第34話 消えない想い

彼女は改めて俺に向き直り、俺の目を直視した。

それは、先程この場から去ろうとした姿とは真逆の強い意思が見て取れた。


「――そうだったんじゃないかって、思ってたんだ」

そんな表情も一瞬で消え去り、俺が知ってる普段の彼女の表情に戻ると少し笑みを浮かべながら話した。


「私も、どうしたらいいかずっとわからなくて――だから、ずっと小林くんと仲良しでいなきゃって思ってた」

「それが、3年前のあの日に私が取った選択の責任だと思ってた」

「――今日も、そう」

「小林くんのお願いだから、叶えたいと思った」

「結婚式行くよって言ってくれたから・・・」

「――そういうことには絶対にならないって信じてたから」

「そのくらいの関係にはなれたと思ってたんだ」

「――でも、違ったんだね」

「私が小林くんのこと、追い込んでたんだね」

「ずっと辛いのに友達でいてくれてたんだね」

「そっかぁ」と言いながら彼女は宙を仰ぎ、数十秒の間黙り込んだ。



・・・。

「小林くんにずっと黙ってたことがあるの」

「5年付き合ってきた彼氏がいること――小林くんにもお話したから知ってるよね?」

「私、その彼のことが大好きなの」

「すごく上手く行ってて、仲良しなんだ」

「愛してる――だから、結婚もする」

「小林くんが言うようにセックスもした」

「彼とはもう何回もセックスしてる」

「昨日もしたし、その3日前か4日前にも、セックスした」


「・・・嘘、だろ?」

それに対して、俺はポロっと口からその一言が漏れた。

自分でそう言いながらも、もう一人の冷静な俺はそんなことは嘘でもなくカップルだったら普通のことなんだということはわかっていた。

思わずそう言ってしまったのは、彼女の口からそれらの単語が発せられたのをあまりに信じたくなかったからだった。


「ううん。嘘じゃないよ?」

「そのくらい、私は今、彼のことが大好き」



「――だから、小林くんの気持ちにはこたえられないんだよ」



そして、彼女は泣いているのか笑っているのか判別つかないような顔をして――


「・・・ごめんね」

最後にそれだけを言い残し、俺の部屋から去っていった。

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