第33話 "好き"の証明

俺と彼女は、お酒も飲みながら鍋を食べた。

鍋は簡単な料理だけれど、自分が作ったご飯を誰かに――好きなヒトに食べてもらうのは幸せなことだった。

でも、俺の好きなヒトは別の人の彼女で、これからまもなく結婚する。

結婚式の招待状を送ってきたということは、おそらく式場の手配やどのくらいの規模の会場にするのかも決まっているのだろう。

そんな状況でも、今日俺と遊んでくれたことやうちにまで来てくれて一緒に鍋をつついてくれたことに純粋に感謝した。

多分、今日が彼女との最後の一日になるだろう。

最後の晩餐と言ったら大袈裟かもしれないけど、表には出さないけれど俺はそのくらい大きな意味があるものだと感じていた。


俺と彼女はそれぞれ鍋を食べ終わり、食器も片さず満腹の幸せをしばらく味わった。

彼女は缶チューハイを1本、俺は缶ビールを2本飲み、彼女はどうかわからないが俺は程々に酔いが回っていた。

――やるならこのタイミングだった。


「あのさ――」


「なーに?」


「もっと、近く行ってもいい?」

俺は、そう言いながら彼女の承諾を得る前にからだを寄せた。

――全部、計画通りだった。


「ちょ、ちょっと、小林くん?」

驚きと動揺を隠せない彼女を無視して、俺は彼女の手を握る。

少し汗ばみ火照った彼女の手を離さまいと指に俺の指を絡ませた。


「小林くん、酔い過ぎだよ・・・!」

俺は、彼女に拒否され、少し勢いがつきすぎてしまっていたことに気付き、心の中で反省した。

俺の中の想いが――封じ込めていた感情が、爆発してしまった。


「・・・最初から、そのつもりだったの?」

彼女は、先程よりも一段と低く冷静な声色で俺に訊ねた。


「・・・好きなんだ。大好きなんだよ」

それに対して、俺は嗚咽を漏らす。

「ずっとずっと、今でも――3年前からもずっと――その5年前からもずっと、大好きなんだ」

言葉に出すことで俺の本音がどんどん拡張されていく。

そして、感情は大きな波となり、自分を突き動かした。

「ずっと、一緒にいたい・・・」

「誰にも渡したく、ない・・・」

「結婚、しないでほしい・・・」

「ねぇ――俺と、付き合おう・・・?」



「――セックス、しよう?」



俺はそう言いながら、握っていた彼女の手を引っ張り後ろから抱き締めた。

いつの間にか大きくなっていたソレが、彼女の背中に密着する。


「――っ!!」

彼女は言葉にならない声でそう発すると、俺の腕からするりと抜け、その場から立ち上がった。

立ち上がった彼女は、悲しそうな表情をしていた。

俺も、ゆっくり立ち上がりながらこう言った。


「――やっぱり、俺とはしてくれないんだ」

「――彼氏とはしてることなのに」

「――やっぱり、全部嘘だったんだね」

「なぁ・・・」

「――なんで俺とは、してくれないんだよ・・・」

「俺のことも大切なら、どうして俺ともしてくれないんだよぉ・・・!!」


俺は、気付いたら無意識にそう溢していた。


――不安だったのだ。

俺は、ほんとうに彼女の大切な存在だったのか。

彼女がこれから結婚する男と同等くらいに俺も大切な存在になり得ているのか、証明してほしかったんだ。

だから、からだの繋がりを求めた。

セックスで証明してほしかった。

そうしたら、ずっと彼女と友達でいられると思ったんだ。

彼女の男と同等のものが貰えたんだと。

ずっとそれを死ぬまで大事に抱えていけると思ったんだ。

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