第14話 開花
今日も素振りをする。この瞬間が1番集中できるから。
今日は目を開いている。視界に広がる薄暗い朝の静寂の世界は時間が遅く進んでいるような錯覚を生む。
違う
俺はもう一度構えなおすと素振りをもう一度始める。
これで何度目なのだろう。でも、確かに近づいている気がする。
ダンチの書いた本を読んでみたのだが正直役には立たなかった。1つ1つの書いてあることが違いすぎるのだ。
まあ感覚に依存する物だから仕方がないのだろう。でも大きく分けて2つの種類に分けられることがわかった。
1つは戦いの中で感覚を掴むパターン。
もう1つは全く関係のない物から感覚を掴むパターンだ。
俺は勝手に前者だと思っていた。
「試合を申し込む」
俺はキシカに1対1での試合を申し込んだ。
周りの兵士達は驚き隠せないようだ。当たり前だ。俺がキシカに惨敗してから1日しか経っていないのだから。
「いいだろう」
試合は昔の物ごとを一騎打ちで決めていた名残で今も使われている。
トーナメント同様好きな武器を使うことができる。
昔は勝った方が負けた方に好きに命令を出せたらしいが今では鍛錬の機会となった。
申し込まれた側は拒否することができる
て戦いは兵士全員で見守るしきたりだ。
正直、俺自身再戦するには少し早い気がしなくもない。でも善は急げだ。
俺は黒色の木刀を構えた。
黒光りする木刀の奥でキシカは盾と剣を構えてこちらをみている。
他の兵士達は俺たちの周りを囲み、開始の合図を今か今かと待っている。
審判を務める兵士が出てきた。一気に空気が張り詰める。
「試合開始」
俺は合図と同時に思いっきり踏み込んだ。キシカはそれを盾で受ける。
その構図はこの前の戦いと全くもって一緒だった。違ったのは俺の一撃はいなされることなくキシカを吹っ飛ばしたことだけだ。
そもそも、キシカが使っている技の対策はとっくにできていた。当たり前だ。キシカの試合だって何度も見る機会はあったし、同じ技を使う人間が近くにたくさんいたのだ。分析し放題だ。
あの技は
その波によって相手の攻撃の軌道を変えているのだ。いわば受け流すことに特化した守りの技。それが
この技の弱点は波を発生させているところ。そこを攻撃すれば受け流されることはない。実際キシカ以外の兵士にはこの弱点を突いて勝っていた。
キシカはそう上手くいかない。
そもそも盾の扱いが上手いので、攻撃は盾で受け止められてしまう。だから
さらに波を出すところをコロコロ変えていると考えられる。前回はおそらくそのせいで負けた。
そのため
キシカは吹っ飛ばされていても次の攻撃に備えていた。
追撃をしようと急いで距離を詰めたがすでに防御体制をとっていた。
カウンターは準備ができていない。チャンスだ。俺は剣を持っている方の手を狙って木刀を振った。
すかさず盾が動いて手を隠す。同時に波の発生源も移動する。
俺は振り下ろしていた手を捻る。
スピードを落とすことなく剣筋は急激に曲がった。木刀はきちんと発生源を捉えた。
他の兵士なら間違いなく倒れただろう。しかし、流石は団長。キシカも盾を同じ方向に動かすことで勢いを逃して踏みとどまる。
でも確かに体勢は崩れた。俺は手を緩めない。距離は取らせない。
ひたすらに弱点を狙って振り下ろす。キシカは剣と盾を使って守ることしかできていない。
一瞬攻撃が遅れてしまった。疲れたわけではない。キシカが隙を見せたからだ。
明らかな罠だったが勝利を決定づける一撃を求めている俺の思考は一瞬引き付けられたのだ。
キシカはこの一瞬を見逃さない。
先程まで勢いを逃すために後ろに後ろにと動いていたのに一瞬で盾を構えて俺の方に突っ込んでくる。
攻撃をするために前のめりになっていたので避けることはできない。
咄嗟に間に木刀を入れて衝撃を和らげた。だがかなり痛い。
キシカはすかさず剣を振る。
剣は
波を持ち手の部分から発生させれば弱点を突かれることもない。さらに
ならば受けなければいいこと。
深く沈み込んで攻撃をかわした。体勢が低すぎて攻撃はできない、普通なら。
体勢を崩したところからの攻撃は俺の十八番だ。
沈み込んだ勢いのまま回転する。遠心力を使うことで威力を補う。
これまでなら弱点を突くことはできず不発に終わっただろう。
でも今の俺には
この一撃はキシカを盾ごと吹っ飛ばし、俺はキシカに初黒星をつけることとなった。
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