第32話 最後の晩餐
俺と彼女は、その後電車で池袋駅から数駅離れた俺の家近くの最寄駅へと移動した。
移動中に鍋の具として白菜、長ネギ、豚肉、豆腐、もちろん鍋の素も買ってあるが、他に何か欲しい物があるかを訊いたら「しらたき」と彼女は答えた。
家に行くまでの途中で駅前のスーパーに寄り、それを買う。
そのついでに「お酒は飲む?」と訊いたら、彼女は「じゃあ、一本だけ」と答えた。
他にも適当に買い漁っていたらそこそこの量の買い物になってしまい、大きな袋を片手に持ちながら俺と彼女は10分程歩いて家を目指した。
「おじゃまします」
彼女は礼儀正しく俺の家の玄関に立ってそう言った。
「狭いし、ちょっと散らかってるかもしれないけど、どうぞゆっくりしてって」
俺はそう言って先に靴を脱いで部屋へと上がった。
「けっこう綺麗にしてるんだね」
彼女は部屋に入ってそうそう、俺の部屋をチェックし始める。
「そりゃ今日お客さんが来るかもしれないから、多少は掃除して整理整頓したよ」
「ふーん。そもそも物があんまりないんだね」
「まあ、そうだね。あんまりごちゃごちゃしてるの好きじゃないんだよ」
「・・・私の部屋のが汚いかも」
彼女はそう言いながら苦笑いした。
「そ、そうなんだ・・・」
俺は、適当に相槌を打つだけにし、聞かなかったことにした。
「鍋の準備してくる」
あれからしばらく二人で何気ない会話をして一通り話をし終わり、彼女がゲームしようと言ってしばらく経った後、俺はそう言いながら立ち上がった。
鍋は、具を切って入れ火をつけて煮さえすれば手間いらずだが、それでも10分程度の準備は必要だ。
「わかった~」
彼女は少し横になりながらそう答える。
俺は買っておいた野菜を冷蔵庫から取り出すとまな板の端っこにそれらを並べ、白菜、長ネギの順に包丁で適度な大きさに切り分けた。
それらをボールにまとめた後、冷蔵庫から豚肉を取り出し、少し油をひいた鍋で炒め、ある程度火を通し終わったら野菜を放り込んだ。
そして、鍋の素を入れて蓋をして、いい感じに煮えるまで待てば完成だ。
「終わったよ」
俺はそう言いながら元いたとこに座る。
「おつかれさま」
彼女は俺の方を首だけ向き直して、そう答えた。
「何してるの?」
「マリカー」
「勝ててる?」
「んー、まあまあかな」
彼女とはメールのやり取りの他に、マリカーや桃鉄などのオンラインゲームをすることが時々あった。
だから、彼女がゲームも好きなことは知っていた。
「俺もやる」
オンラインから2人とCPUだけのオフラインへと切り替える。
そして、コントローラーを手に取り彼女の隣に座った。
別に狙ってやったつもりではないけれど、こんなにも彼女が近くにいることが俄に信じられない。
彼女は今、どんな風に感じているのだろうか?
3年ぶりに会って、少しでもこの状況に緊張してくれているのだろうか?
「やった! 1位!」
彼女は無邪気そうに喜ぶ。
気付いたら第1レースが終了していて、俺は16人中10位という結果で終わった。
それから2~3レース程一緒にゲームをし、「ちょっと鍋見てくる」と俺は立ち上がる。
鍋を確認すると、グツグツと汁が煮え、白菜も色が変わって柔らかそうになっていた。
「鍋もう食べれそうだけど、どうする?」
俺は台所から部屋にいる彼女へ話しかける。
「食べる~」
「おっけー」
俺は鍋の取っ手をタオルを持った手で持ち、部屋へと運ぶ。
途中、湯気と一緒に美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
部屋へと運び、すでにテーブルに待機していた彼女の前で鍋の蓋を取ってみせると、第一声に「わぁ、美味しそう!」と感嘆な声を漏らした。
俺は、事前に彼女に”鍋は何味が好み?”と調査をしていたので、彼女が好きな水炊き鍋にした。
それが功を奏したのか、彼女はとても嬉しそうな笑みをこぼした。
「じゃあ、食べようか」
「うん!」
「「いただきます!」」
二人で手を合わせた。
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