第30話 飴玉
「やっ! 久しぶり!」
「久しぶり! ――ってほぼ毎日メールしてるけどな」
どこかで覚えのある挨拶をお互いに交わして、俺は3年ぶりに彼女と再会した。
「小林くん、少し痩せた?」
彼女は、俺の顔を覗き込みながらそう喋る。
「どうだろ? 家に体重計ないからわかんないや」
下から顔を覗き込んできた彼女に、俺はドキっとする。
久しぶりに彼女の顔を見た。
3年経っても彼女は綺麗だった。
「今日は来てもらってごめん」
「特に大きな意味はないんだけど、ほら――結婚しちゃったらもう会えなくなりそうだったからさ」
「だから、今日は来てくれてありがとう」
俺はあくまで自然にそう話した。
「別にお礼を言われることでも謝られることでもないよ。こっちこそ誘ってくれてありがとう!」
「私も小林くんと遊びたいと思ってたからさ、いいんだよ」
彼女は大袈裟に俺をフォローした。
「――で、今日は何して遊ぶの???」
「そうだな~」
俺は、わざとらしく腕を組んで悩む演技をした。
ほんとうはすでに自分の中で決まっていた。
俺と彼女は池袋駅へと移動した。
当時、鬼滅の刃が流行っていたこともあり、池袋のアニメイトでグッズとか見て回ろうかという話になった。
俺は禰豆子好きで、彼女はカナヲ好きだった。
お互いに1500円程グッズを購入し、ランダム商品だった為開封して何が入っていたのか確認したりとワイワイと楽しんだ。
岩柱の悲鳴嶼行冥が入っていた時だけ明らかにお互いに肩を落とした。
その後、まだしばらく時間もあったので俺と彼女はカラオケへと移動した。
彼女とはもう3回目となるが、お互いに歌うことが好きだった為、自然とそういう流れになった。
なんとなくだが、多分これが彼女との最後のカラオケになるのだろうという気がした。
俺はそこで少しでも彼女に俺の想いが届けばいいなとラブソングを歌った。
特に気持ちを込めて歌ったのはBUMP OF CHICKENの『飴玉の唄』だった。
簡単にこの曲について解説をしよう。
この曲に出てくる人物は”僕"と"君"の二人だけ。
僕は君のことを好意に思っていた。
その僕の好意や想いが歌詞中で『飴玉』と表現されている。
僕はおそらくその『飴玉』を君に幾度となく渡してきたのだろう。
僕にとって『飴玉』は、何億年も遠い昔――両親やおじいちゃん、おばあちゃん、そのまたさらに昔の先祖――紀元前をも昔からの奇跡の積み重ねで誕生したもので、そのくらい君と出会えたことを僕は大切に価値のあるものだと思っていた。
奇跡の積み重ね――それはきっと僕という存在自身もそうだし、君もそうだった。
しかし、君は僕がそう思っていることを露ほども知らない。
君がどう思ってくれていて、感じてくれているのか?――全てを聞けないこと、僕も全ては言えないこと、上手に話せないこと、お互いに表面に出てくる言葉が全てではないこと。
僕は君との繋がりをこんなにも尊いものだと思っているのに、君はどう感じてくれているのだろうか?
同じように感じてくれているかもしれないし、もしかしたら心のどこかでは否定的に思っているかもしれない。
わからない、確認のしようがない。
わからないもの、確認のしようがないもの――それらが僕にとって”見えない神様”だった。
そこで僕ができるたった一つのこと。
それが、"裏切られたくない――だから信じよう"だった。
信じてしまえば裏切られたこともわからなくなるから。
そうやって、その神様全てに勝とう。
僕にとって君がどんなに大切な存在であるか――その想いも君にとってはただの『飴玉』に過ぎないのかもしれないけれど。
時々不安になって、怖くなって、何がほんとうなのかわからなくなるけれど。
限りある君のその最期に触れて、全てに勝とう。
そして、どんなことが起きようとも君と一緒に居続けよう。
『飴玉の唄』とは、そんなラブソングなのだ。
俺は、歌詞に自身の想いをのせて歌った。
思いっきりバラード曲の為、歌い終わった後に少し照れが残る。
「この曲、BUMPで一番好きな曲なんだ」
俺は照れを誤魔化そうと咄嗟にそのように言った。
「うん、いい曲だった」
彼女はそう言い残した。
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