第8話 鍛錬 with 兵士団

「襲撃想定訓練開始」


 キシカの号令が響いた。


 盾と剣を手に持った兵士達が目の前で陣形を展開する。


 統率の取れたその動きは日頃からの鍛錬の成果だろう。


「持っているものを捨てなさい」


 もちろん言うことを聞くわけがない。俺は腰に差していた木刀を構えた。


「降伏命令拒否。制圧準備」


 キシカが手を挙げるのに合わせて数人を残して兵士達が俺を取り囲む。その手には盾が構えられている。


 その動きは一切乱れず、隙がなかった。普通の盗賊ぐらいならこれを見ただけで降伏したくなるだろう。


「攻撃用意」


 兵士達が剣を構えて臨戦体勢を取る。どの兵士達からも覇気を感じる。簡単には倒せないだろう。


「始め」


 キシカの声に合わせて兵士達は一斉に飛びかかってきた。


 よく見ると兵士の半分は残って包囲陣を残している。本当によく統率が取れている。


 今俺は兵士団の鍛錬に混ざってキシカに勝つための糸口を探している。


 あの技術について調べていてわかったことがいくつかある。

 

 まず、あの技術は元々は戦士の1人であったセイカが編み出したということだ。


 彼女が編み出した技術を兵士達が受け継ぎこの国を守ることに使われていたのだ。


 そしてもう一つは、、、


 俺は1人の攻撃を躱わして胴に一撃を入れる。

 

 兵士も盾で守ろうとしていたが身体能力強化ブーストを使った俺のスピードにはついてこれない。


 すかさず飛んでくる攻撃をギリギリのところで避ける。


 多対一の状態、しかも統率がきちんと取れている状態だと剣筋を読むことが難しい。


 詰めてくる1人に横薙ぎの一撃を放つ。その一撃は盾によって受け流された。例の技だ。


 キシカほど洗練されてないが兵士の1人1人が例の技を使えるので雑に攻撃をできない。


 兵士は俺の攻撃を受け流しきれず体勢を崩している。


 すかさず俺は突きを放つ。


 兵士はすでに盾を構えていた。俺の突きは盾の中心を捉え兵士は思いっきり吹き飛んだ。


 もう一つの気がついたこと。それはあの技術の弱点。盾の真ん中を攻撃することで封じることができると言うことだ。


 実際に打ち合いをしている中で盾の真ん中を狙うのは至難の業。


 相手がまだ使いこなせていない場合には、どうにか体勢を崩させれば突きなどの早い一撃で狙える。


 でも、キシカには通用しないのが目に見えている。別の策が必要だ。


 俺は1人の剣を払うと相手の下に潜り込んだ。相手の勢いを使って投げ飛ばす。


 投げ飛ばした身体に当たってよろけた兵士にすかさず一撃。盾ではないところに攻撃をすれば何も問題はない。


 相手の数が減れば剣筋は読みやすくなる。だから相手の攻撃は手に取るようにわかった。攻撃を食らう心配は少しもない。


 でも、身体能力強化ブーストが切れるのも時間の問題。セイカを倒すには身体能力強化ブーストは必要不可欠だ。


 身体能力強化ブーストにはまだ余裕がある。俺はギリギリの範囲で身体能力強化ブーストを使用した。


 そもそも使えるエレが少ないのだ。変化は少しだけだろう。でもその少しが欲しかった。


 当人しか感じられないほどのわずかな加速。その加速が取り囲んでいた兵士の隙をついた。


 先程まで取れていた連携は崩れ、咄嗟に判断が遅れた。そうなれば一瞬。取り押さえにかかってきた兵士は全員倒した。

 

 俺には包囲網を作っている兵士達を相手する余裕もない。身体能力強化ブーストを使ったまま包囲網を飛び越えて本陣に切り込んだ。。


「私が出る」


 キシカが一歩前に出る。これ以上兵士の被害を出すよりも自分で対処した方がいいと判断したのだろう。


 飛び越えた勢いのままキシカに切りかかる。


 キシカは盾で受け止めようとして盾を少し上に掲げた。狙い通りだ。


 キシカが盾を少し掲げたことによって生まれた死角。これを生かさない手はない。振り下ろす攻撃はあくまでフェイントだ。


 死角に入ったタイミングで身体をひねり軌道を変える。地面についた瞬間、盾を切り上げた。


 さすがは団長。キシカはわずかに反応して盾を構えなおしていた。


 だが問題のない範囲だ。俺の一撃はちゃんと盾の中心を捉えた。そのはずだった。

 

 俺の木刀は盾の上を滑るように走り盾を弾き飛ばすことはなかった。


 さらにエレ切れ。身体能力強化ブーストも使えない。残った兵士達だけならば問題ないがキシカは崩せない。


 俺は木刀を捨てた。


「確保」


 兵士達によって俺は取り押さえられて訓練が終わった。


 兵士達がかけてくれる労いの言葉はキシカを崩す糸口を見失った衝撃には勝たなかった。


 どうすればいいかわからなかった。







「どうだ、最近の鍛錬は。兵士団の訓練に混ざっているんだろう?」

 

 風呂上がり。火照った体を火が沈み冷え始めた風に晒していると師匠が声をかけてきた。


「ああ。今日は侵入者役をやった。シキカに止められちゃったけど」


「そうか。そんなに強いのか?」


「まあ、そうだな」


 師匠はしばらく黙って考えた後口を開いた。


「エレを使った技術は流れが見えれば破れる」


「え?」


「まあ、がんばれ」


 そう言い残して師匠はどこかへ行ってしまった。


 詳しくはわからなかったが師匠が応援してくれる。それが知ることができただけで満足だった。




「見てたのか」


「まあね。もう少しわかりやすく教えてあげればいいのに」


「俺は教えるのが苦手なんだ」


「あんなに嫌がっていたのにアドバイスをするなんてね。正直以外だったよ」


「早く出発するためだ」


 そう言い残してどこかへ行ってしまった。


「昔はそれでも言わなかったと思うけどね」


 セイカの言葉は誰にも届くことなく夕焼けの赤色に消えていった。


 白髪の老人にも黒髪の青年にも届くことなく。

 



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