第5話 目的地
朝は静かでいい。集中ができるからかよりはっきりとエレが感じ取れる。
最近はずっとエレを感じとる練習をしている。慣れてきたのか最近ではかなりはっきりと感じることができるようになってきた。
「そろそろいくぞ」
「わかってる」
時間がかかってしまうことは改善を急ぐ必要がありそうだ。まだ実践に使えるレベルにはなっていない。横に置いておいた大きなリュックを背負うと師匠の後を追う。
俺たちはオアシスを後にする。特訓漬けの毎日は今日でおしまいだ。日が登っている間はエレを感じる特訓、日が沈めば剣術の特訓。確実に力はついてきている。
「これからどうするんだ?」
「とりあえずモロジェリだ。知り合いのところに行く」
「どんな人なんだ?」
「あえばわかる。まあいい奴だ」
そういう師匠の顔は心なしかほぐれているように感じた。少なくともアインとは正反対の反応だった。
モロジェリはこの国の中で最も大きな都市だ。海から近いこともあり貿易と水産業で栄えている。
「今日中に砂漠を抜けるぞ」
師匠はいきなり走り出した。もちろん
師匠は周りの砂を巻き上げながら走り抜ける。俺も一生懸命それを追うが砂に足を取られて思うようにスピードが出ない。
「もう少しスピードを落としてくれ」
「いやだ。もう砂漠は見飽きたから早く出たいんだ。ちょうど修行になっていいだろう?」
師匠はそう言うとスピードを上げて走っていってしまった。あっという間に小さくなった背中を俺はしばらく見ることはなかった。
オアシスでずっとエレを感じとる練習をしたおかげだろうか。俺はいつのまにか
師匠が見えなくなってから数時間。俺はただひたすら走り続けた。幸い師匠が走った時にできたであろう道のおかげで迷うことはなかったが、かなり辛かった。もし、俺が
俺が初めてモロジェリの姿を確認できた時もう朝日が登り始めていた。夜中に出発していたので軽く3時間は走り続けていた気がする。初めて見るモロジェリは陽光というスポットライトを浴びていてとても綺麗だった。
俺がモロジェリの門まで来た時にはすでに日は頭の上にあった。途中から走ることが困難になる程気温が上がったので時間がかかったのだ。師匠の姿を探しながら門に向かってむかって歩いていると何やら門のところでいざこざが起こっているようだった。
「師匠、何やってるんだ?」
「何やってんだ?じゃねえだろ。こんなに待たせやがって」
師匠は当たり前のように門番2人の攻撃を躱しながら答える。少し不満そうな顔をしている師匠とは裏腹に門番は顔を真っ赤にして怒っているようだった。
「本当に何やったんだよ」
「何も」
「お前、こいつの仲間か?」
「まあ一応」
「なら覚悟しとけよ」
顔を真っ赤にした門番は叫んだ。おそらく彼らに話を聞くことはできないだろう。かといって師匠はちゃんと説明する気もない。わかるのは師匠が何かをやらかしたという事実だけ。
「本当に何したんだよ」
その時明らかに身分が高そうな男と数人の兵士が門から出てきた。それを見ると門番は勝ち誇ったように笑った。
「お前たち終わったな」
「兵士団が来たんだからな。しかも団長も来てる」
「おい、静かにしろ」
ひとりの女の兵士が門番たちを諌める。年齢は同じぐらいだろうか。1人だけ違う色のマントをしていることから考えても彼女が団長なのだろう。
「指揮官も来てくださったんだ。邪魔をするな」
彼女の言う指揮官というのは身なりのいい男のことだろう。50歳ぐらいだろうか。優しそうな目元が特徴的な男だった。男は師匠に話しかけた。
「私は指揮官のダウチと言います。今日はどのような要件でここ、モロジェリまでいらっしゃったのですか?」
「知り合いに用があってな。こいつらに伝言を頼んだら急に襲いかかってきたんだ」
「ふざけるな。この国を侮辱しただけだろ」
ひとりの門番が叫んだが団長が睨んだことで口を閉じた。ダウチは何事もなかったかのように話を続ける。
「そちらの方はお連れですか?」
「ああ、一応こいつに色々と教えてやってるんだ」
俺は急いでローブのフードを取ってお辞儀をした。これ以上無礼を働くわけにはいかない。ただでさえ師匠が無礼を働きまくっているんだから。
「
門番の1人が吐き捨てるように言った。
俺は最近まで森の中で師匠と2人で暮らしていた。だから差別と無縁の生活だった。クロカミに対する差別を知ったのは最近。正直俺は何も傷つかない。でも、聞きたくない言葉だ。
なぜかって?理由は簡単。ブチギレる人が近くにいる。
「そうか」
「やめろ、師匠」
「何もするな」
俺と団長はほぼ同時に叫んだ。師匠はいつのまにか包を解き刀を握っている。兵士団の兵士たちも臨戦体制になっている。
師匠の殺気が刺すようだ。兵士たちも生存本能からか臨戦体制を解くことができない。殺気を向けられた門番達はあまりの恐怖に気を失うことも許されず立ったまま硬直している。
「俺には相手の強さもわからず怒らせちまうお前らの方が劣等種にみえるけどな」
師匠は刀を抜いた。さっきよりも強い殺気が辺りを覆う。殺気を向けられていないはずの俺でさえ何もできない。
「あいつには悪いが仕方ないだろ。さっさと違うとこに行くぞ」
そう言って師匠が刀を振り上げた時、門番の男が吹っ飛んだ。門番は壁に当たって気を失った。
「度重なる無礼、申し訳ありません。しかし、私どものせいであなたを犯罪者にしたくないのです。どうにか怒りを収めていただけませんか」
殴り飛ばしたのはダウチだった。師匠に背を向けて全力で。その行動にこの場にいるすべての人間が度肝を抜かれた。もちろん師匠も。
「武器を納めろ」
団長の一声で硬直が解けて、兵士達は武器をしまい頭を下げる。それをじっと見ていた師匠はいきなり笑った。
「お前、すごいな。あいつが気にいるはずだ」
「恐縮です」
「まあいい。あなたに免じてこいつらを許してやる。きちんと教育しろよ」
「ありがとうございます。もちろんです。もう二度とこんなことはないようにします。」
師匠が刀を収めるともうひとりの門番も糸の切れた人形のように地面にへたれ込んだ。すると、彼の持っていた槍がバラバラになった。それが引き金となり門番は気を失った。余談だがこの2人はしばらく自分の部屋から出れなかったらしい。
俺たちはダウチの案内で兵士団の事務所に通された。入国の手続きやら門でのいざこざがの処理をする間ここで待ってほしいらしい。建物は豪華ではないもののよく掃除が行き届いている素晴らしい建物だった。
「ここでお待ちください。お茶をお持ちします」
そこは応接室だった。軽く
「やってくれたな」
中から聞こえた女の声は凛としていて力強かった。
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