くようになり、コミカライズ版としても売れた。


「燐」

「はい」

「そろそろ子ども欲しい」

「そうか」

「今日はゆっくり休んでて良いよ」

「ん?話があまり見えてこないんだけど」

「寝てる時にしちゃうから」

「お前はそれで良いのか?」

「んーまあ良いかな」

「おい」

「だって抵抗するじゃん」

「それは、お前が俺を拘束するからだろ。誰だって手錠に足枷にアイマスクなんて持ってこられたら抵抗するわ」


俺だって紗夜が子供が欲しいというのなら、俺だって考えるし、育てるとなれば責任を持って育てる。

そんなこと当たり前だ。

しかし、俺が寝ている時にやったり、子作りがアブノーマルなものであってたまるか。

俺はノーマルだ。


「というか、そろそろ包丁を置いてくれない?怖いんだけど」

「嫌だけど」

「即答かよ」

「うん」

「それはまたどうして?」

「なんか楽しいから」

「俺は楽しくないぞ」

「燐のその呆れているような顔がたまらないの」

「変わってるな」

「燐に変えられたんだよ」

「そうですか…」

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「病む病む病む〜」が口癖の奥様。年齢を考えてくれ。 MiYu @MiYu517

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