第9話 呼び出し

 あれから何日かたった。


 最近はすっかり兵士団の人とも仲良くなって一緒に食事をしに行ったりもする。


 その一方であの技を破る手がかりはいまだに見つけられていない。


 師匠がくれたアドバイスを考えると俺は索敵サーチを身につけなければならない。


 エレを知覚すること。それが俺の早急に行わなければならない課題だった。


 今日も素振りをする。素振りをするこの瞬間が1番集中することができた。


 目を閉じてみる。


 確かにエレを感じることができた。当たり前だが戦いの最中に目を瞑ることはできない。


 キシカを破るには俺はさらに上の段階の索敵サーチを習得しなければならない。


 俺の索敵サーチは誰かが近づいてきているのに気がついた。


「今日もご苦労様です」


 キシカだった。


 俺は素振りをやめて目を開く。


 キシカは兵士団の団長の鎧を着ていた。心なしかいつもよりも綺麗に磨かれている気がする。


「そろそろ準備したほうがいいんじゃないんですか?」


 昨日、俺は師匠に昼は空けておくように言われた。おそらくそのことだろう。まだ昼までにはまだ時間がある。


「まだ時間があるからいいだろ」


「もしかしてその格好で行くつもりなの⁈」


「まあそうだな」


 キシカの想像以上の反応に驚いた。今俺は通気性のいい麻の服を着ている。いつも鍛錬の時に着ているものだ。


確かに見栄えが良くないのは事実だが、師匠も慣れているだろう。


「もしかして何も聞いてないの?」


「なんのことだ?」


「あなた達は今日、女王様から呼び出されているのよ」


「初めて聞いた」


 確か師匠とセイカが何かそのような話をしていたような気がする。でも今日だなんて知らなかった。


「早く準備しようよ」


「でもそんな場に着ていく服なんて持ってない」

 

「持っている中で一番いい服を着てくればいいと思うよ。女王様に敬意を払っていることが伝わればいいから」


「わかった」


「あ、そうそう」


「ん?」


「シャワー浴びるの忘れないでよ」


 シキカはそう釘を刺すと準備があるからとどこかに行ってしまった。


 シキカが去った後、俺は急いで準備を始めた。


 シキカの言う通り汗を洗い流し、持っている中で一番使っていない綺麗な服を着た。


 俺が諸々の準備を済ませて師匠との待ち合わせ場所に着いたのは約束の時間よりも少し後だった。


「遅いぞ」


「ごめん。て言うかなんで女王様に呼び出されたって言ってくれなかったんだ?」


「いいだろ、伝えなくても。なんも気にする必要ないだろ」


 実際、師匠はいつもと変わらない格好をしている。所々ほつれたり、汚れたりしているのが目についた。


「でも女王様の前だぞ?大丈夫なのか?」


「なんら問題ない。それよりお前こういう場は初めてだろ?」


「ああ」


「度肝抜かれるなよ」


 師匠がにヤリと笑った。何かを企んでいる時の顔だ。


「そんなわけないだろ」


「だといいんだけどな」


 師匠は意味ありげにそう言った。どういう意味か聞こうとしたが案内役がやってきてしまったので聞けない。


 師匠は移動している間もずっとニヤニヤしていた。


 まあいい。俺がどんなことが起きても驚かなければいいのだ。


 師匠にぎゃふんと言わせるチャンスを逃しはしない。



「な?言っただろ」


 師匠俺の様子を見て嬉しそうだった。


 そんなことがどうでもよくなるくらいには驚いた。意気込んでいたのが恥ずかしい。


「どういうことなんだ」


「そのまんまの意味だぞ?セイカはこの国の女王様だ」


 そう。俺が度肝を抜かれたのは建物が素晴らしかったからでも多くの役人らしき人達に囲まれたからでもない。


 セイカが女王様の席に座っていたからだ。驚きすぎて他のことは何も覚えていない。


「でも、キシカが元々兵士団の団長だったって」


「そうだ。あいつはそもそも王様の娘、まあつまりお姫様だったんだがな」


 師匠は体をほぐしながら話を続ける。師匠には堅苦しかったのだろう。


「腕を買われて騎士様として選抜されて、そのまま兵士団団長を務めた変わり者の女王様だってことだ」


 俺はまだ頭が追いつかなかった。なら俺はかなり無礼なことをしていたのではないか?


 それにシキカだって、、、


「そんなことより」


 師匠は浮ついていた俺の背中を思いっきり叩いた。あまりの痛さに悶える。


 身体能力強化ブーストでも使っているんじゃないか?

 

「アイツが余計なことを書いたせいで面倒くさいなった。お前もさっさとあいつの孫をぶっ飛ばせ」


 驚きすぎてセイカが何を言っていたのかは覚えていない。


 おそらくこの前セイカが師匠に言っていた依頼についてのことだろう。


 あの時は冗談だと俺も思っていた。一塊の元兵士団団長にそんなことができるわけがないのだから。


 しかし、セイカが一国の王ならば別だ。現実味が帯びてくる。どちらにしろ職権濫用なのには変わりないのだが。


 



 今日は兵士団の訓練には参加しなかった。


 色々なことが起きすぎて頭が追いつかなかったので部屋で索敵サーチの練習をすることにした。


 あの後キシカに会ったので依頼についてきいてみた。


 内容としては魔王領の立ち入り調査、その過程で各5カ国からの立ち入りの承認を貰う事と各国の代表に俺が認めて貰うことだった。


「かなり大変だよ、これ」


 キシカは苦笑いを浮かべていた。


 各国の代表として選ばれるのはキシカのように昔話に出てくる騎士様と深い関わりを持つ者らしい。


 そして、彼らは総じて強く、クセ者。


 シキカも一部の人には会ったことがあるらしいが変わり者だったようだ。


 集中力が乱れる。先ほどまではっきり見えていたエレの流れが崩れた。


 俺は水でも飲もうかと立ち上がる。そこで気がついた。


 ほんのりとエレの流れがまだ見えているのだ。もちろん目は開いている。


 エレはぼんやりと見えていたが少しして消えた。


 ほんのわずかな時間だけだが、目を開けた状態で索敵サーチを使うことができたのだ。


 これなら、戦っている中で使えるかもしれない。


 キシカの背中がやっと見えてきた気がした。

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