第2話 襲撃
「そろそろ出発しよう、師匠」
前方と後方約500メートル、それぞれ4人ずついるのが見える。街を出た時からずっとつけてきていた。
「そうだな、じゃあ行くか」
師匠は俺の方を見てニヤリと笑う。師匠は焚き火に砂をかけ火を消すとローブを羽織り、包みを背負った。俺も急いで大きなリュックを背負い腰に木刀を刺す。
「まだ手を出すなよ」
「でも逃げられたら面倒くさい」
「あいつらは囮だ。本命はあっち」
師匠が指差した方を注意深く見ると確かに2人が遠くにいるようだ。
人間は体内から生成されるエレというエネルギーを手に入れた。エレを活用することで様々なことができる。
大きく分けて2つの方法がある。1つは眼球の性能を上げるというものだ。俺が基本的に使っているのはこれだ。
ただこれは身体の機能を強化しただけ。視界に入っているものにしか使えない。そのため背後や範囲外のものは見ることができない。
この弱点を補う形で作られられたのがもう一つの方法だ。それはエレをレーダーのように使うというものだ。薄くしたエレを放つことで周りの状況を把握する。
「どこまで行くんだ?」
師匠は何も答えずに何かに取り憑かれたようにひたすらに歩き続ける。もう一度声をかけようとしたその時俺は腰に出した木刀に手をかけた。
「おい、そこの小僧。この爺さんが殺されたくなかったら余計な抵抗はやめろ」
目の前では4人の盗賊らしい男が現れそのうちの1人が師匠に小刀を突きつけている。おそらく先ほどつけてきていた者達だろう。
「俺たちの
男が話しているうちに後ろにも新たに4人現れた。人質を取られての1対8。普通なら勝てないのだが、、、
「おいおい、そんなのでついてこれないとか言ってんのかよ。
師匠だ。ダガーを突きつけられているのに煽っている。
「おい爺さん、俺たちも老人に手ェ上げるのはいい気分しねぇんだ。大人しくしてろ」
リーダーらしき男が師匠に詰め寄る。
「遅すぎてこの老人にも当たらないんじゃんねぇか、ノロマ」
「いい気になってんじゃねえぞ」
リーダーは拳を振り上げた。がその拳が振り下ろされるよりも早く砂埃とともに男が膝から崩れ落ちた。盗賊たちの間に動揺が走る。
また1人倒れた。ダガーを師匠に突きつけていた男だ。
「残りは任せたぞ」
師匠が後ろから声をかけてくる。目の前の2人から目を離すことなく後ろを確認する。後ろにいた4人はすでに伸び切っていた。
「はい」
あぁ師匠がいうのも納得だ。遅い。
「おい、
さっき動いた風圧でローブのフードが外れたのだろう。
「見逃してやるからそこをどけ」
こいつらはもう俺を警戒することはないだろう。俺は
「退けっつってんだろ」
2人の男たちは同時に斬りかかる。その動きは単調で直線的。でも
一瞬でも判断が遅れれば2人がかりでボコボコにされる。1人目のダガーを避けると2人目のダガーを受け止める。ダガーからはバチバチと音を立てながら火花を散らす。
「なんだよそれ」
そんな言葉には気を止めず力を込めて1人を押し返すと後ろから迫っていたもう1人のダガーを弾き返す。この一瞬も気を抜けないやりとりはしばらく続いた。
しかしこの均衡はあっさりと崩れることとなる。動きの鈍った一撃をひらりとかわすと手に持っていたダガーを叩き落とすと勢いそのまま男の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。男は苦しそうな声を上げて倒れ込む。
「調子にのるな」
背後からの
男の渾身の一撃は空を切った。俺はしゃがみ込むと同時に足を払う。
攻撃によって体制を崩していた男は簡単に倒れた。そこに剣を突きつける。勝負は決したのだ。
「お前また
師匠は倒れている男を縄で拘束しながら呆れたように話しかけてきた。先に師匠が倒した6人も縛りあげられている。
「そんなバカなことがあるか。そんなわけないだろ」
「バカはお前だバカ。こいつは
「じゃあどうして渾身の一撃がかわせるんだ」
「こいつはイカれているからな。相手の性格や動きの癖から相手の動きを読みながら命の取り合いをする。俺がいなけりゃ最強の剣士だろうな」
「なら次世代の最強の剣士も始末できるわけだ」
男は大きな笑い声を上げた。背筋を凍らせるような嫌な予感。そしてすぐにその原因がわかった。
夜の闇に包まれた砂漠に光輝いている何かがこちらに向かってきているのだ。
先ほど離れたところにいた盗賊の仲間が打ったのだろう。直径30cmほどの光線で、その速さはかなり速い。だが避けられないほどではない。
「師匠、早く逃げないと」
「そりゃあいいな、お前らが縛り上げた7人と街の人間を見捨てて逃げろよ」
気づかなかった。俺たちが避ければそのまま街にぶつかってしまう。
「汚いぞ」
「なんとでもいえ」
そんな会話をしている間にも
「少し落ち着け」
師匠の落ち着いた声が響いた。師匠はゆっくりと
「師匠、ダメだ」
「こんぐらいなら平気だ。任せとけ」
そう答えた師匠は後ろを振り返りながら笑顔を浮かべていた。
前を向き直ると包を開いた。中から一振りの刀が現れる。包んでいた布を投げ捨て刀を腰に差すとゆっくりと構えた。
その姿はとても美しかった。
「ちょっと取ってくる」
そういうと一瞬でいなくなってしまった。大きな爆発音が聞こえたのはその数秒後だった。
さらにその数秒後師匠は2人の人間を抱えて帰ってきた。その顔には苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。
「へぇ、君がオメンの弟子か」
抱えられている1人の男が俺に向かって話しかけてきた。その男は何か不思議な威圧感を放っていた。
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